愛犬元気


118 名前:“愛犬元気”遅れてきた青年 ◆y7ccA.UenY  投稿日:05/02/27 19:43:19 

冬の夕暮れは早い。
今野が家に帰ると玄関はもう薄暗くなっていた。
家には誰もいないが玄関で愛犬が出迎えてくれる。
−やっぱり冬は肉まんだよな
手に持ったコンビニの袋の中には肉まんが入っている。
今野はふともう一匹の愛犬が出迎えに来ないことに気付く。
昼寝でもしているのだろうかと思いながら靴を脱いで犬用ベッドのある部屋に行くがもぬけの殻だ。
何となく気になってテーブルの上にコンビニの袋を置き、他の部屋を探す。
まさか落ちたのではないかと思い風呂場まで探すがどこにもいない。
今野はだんだん心配になってきた。まさか逃げだしたのだろうか。
その時携帯が鳴り出した。

−この忙しい時に
しかしとりあえず出ることにした。設楽からの電話のようだ。
「プロデューサーですか?」
「…そんな呼び方してたっけ?」
「だってマジキモいマンズのプロデューサーじゃないですか」
「余裕あるね、大事なペットがいなくなったって時に」
「何で知ってるんですか?」
「だって今俺の膝の上にいるもん」
「…何言ってるんですか」
「あ、信じてないね。今声を聞かせてあげるよ。1+1は?」
犬が一声鳴いた。
「おお、賢いねえ」
聞き間違えようの無い愛犬の声だ。今野は思わず愛犬の名前を呼ぶ。
「声だけでわかるの?」
設楽の問いを無視して今野は声を荒げる。
「ちょっとお、何でそんなことするんですか」
「人質っていうか犬質?さすがにうちでは飼えないけど
某犬好き有名芸能人に預かってもらうから。
今野君の所よりいい物が食えるって喜ぶかもよ」
その時鼻にかかったような声で愛犬が鳴くのが聞こえた。
「ん、何だ、うわっ、顔はやめろよ顔は」
どうやら設楽は愛犬に顔を舐められているようだ。
今野は愛犬のあんなに甘えた声をしばらく聞いていない。
大体俺の顔を舐めたことなんて一度も無いじゃないか
今野は設楽に対して激しい嫉妬を覚えた。
簡単に他人に懐く愛犬にも腹が立つ。
設楽が愛犬に対して説得の力を使った事など今野が知るはずも無い。
今野は携帯を握り締めていった。

「何でこんな事するんですか?」
「頼みを聞いて欲しいんだよ」
それは頼みではなく脅迫ではないかと今野は思うが声に出して言う事はできない。
「でも本当かわいいよね、この犬。飼い主に似てなくて」
「ほっといてくださいよ」
今野は吐き捨てるように言った。
「でもあんまりかわいいと絞め殺したくなっちゃうよね。
食べたい程かわいいっていうの?ポシンタンとかいうんだっけ
韓国の犬鍋。あれ、温まりそうだよねえ」
普段なら冗談で聞き流せる言葉のはずだ。
しかし設楽の声にはいつもと違う冷たい響きがあった。
「や…」
今野の口の中は渇いてかすれた声しかでなかった。
受話器の向こうから笑い声が聞こえてきた。
設楽は笑い声を噛み殺しながら言う。
「何マジになってんの。今のなんかエロかったよ。
おい、こらお前また…」
そういいながらまたじゃれあう声が聞こえた。
―こいつは誰だ…
今野にはそのじゃれあう声が遠くに聞こえた。
今野は携帯を握る自分の手がびっしょりと汗をかいているのに気付いた。
いつの間にか部屋の中は暗くなっていた。
「どうすればいいんですか」
「簡単な事だよ…」
テーブルの上の肉まんは冷え切っていた。
121 名前:遅れてきた青年 ◆y7ccA.UenY 投稿日:05/02/27 20:10:16
言い忘れました。
キングオブコメディ黒の布石話、中途半端ですが以上で終わりです。
読んでくださった方ありがとうございました。
 [キングオブコメディ 能力]
 [バナナマン 能力]
※お試し期間中。 ◆cLGv3nh2eAさん「愛犬元気+」に続きます。