バカルディ・151プルーフ[12](side:三村)


387 :バカルディ・151プルーフ◆yPCidWtUuM :2006/03/13(月) 21:55:33 

腰を痛めたらしい土田を家に上げてやる。 
あの手紙が置かれていた居間のテーブルに、三人でこしかけた。 

さっきはつい怒りのあまり石の力で土田を吹っ飛ばしてしまったらしい。 
頭が真っ白になっていたので細かい記憶がない。 

犯人と言うべき相手を目の前にしてみたら、やっぱりビックリするほど腹が立った。 
ただ、一度ガーッと怒りが発散されたからか、今はもう正直、少し落ち着いてしまったところだ。 
多分、土田にも黒を選ぶ理由がそれなりにあるのだろう。自分たちがこうなったのと同じように。 
何となくそう感じてしまったので、これ以上責める気にもなれなかった。 


「なあ、黒入ったからって今日からいきなり何かすっげえ変わるとかじゃねぇんだろ?」 


大竹が問うと、土田は首を縦に振る。 


「ええ、まあたまに指令が来たりして面倒ですけど…毎日のように戦闘とか、そういうのは逆にないですから」 
「俺らを襲ってきてたのも、もっと若手の奴らが多かったもんな…ある意味、今までより楽ってことか」 
「そうなりますね…自分の意志で黒を選ぶなら、そう嫌なことばかりでもないと思いますよ、俺はね」 




する前までは禁忌だと思っていた変わり身が、やってみれば意外に大したことでないのだと知る。 
むしろ面倒が減るのだと思えば、それはそれで悪くはないのかもしれなかった。 
ただ、胸に残るわだかまりと妙な後ろめたさだけが、白から黒へと鞍替えした自分をちくりと責める。 


「これでとにかく、お前を通じて黒の連中に俺らが主旨替えしたことは伝わるんだな?」 
「はい、俺が伝えときますんで…明日からは襲われるようなこと、なくなりますよ」 
「…そうか」 


少し安堵したように大竹が小さく息を吐いた。 

そうだな、少し疲れていたかもしれない。毎日のように襲撃を受ける生活には。 
大竹の石の力や俺の石の力、それに虫入り琥珀の力でどうにかここまで怪我もなくすごしてきたけれど。 

…正直に言えば、結構限界が近かったのかもしれない。 
フローライトを指先でもてあそびながら、そんな風に思った。 




「そういえばお前の力って何なの?何か赤と緑の出ただろ、さっき」 
「ああ、俺のは空間移動なんですよ、あれは空間のゲートで…赤ゲートから緑ゲートに移動できるんです」 
「じゃあ空中でゲート出して移動したってことか?」 
「まあそうなります、ただ咄嗟のことだったんで体勢をとりなおせなくて背中から落ちましたけど」 


…なるほど、それで俺の家入れたんだな。 
今の大竹と土田の話から、やっと自分の家への侵入経路が理解できた。 

そういう力の石もあるってことか、あんまり見たことなかったな、
襲ってきた奴はみんな攻撃系ばっかりだったから。 
直接襲撃するなら別にそういう力の奴にやらせる必要ねえもんな。まあ全くその通りの話だ。 

石の力の代償でぐったりと疲れた身体を椅子に沈めて黙ったまま、
そんな風に二人の客人の会話を聞いていると。 
突然電話が大きな音で鳴って、急いで受話器をとった。 


「はい、三村です」 


電話の相手は最愛の妻で、ほっと溜息をつく。 
もうすぐ帰るから、という言葉になぜかとても胸が温かくなって、笑顔で受話器を置いた。