愛犬元気+

124 名前:お試し期間中。 ◆cLGv3nh2eA 投稿日:05/02/27 22:32:01
書きかけの話があるのですが、◆y7ccA.UenYさんの話(「愛犬元気」)を読んで即興で書いてみました。


「頼みごとの前に一つ面白い話をしてあげよう」
「面白い話?」
愛犬を人質ならぬ犬質にとられ、気が気ではない今野は急かす様に繰り返した。

「最近君達の事務所の空気がおかしくなった事は、気付いてるね?」
「ええ、まぁ…矢作さんの事ですよね?」
元に戻すのを手伝って欲しいと協力は求められたものの、
その経緯についてははっきりとは教えてもらえずに居た今野は問いに答えつつ尋ね返した。
「…そう、その矢作さんの事についてなんだけど、面白いこと知ってるんだ」
矢作の件について今野が知らされていたと知った設楽はニヤリと口元に笑みを浮かべる。
「実はね…」設楽の意味有り気な間に、
「実は?」今野は待ち切れず急かすように訊ねた。
「矢作さんがああなったのは白いユニットが原因なんだよ」
即興で思いついた嘘。
だが少しの情報しか持たない今野はそれを見破れるはずが無い。
「え?だって、協力してくれって言ってた渡部さんや児嶋さんは白の…」
「そう。君はきっと彼らからこう説明を受けてるはずだ。
白は石を封印する為の良い集団、黒は石の力を私利私欲に使う悪い集団だと」
携帯越しに今野の動揺を感じた設楽は更に嘘を続ける。
「確かに、そんな話は聞きましたよ」
俄かには信じ難い突然の話。混乱による焦りから今野の口調が早くなる。
「そんなのは白の人間が都合の良いように言い換えた嘘さ」


「彼らは石を封印して何をしようとしてると思う?自分達の持っている石以外を全て封印して。
石を持つ者と持たない者の力の差は歴然。
石の力を持つ者は力で力の無い者を支配することが出来る」
もっともらしい事を冷静に説明されて、これが嘘と気付ける者は居ないだろう。
「黒はそれを防ぐ為に石を持つ者を統一し、管理する為の組織なんだ」
「そんな…それじゃあ、渡部さんたちは俺達に嘘をついていたとでも…」
設楽は犬の頭を撫ていた手を止め、机の上に置いてあった己の石を摘み上げる。
「ちょっと本題から離れたね…話を戻そう」
明らかに動揺していると分かる今野の言葉に、設楽は満足げに微笑んでいた。
「矢作さんは…白のやっている本当のことに気付いたんだよ」
真剣な口調とは裏腹に、設楽の表情は笑っている。
「同じ事務所の芸人として、周りの目を覚まさせようとしたんだ」
設楽は手元の石の光を眺めながら、ゆったりとした口調で話し続けた。
「でも君の事務所は殆どが白のユニット。矢作さんは彼らに…」
今野の携帯を握る手に力が篭る。
「嘘だっ!先輩達がそんなことするわけない…そんな話俺は認めない!」

そう簡単に信じられるはずが無かった。あんなにも皆が和気藹々としている事務所内で、
自分達の知らない間にそんなことが起こっていたなんて。
「そして…君達が石を拾ったことを嗅ぎ付けた彼らは、
君達を自分達の側につけるために嘘をついて言い寄った」
能力の仕上げの為、設楽は反論させる隙を与えないように話し続ける。
「そ…んな」無意識に携帯を握る今野の手が震える。
信用していた事務所の先輩から真実を教えてもらえなかった悔しさと、
重大な事がすぐ身近で起きていたのに気付くことのできなかった悔しさ。

「それまで君達を避けていたのは、石を持たない者に便利な石の存在を知られない為」
そんな理不尽なことがあっていいのだろうか。
「嘘…だ」今野は完全に設楽の能力に捕らわれていた。
「そういえば、CUBEの石川君だっけ?」
「…?」皆に避けられていると感じていたとき、
それまで通り普通に接してくれた人物の名前に心の緊張が緩んだ。
「彼は黒いユニットの一員だよ」
「そう…なんですか」
今野の言葉から動揺の色は消えていた。諦めたような、悟ったような静かな口調だった。
さあ、仕上げだ…設楽は心の中でそう呟き、石に力を込める。
設楽の石が強く光を放った。
携帯越しの今野は、目の前に青い光が広がる気がした。
「君モ…黒イユニットニ入ラナイカ?」







「それじゃあ俺はこれで」
落ち着いた様子で電話を切ろうとする今野を、設楽が呼び止めた。
「ちょっと待って。大事な事を忘れてるよ?」
「なんですか?」
「後で犬を返しに行くよ。ちょっと遊んでもらっただけで、本当に何もしてないからね」
「分かりました」
短く返事をした今野が携帯を切る。

設楽は携帯を机の上に置き、膝の上の犬に視線を落とす。
いつの間にか眠っていた犬の背をゆったりと撫で、その感触に眼を細める。
「人間の心ってのは本当に簡単に出来てるんだな…
お前の方がもう少し時間が掛かった気がするよ」
設楽は膝の上で眠る今野の愛犬を起こさぬようそっと手を離し、
「さて、相方のほうはどうなったかな…」
机の上の携帯を手に取ると電話を掛けた。
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