バカルディ・ブラックラム(side:大竹)

503 : ◆yPCidWtUuM :2006/04/09(日) 23:29:03
おひさしぶりです。バカルディ→さまぁ〜ずの3部作、最後を落としにきました。
一応2000年末、さまぁ〜ずブレイク直前の設定です。

504 :[バカルディ・ブラックラム(side:大竹)] ◆yPCidWtUuM :2006/04/09(日) 23:30:32 


「冬なのにっ「「さまぁ〜ず!」」 


間抜けな感じの決めポーズ。名前も変わって気持ちも新たに仕事仕事。 
やっと来はじめた波は小さくても逃すな。全て丁寧に乗っていけ。 
これを乗り切って画面に定着しなけりゃなんねぇ。同じ轍は二度踏まないと決めている。 

あれからやっと3年だ。 
三村と話した「アレ」をとる日はまだまだ遠い。 
それでもあの頃から比べれば、少しは近くまで来たんだろう。 

今一つ目の収録を終えて、次に向かう最中だ。 
正月特番の撮りだめは気力と体力がいる。 
斜め前の席からは三村のいびき、アイツの方がピンも多いし、相当疲れてる。 

…そういえばさっき、後輩からもらった飴があったな。元気が出るとかいう。 
思い出して口に放り込んでみる。効いたらあとで三村にもやるか。 

ロケバスに揺られながら目をつぶる。 
だが俺は眠りに入れず、むしろ精神がきゅうっと集中していった。 
まぶたの裏、暗い世界でちらりと光る十字の星。 
じわり、と響く声に耳を傾けた。 



 …よう、お疲れさん 
 『お疲れさん、じゃねえよ』 


笑い含みの声に頭の中でだけ、答えを返す。 
我ながらこれは人には知られたくない習慣だ。 
脳内の会話の相手は、俺のポケットの中の無機物。 
少し前からたまにこうして話しかけてくるようになったのだ。 
ブラックスターに意志があるなんて、思いもよらなかった。 


 思いもよらない、ねえ…お前の相方の石も多分こんなんだと思うぞ 
 『…ぜってぇフローライト、三村似だろ』 
 さあな、けど何だかんだで持ち主と似てるとこあんだよ、俺らは 
 『…めんどくせぇ』 
 ああ俺もめんどくせぇ、気ぃ合うじゃねえか 
 『そうだな、こうやって話しかけてくるくせにお前、特にアレだろ、俺に希望とかねぇしな』 
 んなもんねぇよ、めんどくせぇだろ 
 『そうだな、めんどくせぇわ、大体のことは』 
 でも全部めんどくさいわけじゃねぇよな、俺と違って 
 『…』 


…そうだな、全部じゃねぇよ、俺は。 
お前は全部めんどくせぇのか、んじゃ何で俺に話しかけてんだ? 
わざわざ話しかけるとか、かなりめんどくせぇだろ。 



 お前は全部じゃねぇから、余計めんどくせぇ…でもちっと手ぇかしてやるかっつー気になった 
 『へぇ、そうかよ』 
 んで、今話しかけたのは、だ…お前、後輩からもらったその飴あんだろ 
 『ああ、何か疲れとれるとかいう黒いヤツな、うまくねぇなこれ』 
 俺はそれ、生まれつき効かねぇけど…あんまいいもんじゃねぇからやめとけ 
 『どういうことだ?』 
 相方にやったりすんのもやめろよ、そいつは「黒い欠片」だ、わかるだろ 
 『…これが?』 


舌の上で転がしていた塊に意識をやる。 
飴、のはずのそれは、早くも形態をほとんど失っており、どろりと液状に変形していた。 
「黒い欠片」の存在は知っているが、あまり関わらずにきたのでよく知らないのだ。 
黒に入って回ってきた仕事で、この欠片を自分たちが扱う機会は一切なかった。 
…そう、まるで故意にそれから遠ざけられているかのように。 

途端に気味が悪くなってペッ、とちり紙に吐き出す。 
それは薄い紙の上でさらさらとした小さな結晶のあつまりに姿を変えた。 


 お前を操りてぇって奴がいるのさ、昔もこんなことあっただろ 
 『そういや、黒い粉薬みてぇのもらったこともあんな…気味悪ぃから捨てたけど』 
 これが効かねぇからお前、昔襲われまくったってのに…まだ渡す奴がいるんだな 
 『なんだそりゃ、そうだったのか?』 
 そうだよ、欠片が効かねぇ石はあんまりねぇからな…俺の意志とお前が使う力のせいだ 
 『…攻撃は効かねぇし、許可がなきゃ中には入れねぇ、ってことか』 
 そういうこと、俺は欠片の侵入なんざ許可しねぇ、だから連中は一旦諦めて、お前を仲間に引き込んだ



…それはまた、すっっげぇ、めんどくせぇ話だな。 
あんだけ毎日のように襲われてた理由が今になってわかるっつーのも皮肉なもんだ。 


 俺たちは黒にとっちゃ、厄介なんだ…敵でも味方でも、どっちにしろ支配できねぇ 
 『何だ、俺らがめんどくせぇヤツってことか』 
 その通り、自分の立場ってヤツをよく覚えとけ、そんで使え…お前がめんどくさくねぇモンのために 
 『…りょーかい』 


ブラックスターの声が、遠くなり薄れていく。 
この石と俺はうまくやっている。これからも多分そうだろう。 
ポケットから飴に模した黒い欠片をひっぱりだして、全部捨てた。 

白でも黒でも、めんどくせぇことはそれなりにある。 
みんな、めんどくさくねぇモンのために、めんどくせぇ日常を送るのだ。 
うっすらと開いた目の端っこで、三村は相変わらずだらしねぇツラで爆睡している。 


…まあ、そういう、めんどくせぇ日常。