バトロワ風[9]


598 名前:合流編 現在執筆中 ◆n28wRDMeV2   投稿日:04/09/15 00:15:01

暗い暗い闇の中、小沢は夢を見ていた。
蒼い光が、自分を包んで語りかけてくる。
その語りかけてくる声は、酷く、冷たい声だった。

―モウスグ貴様ハ我ノ物。
―力ト引キ換エニ、一生我ノ物トシテ過ゴスノダ―!
―逃ゲキレナイヨ、我ハ常ニ貴様ト共ニ在ル。

―タトエ、離レヨウトモ『封印』サレナイ限リナ―――

「…お…わ…小…沢さ……小沢さんってば!」
「…ん…?」
薄暗い工場の中、小沢は目を覚ました。
眼を開けると、自分の身体を必死に揺らして、顔を覗き込んでくる相方の姿。
小沢が眼を開けたのを確認すると
「…良かった…凄いうなされてたからどうしたのかと…。…このまま死んじゃうのかと思ったよ。」
と井戸田はほっと胸を撫で下ろして言った。
「…。」
小沢は無言のまま、上体を起そうとした
その途端、小沢の身体の節々に、鋭い痛みが走った。
「―ッ。」
小沢は小さく呻いた。背中と右腕が、異常に痛い。
痛みに耐え、何とか上体を起こすと、井戸田を見た。
「…小沢…大丈夫か?凄いうなされてたけど。」
井戸田は小沢を心配そうに見返しリュックからペットボトルの水を取り出すと
キャップを外して、小沢の目の前に差し出した。

「飲みなよ、小沢…凄く汗かいてるもん。」
小沢は水を受け取ると、コクリ、と一口口に含み、飲んだ。
ふぅ、と小沢は息を吐き出すと、工場の周りを見渡した。
そこには、夥しい量の血の跡や、ドラム缶の吹き飛んだ跡などの凄まじい光景が小沢の眼に飛び込んできた。
「…潤?」
小沢は井戸田を呼んだ。
「ん?」
井戸田は心配そうに、小沢を見る。
「…なんで…あばれの二人は居ない?俺は死んだんじゃなかったの?」
「・・・は?」
小沢の発言に、井戸田は眉を顰めた。
「…お前…もしかして…何も、覚えてない?」
井戸田は小沢に問いかけた。
「…倒れて、何か…声が聞こえて…苦しくなって…熱くなって…
 それから何も覚えてないや…。」
小沢は井戸田を心配そうに見ながら言った。
井戸田はふぅ、とため息を吐くと、少しずつ小沢に説明を始めた。

石が光ってからの小沢の変わりよう、人間離れした力。
あばれの二人を小沢が殺そうとしたこと。
そして、井戸田も殺しそうになったこと。

「…俺が…?」
小沢は信じられないと言った眼で井戸田を見た。
「信じられないかもしれないけど、本当なんだ。」
井戸田は小沢の眼を見返して言う。
「…この石が光ってから、お前は可笑しくなった。
 なんか…もう人じゃないみたいだった。」
井戸田は小沢が持つ石を指差す。
「…この石のせい…?」
小沢は自分が持っていた石を見る。
石は汚い色をしていたが、キラリ、と石が一瞬光って…。

―負ノ力ガ足リナイ…

「…ッ!?」
小沢は持っていた石を思わず手放し、地面に落とした。
石が、突然小沢に語りかけてきたのだ。
「……どうした?」
井戸田が心配そうに小沢を見る。
「…いや…なんでもない。」
小沢は井戸田にこれ以上心配させまいと、平然を装いながら石を拾った。
確かに、今石は言った「負の力が足りない。」と。
「……。」
小沢は石を見てみたが、さっきのようには喋らなかった。

「…気のせい…か…?」
そう呟いて、小沢は石をポケットに収めた。
「兎に角今は休んでろ。…お前に死なれたら、俺が困るんだから。」
そう言って二人とも黙り込んでしまった…
だが、暫くすると

―ドォォォーン…

と、すぐ近くで爆発音が聞こえた。
そして、叫び声
「逃げるなー!出て来いっ!!」
と言う、甲高い声が響いた。

「!?敵?」
小沢は立ち上がると、工場の出口に駆け出した。
「あ!お前っ…危ないって、戻れよ!」
井戸田も急いで追いかける。
外へ出ると、工場の周りに在ったはずの木は殆ど倒れていた
小沢が呆然としていると…

「あ…獲物見つけたでぇ!!」
と、再び甲高い声。小沢が声の方向に振り向くと
そこには須知と木部が居た。
「…スピードワゴンの二人…!須知、あいつらも石持ってるはずやから
 能力何使ってくるかわからん!気ぃつけや!」
木部が叫んだ。
「…ビッキーズ!?…この木も全部あいつらが倒した…?」
井戸田は眼を見開いた。

「能力使わせなければええんやろ?先手必勝!覚悟はええな!?」
須知は飴ちゃんを数個手に取ると、いきなり小沢と井戸田目掛け投げつけた。
飴玉は鋭い光弾となって二人に襲い掛かる
「!?飴が!?」
小沢が叫んだ。

―ドンッ!

地面を抉る、光の弾。
それをなんとか避けきった二人、だが飛び道具など持っていないため避けているだけだった。
「な…飴玉が…!?畜生…どうすんだよ!小沢っ!」
井戸田が逃げながら小沢に尋ねる。
「知らないよッ!とりあえず…逃げなきゃ…。」
小沢はまだ木が残っている森の方向へ駆け出した。
井戸田もそれに続く。
「…おっと、逃がすわけにはいかへん!」
須知がそう叫ぶと、飴玉を木目掛け投げた。

「…!!潤!下がってっ!」
小沢は井戸田に叫んだ。
須知が放った光弾は木に命中し、木はバキバキバキ…と音を立てて二人の目の前に倒れこんできた。
砂埃が舞い、二人の視界を遮った。
「…万事休す、やろ?」
須知はニヤケながら二人の下に近づいてくる。
後方は木に遮られている、前方には飴を持つ須知の姿が…
「…ちっきしょお…。」
井戸田が悔しそうに言った。
「…く…。」
小沢は顔を顰めた。もう、どうすることも出来ないのか、と。
ふと、石を見ると、石が再び煌き、声がした。

―サァ、我ノ「チカラ」ガ必要ダロウ?
―負ノ感情コソ、貴様ヲ満タシ、我ヲ潤ス

その言葉を聞くと同時、小沢の頭が突然痛み出した
「…つっ…!?」
あまりの痛さに小沢は頭を抱えていた。
「…小沢…?」
井戸田が小沢を心配そうに見る
小沢は強く頭を振り、声を拒んだ。
自分が自分じゃ無くなる気がした。
それでも徐々に頭の痛みは痛さを増す

「今や…喰らえっ!」
それを見ていた須知は小沢に狙いを定め、小沢目掛けて飴を投げた。
飴が光弾となって、小沢に襲い掛かる。
「…!!」
小沢は飴に気付き避けようとするが、身体が言う事を利かない。
「…ダメだ…避けられない…。」
そう思った小沢は死を覚悟し、眼を閉じた…その時。

―ボウッ!

と、飴は突然燃え出し、燃え尽きた。
「!?!飴ちゃんが燃えたっ…?」
「…?」
小沢は恐る恐る眼を開けてみる。
すると其処には…
「…早く逃げろ、小沢。」
「小木さん…?」
おぎやはぎの小木の姿が、小沢の目の前にあった。
先ほど、小沢に飴が命中する直前
小木は小沢の前に立ち、右手を前に出し、焔を放ったのである。

「小沢!こっちだ!!」
その隙を突いた井戸田が工場の入り口まで駆け出し、小沢を呼ぶ。
「あ…うん…。」
小沢は小木に少しお辞儀をすると、井戸田の方へ駆け出した。
「…まず、工場に隠れよう…お前、なんかしんどそうな顔してるし。」
井戸田はそう言うと、工場の中に入っていった。
小沢も後に続く。