373 :バカルディ・151プルーフ◆yPCidWtUuM :2006/03/13(月) 21:42:22
「な…に言ってんだよ、お前…」
『黒に入った方がいいかもしれない』?
何でお前がそんなこと言うんだよ。わけわかんねぇよ。
っていうかホント意味わかんねえ、何で?何でだよ!
俺の頭はすっかりパニックを起こし、言葉も何も出てこなくなった。
そんな姿を動じることなく眺めながら、静かに大竹は言う。
「白にいるより、安全かもしれねぇ、多分」
「ふざけんなよ! 俺は絶対嫌だぞ、こんなことする奴ら!」
「じゃあコレやった奴探して復讐でもすっか?」
「いや、そこまですんのは…ああでも目の前に現れたらやるけど、でも…!」
大竹の言葉に一瞬激さずにはいられなかった。
しかし、「復讐」などという言葉は自分の性にあうものではなくて。
かといって大竹の言う通り、すんなり黒に鞍替えするというのも腹に据えかねる。
自分の気持ちを伝える言葉を見つけることができずに、ただ悲痛な思いで大竹を見た。
そんな俺を知ってか知らずか、大竹は諭すように言葉を続ける。
「あのな三村、例えば犯人が目の前に現れて、倒したとすんだろ」
「…おう」
「それで終わりじゃねーんだぞ、コレ」
「え?」
「この先ずっとこーいうの、いや、もっとひでぇこと続くかもわかんねえぞ、白にいる限り」
「…」
「嫁さんとか、ちっちぇーのとか、嫌な目にあうかもしんねえ」
「それは…!」
「お前がそれ、嫌だったら、黒入るしかねぇだろ」
大竹の滅多に見られない真摯な表情に、何も言えなくなる。
こいつが黒に入ることを勧めた理由が、俺の家族にあったなんて。
…愛しい妻と娘。この先彼女たちを危険にさらすような真似は、とても自分にはできない。
だが、本当にそれでいいのだろうか。
この男を、自分の家族のために黒に屈させていいのか。
自分の都合だけで、大竹の進む道を勝手に曲げてしまっていいのか。
何か、大竹に言うべき正しい言葉を探そうと俺は必死になる。
その努力は実を結ぶことなく、何一つ言えないままうつむくしかなかった。
視界に入る足先を見つめていると、大竹はぽつりとこぼす。
「俺は嫌だぞ、お前がそーいうめんどくせぇことになんの」
…バッカ、大竹。そんなくっせぇ台詞、お前アレだろ、言う奴じゃねぇだろ。
心の中でそんなツッコミを入れながら、相方の方をちろりと見てみれば。
言っておいて恥ずかしかったのか、大竹はこちらを見ずにあらぬ方向を向いている。
そんな大竹の姿に少し笑いながらも、呟いた言葉には苦みが走った。
「俺がめんどくせぇ真似、お前にさせちまうじゃねーかよ…」
「…うるっせ!うるっせお前!『させちまう』っとか、言ってんじゃ、ねぇ!言ってんじゃ、ねぇ!」
重くなりそうな俺の言葉を無理矢理切り落とすように、大竹はふざけて言う。
「…二度言うのかよ!しつっこい!」
それにいつものツッコミを入れながら、三村は相方のひねくれ気味の優しさに心から感謝した。
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