308 : ◆yPCidWtUuM :2006/03/03(金) 23:03:56
97年末の話を落としに参りました。 まだ白のバカルディの話です。 |
309 :バカルディ・ホワイトラム<1> ◆yPCidWtUuM :2006/03/03(金) 23:08:35
「すいませ〜ん!」
どさ回りの営業の帰り道、声をかけてきたのは女二人組。
大きな胸に大きな目。そろって小柄な童顔の女が目の前で笑っている。
見てくれはちょっと可愛い。通りで「普通に」声をかけられたら悪くないかもしれない。
…まあ、俺にはカミさんがいるし、どう考えても「普通」の状況じゃねぇわけだ、今は。
三村は頭の中で状況を整理している…のだが。
正直、それより何よりものすごく気になってしまう部分があったりする。
…こいつらもやっぱり芸人ってくくりだったのか。
三村マサカズ30歳。職業、お笑い芸人。
もうすぐ芸歴も10年という長さになるのに仕事のお寒い我が身のせちがらさよ。
目の前にはグラビアから芸人の領域に身体一つ、いや乳四つで殴り込みに来た女が二人。
寄せた胸だけで一気にスターダムへと駆け上がるパイレーツを遠い目で見る今日この頃。
そんな女たちの明るい笑顔とうらはらに、胸元の鮮やかな赤い石には黒い影がさしている。
それを見ただけでむこうの用事も想像がつくというものだ。
「石、渡してもらいに来ましたぁ」
「…逆ナンってわけじゃねぇんだ、やっぱり」
甘ったるい声が耳に響く、全く最悪だ、女にも襲われるんだからやってられない。
「あー…女と闘うとか、俺、ねぇわ…」
「俺もねぇな、100ねぇ」
ぼそりと嫌そうに呟いた大竹に、三村も同調する。
今をときめくパイレーツの胸の谷間にはそんなに興味ねぇから、おとなしく帰って欲しい。
何でこんな目にあわなきゃなんねーんだ、いい加減にしてくれ。
「「…せーの!」」
そんな我が身の不幸を嘆いている間に、女たちが攻勢に転じてしまった。
赤黒い石は次第に光り始め、二人揃ってあのポーズをとる…ああ、猛烈に嫌な予感。
「「だっちゅーの光線!」」
声があたりに響くとともに、強烈な赤色の光線が放たれる。
だが凄まじい勢いで襲ってきたその光は、透明な壁に当たって霧散した。
よく見ればブラックスターが大竹のジャケットの左ポケットで光っている。
どうやら状況を見て素早く石を使っていたらしい。
勢いに乗った女たちは光線をさらにもう1発、連発してきた。
それはどちらも大竹の「世界」の前に散ったが、大竹と三村の頭には一抹の不安がよぎる。
「…大竹、どんくらいもちそうだ?」
「そんなに長くねぇぞ、俺いま疲れてるし」
「だよな、俺もだ」
「どうすっかな」
「どうすっかってお前…どうしょうもねぇよ」
男二人の会話からは解決策の生まれる気配もない。
しかしこちらからも攻撃をしないことにはどうにもならないと気づき、互いに呼吸を合わせる。
大竹が三村の顔をちらりと見て言うのはおなじみのあの台詞。
「お前ってよく見るとブタみてぇな顔してんな」
「ブタかよ!」
これまたおなじみのツッコミとともに、ピンク色の生きたブタがビュッと飛んでいく。
非常に間抜けな光景ではあるが、当たったら本当に痛いし怪我も免れない技だ。ブタは重い。
パイレーツ二人は慌てて「だっちゅーの光線」で応戦し、ブタと光線が正面衝突して相殺される。
「ブヒィーーー!」と断末魔の叫びが悲しく響き、どこから呼び出されたのか謎なブタは姿を消した。
三村は次のボケを促すように大竹を見たが、大竹は視線を返すだけで言葉をつむがない。
相方が「世界」の維持にかなり疲れているのを見てとった三村は、何かツッこめる物をと探しだす。
しかし、あいにくアスファルトの上には小石一つ見当たらず、徒労に終わった。
その間に、パイレーツも新しい動きを見せる。
好未が肩に下げたカバンの中をさぐり、透明な中に虹色の光のまたたく石をとりだした。
襲撃にむかうにあたって、黒の上層部がこの石を「補助に」と二人に与えたのだ。
『この石を使えば少しなら体力や怪我の回復ができるし、小さな願い事ならかなう』
…そんな風に彼女たちに石を渡した男は話していた。
「…はるか、これ使うよ!」
声とともに、七色の光が石を握ったその手からあふれ出すように広がって、はるかの身体を包んだ。
光線発射に体力を使ったのか肩で息をしていたはるかは、活力を取り戻したように背筋を伸ばす。
それを見た好未ははるかに石を渡し、今度は逆に自らの回復をしてくれるよう頼んだ。
「すごい、効くねこれ」
呟きながらはるかは透明な石を握りこみ、精神を集中させる。
好未のときよりは弱かったが、はるかの手の上の石から放たれた光は、好未の身体を包んだ。
元気を取り戻した女二人は、またも攻勢に回る。
「えーいもう一回…「「だっちゅーの光線!」」
明らかにマズい状況だ。この調子で連発されては確実にブラックスターの限界が遠からずやってくる。
三村の隣で、大竹は光線が発射される度に必死に精神を集中させて「世界」を保っているけれど。
…これは長期戦になりそうだ、最高に分が悪い。
そう思った瞬間、はるかが今度は別の台詞を叫んだ。
「だっちゅーの超音波!」
…何だそれ、もしかして新ネタか?
言葉とともに赤い環状の音波らしきものが飛んでくる。
聞き覚えのないネタに集中力を削られたのか、それとも石の効力が薄れてきたのか。
「世界」を守る透明な壁は完全には機能せず、衝撃が部分的に伝わって耳がキィンと痛んだ。
「くっそ、痛ぇ…」
「…すまん三村、無理、もうぜってぇ無理…ボケとかする暇ねぇ」
「マジかよ!」
だっちゅーの光線…いや超音波恐るべし。この威力をなめてはいけなかった。ここまでとは予想外。
…しっかしホントどうかと思う戦闘風景だな、間抜けなのに追い込まれてるなんて…。
三村は鬱々としてくる気持ちをどうにかおさえようと身体に力を入れる。
とはいえこのままでは何一つ解決しない、何か打開策を考えなければ…。
そんな気持ちで大竹の方を見やれば、額には大粒の汗が浮いている。
少しでも防御するために最大限集中しているんだろう、確かにこの状況でボケを望むのは酷だ。
しかもこういうときに限って道ばたに物は落ちてねぇし。
さすがに電信柱なんて飛ばせねぇぞ、何か小さいもんないのか。
「あーくそ、何か落ちてねぇかな…」
「…おい、アレ」
「あっ!」
大竹の指差した先、道の端のくぼみには、見覚えのある缶が。
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