バカルディ・ゴールド[5](三村)


695 :バカルディ・ゴールド (5):三村 ◆yPCidWtUuM :2006/07/10(月) 23:35:49 

砂の固まったような地に、茶色い木の葉の姿が浮き上がる化石。 
黒の余り物の石だけど、それなりに役には立った。 

攻撃力も高くないし、あまり使えるもんでもないので、下っ端に持たせていたと土田からは聞いている。 
スケープゴートにはもってこいの、地味な石を借りてきたのには理由があったのだ。 


--猿岩石の能力、知ってること全部教えてくれ 
--大竹さんは? 
--いいんだよ、今回は俺一人で行くから 
--…まあ、いいですけどね 


襲撃の前、土田に連絡を取って細かいことを聞いた。 
そのとき、森脇が封印できる石は一度につきひとつだと知って、この作戦を考えついたのだ。 
封印できるのがひとつなら、まず別の石を封印させてしまえばいい。 
これで森脇が封印を解けるようになるまでの10分は自由に攻撃できる。 
見事にハマった作戦に、いたずらが成功した時のような喜びを感じつつ、フローライトをとりだした。 


「ホントの石は、こっちなんだけど」 


…多分、結構悪役っぽく笑えてたんじゃねーかと思う。 
有吉と森脇の顔色がみるみる変わっていくのを見ながら、自分の石を強く握りしめた。 


『キント雲かよっ!』 


ビシリと指差した有吉の足の下の雲は、ピューッとどこかへ飛んでいく。 
有吉はズデン、と漫画のような音を立てて地面に落ちた。 
それを見て真っ青になる森脇と、おかしな格好で地面に落っこちた有吉を見ていたら何か笑えてきた。 
はたから見ればちょっとコントみてぇな状況だろうな、コレ。 

ぐるりと周りを見回す、目についたのは塀の上の黒猫。 
指差すと猫はびくりと肩をいからせる。悪いけどちょっと飛んでくれ。 


『黒い!』 


ブニャーッ!!!と猫は叫びながら転がっている有吉にむかって一直線。 


「ぎゃーーー!」 
『ニャーーー!』 
「うわーーー!」 


有吉の顔面に猫の凄まじい引っ掻きが入り、縦縞がその顔を飾る。 
その猫を有吉から離そうとして今度は森脇が引っ掻かれ、ちょっとした惨事になった。 
なかなかマンガチックな状態だが、実はわりと可哀相だ。 



「い、痛い…」 


赤のペンシルストライプが描かれた顔で、有吉はふらふらと立ち上がる。 
小さくジャンプしたその足の下にはまたも雲が滑り込んできて、キント雲になった。 
森脇もどうにか猫を引きはがし、立ち上がるとその雲をちぎって思いっきり振りかぶって投げてくる。 


『っ、雲かよっ!』 


さすがに疲れてきたが、ここでやられるわけにはいかない。 
投げられた雲の玉にツッコミを入れると、ちょっと噛んだせいかポーンと上に飛んでいく。 
そこにさらにもう一つ雲の玉が飛んできて、
避けようと体勢を変えたところに有吉がキント雲で突撃してきた。 
思いっきり当たられて、後ろにふっ飛ばされる。結構痛いじゃねえかちくしょう。 
倒れた俺の隙を見て、有吉が森脇を連れて雲で逃げようとする。 
…残念、逃がしてやるわけにはいかねえんだよな。 



『たてじまっ!』 


有吉に少し力を込めたツッコミを入れると、その身体がボールのように飛んでいく。 
後方の塀に有吉がたたきつけられ、それと同時に森脇が雲から転げ落ちた。 
有吉は背中をおさえてうなっているが、ぐったりと動かない。森脇もぶつけたところをおさえている。 
とはいえそろそろ俺も限界が近いし、時間もいっぱいだ。ここで決めなければ。 


『…灰色っ』 


有吉の手の中に見えた石に軽ーくツッこむ、その小さな石はひゅっと飛んでいった。 
それを走って追いかけて、拾う。これで有吉の石はいただき。 
もう俺の方も身体が言うことを聞かない。体中がぐったりと重くなる。 


「…森脇、お前は有吉の石がなきゃ闘えねぇだろ、ソレ渡せよ」 


そう声をかけると、森脇は悔しそうに唇を噛んだ。