Corpse Hero/ver.0

245 :Corpse Hero/ver.0 ◆9BU3P9Yzo. :2006/02/21(火) 00:56:56

篠宮は息を吐いた。右手に持つ緑の石が、低く唸る。中心には黒い筋。
「やってもうた」脳裏によぎる言葉が空しく響いた。
息を吸うたびにじわじわと毒素が回るようにその石に眼を奪われ、それに比例するように脈拍は乱れた。
───これが…黒の破片の力か。


数日前、東京の撮影の合間。現場に光る石を見つけた篠宮は、導かれるようにそれを手にしていた。
相方の高松に見せれば、「きれいな石やなぁ」なんてノンネイティブな発音で微笑まれた。
手にしたときに、なんとなくわかっていたのだ。これが噂に聞く、『力を持つ石』なのだと。
先輩や周りから噂は耳にしていて、それなりの情報は得ていたつもりだった。だったのだ。
手にした自分の石が、黒に飲まれる前までは。

きっかけは単純すぎて笑えないもの。「もっと露出を」ただ、それだけだったのだ。若手だったら、だれにでもあるような、そんな些細なもの。
しかしそれすらも、黒の破片の動力になるには充分すぎるものだったのだろう。
触れれば崩れてしまうような脆さをもつ石─フィロモープライトというらしい─は、その自ら放つ緑の中に、闇色の光を見せ付けていた。
気づいたのが遅かった。
情報はいくらでも頭にあったのに。
いや、むしろ。
自分が思い描いたように、自分の憧れのあの戦隊物のヒーローのようになれるのだと、
無意識に信じて疑わなかったのに。


「ちっく、しょ…」
フィロモープライトを持つ手は、まるで金縛りにあったかのように開くことはできず、握りこんだその石に、だんだんと思考を
侵されていく。
─奪え。
──壊せ。
───…殺せ。
考えたくない思考に篠宮は激しく頭を振ると、その手を離す事に意識を移した。
左手で押さえ、指をはずそうとする。しかしまるでもともとの形であったかのように、その指は動くことはなく、逆にかざした左手からも生気を奪われる感覚に恐ろしくなり、勢いよく手を引いた。
その刹那、ふいに視界が明るくなる。石の光だと気付いたその時、意識は遠のいた。

+++++++++++++


「篠宮?」
聞きなれた声に眼を開けると、心配そうに覗き込む高松が立っていた。
「こんなところで何してん。風邪でも引いたらしゃれにならんで」
ほら、と差し出された右手に、自分の右手を出す。
「ん」
「何や」
「篠宮、そんな指輪、しとった?」
言われてから自分の右手の人差し指にはめられた指輪を眺めた。緑の石に、それを覆うように装飾された、黒のリング。
その造りのよさになんだか笑いそうになるのを堪えながら、篠宮は立ち上がった。
「してたわ。つか、そないなとこいちいちチェックすんなや」
「見えたから言うただけやろ」
苦笑する相手を見ながら、妙にはっきりする意識を張り巡らせた。…なかなか、悪くない。
「せや」
部屋を出て行こうとした高松が振り返り、まるで悪戯をしかけた子供のような笑顔で篠宮を見た。一度辺りを見回し、そそくさと相手に近づくと、耳元で囁く。
「俺、聞いてもうたんやけど…どうやら、アメザリさん達、『白』らしいで」
『白』という言葉に体の神経が張り付くのがわかった。そして同時に噴出すような闇色の憎悪。
「おまえの石も、なんや正義っぽいような意味やったやん?せやからな、多分、俺のもそっち寄りちゃうかなーて」
へらへらと石を見せ笑う相方にあわせ愛想笑いをすれば、自身の指に光る緑の石が鈍く光るのを感じた。
(壊せ)
(奪え)
(白などすべて)
口に出してしまいたい衝動にかられながら篠宮は笑った。
「せやな。俺らも『白』として頑張れるようにならんと」
嘲笑するように光る指輪を押さえながら、出来るだけ丁寧に、出来るだけ正確に『白』の自分を演じてみせた。
『黒』の中で押さえ込まれた自我に、誰も気づかないうちに、すべてを『壊す』そのときまで、今は、あの憧れ『だった』ヒーローを演じればいい。

明確な意識の中、篠宮は「自分の中の正義」に黒く微笑んだ。
────己の正義に、忠実であれ、と。


248 :Corpse Hero/ver.0 ◆9BU3P9Yzo. :2006/02/21(火) 01:02:09 

篠宮暁 
石:フィロモープライト 
(緑色で高度が低く、脆い石だが心の強さを表す。
未来に焦点を合わせることで、トラブルや辛いことを乗り越える強さを得る) 
能力:一時的に正義感が強くなり、ヒーローになったつもりになる。
発動中は身体能力が上昇し(運動神経が良くなる程度)、自分が持っている力を最大限まで引き出すことが可能。
あくまで"つもり"になるだけなので外見や肉体的には変化がない。 
相手の悪の力が大きい程、石の力は強くなる。 
条件:周りに誰もいない状態でヒーローの変身ポーズをとる(ヒーローっぽいものであればどんなものでもOK) 
発動後は言動や行動が幼くなり、精神的に脆くなる。 


初投下です。 
オジンオズボーン篠宮メインで10カラットメンバーとのお話になります。 
今回は序章として。