バカルディ・151プルーフ[6](side:大竹)


370 :バカルディ・151プルーフ◆yPCidWtUuM :2006/03/13(月) 21:38:33 

掃除ってのは実のところ、単純作業だ。 

安いフローリングの木目を眼で追って、土を拭きとる。 
その作業を無心にくり返しながら頭の中を片付けていく。 

…三村にきちんと説明できるように、整理していかねぇと。 

俺の言葉を、黙って三村は待っている。 
だから、めんどうだと思っても考えることを放棄したりはしない。 
絡まった糸をほどくように、ひとつひとつ状況を確認して答えを出そうとする。 

まず、何よりも誰よりも、自分自身を落ち着かせる必要がある。 
冷静に、冷静に。三村にできないことは、イコールで俺がやるしかねえことだ。 


誰もいない三村家に、土足で上がり込んで置き手紙を残した連中。 

『大竹さんへ ブラックスターとレインボークォーツを渡して下さい』 

この一見不自然に見える文面は、一言で言うなら「脅し」だ。 
それも、見事に俺たちの弱点を突いた、これ以上ない方法の。 

三村自身はまだ気づいていない。というよりこれでは気づけないだろう。 
それでいいんだ。三村に気づかせることが目的じゃない。奴らの本当の目的は俺に気づかせること。 
そう、俺は気づいてしまった。今、本当に危ないのは三村じゃない。俺でもない。 


…三村の家族、だ。 


ロケのとき、三村は皆の前で家族の話をした。 
今日彼女たちが家をあけていると知っている人物は、あのロケに参加したほぼ全員だ。 
その中に一人や二人、黒の奴がまぎれてたっておかしくはない。 

誰もいないことを知っていて、わざと三村家に入り込んだのは、デモンストレーション。 
「お前の家に入り込むのなんて雑作もない」、そう伝えるための。 
最初から家族のいるときに押し入ったらそれこそ警察沙汰だ。 
「でもいざとなったら自分たちにはそれができる」、そうはっきり脅しにかかってきている。 

『三村さんへ 石を渡して下さい、こちらには貴方の家族を襲うだけの力があります』 
こう書けばわかりやすかったのにそうしなかったのは、目的の石が三村のものでなかったから。 

『三村さんへ 大竹さんの石を渡して下さい、こちらには貴方の家族を襲うだけの力があります』 
こうしなかったってことは、こいつの性格をよくわかってる奴が黒にいるってことだ。 



三村の性格からいって、どう考えても自分の家族のために俺の石を黒に渡せなんて言いだせるはずがない。 
かといってそのままにもできないから、俺に石を自分が預かろうとか言うだけ言ってみるんだろう。 
多分三村のことだから適当な理由なんて思いつかなくて、俺は応じない。 

そのうちこいつがなんでそんなことを言いだしたのかわかれば、俺は今の状況と同じ選択を迫られる。 
でもそれじゃ余計な時間がかかってしまう。てっとり早いやり方が他にあるのにそんなことする必要はない。 

こうやって三村の家に押し入っておいて、俺宛に手紙を書けば話はもっと簡単だ。 
『大竹さんへ 石を渡して下さい』 
これはそのまま、 
『大竹さんへ 石を渡して下さい、こちらには貴方の相方の家族を襲うだけの力があります』 
っていう意味だとしか思えない。 


「なあ三村」 


…最悪だ。何もかもこれを書いたやつの思惑通り。 


「…黒、入ったほうがいいかもしんねぇぞ」 


気づいてしまった以上、俺はこの脅しを決して無視できないんだから。