Blaze&Freeze 4話・激突〜或いは命懸けの闘い〜


214 名前:カンニング編 ◆8Y4t9xw7Nw 投稿日:04/11/18 02:01:14

目を開けていられない程の眩しさに、竹山は思わず目を閉じて腕を前にかざした。
黒ずんだ蒼い光と、鮮やかな紅い光の激突。

――――ジュウ!
熱した鉄板に水滴を落とした時のような、水の蒸発する音が聞こえ、同時に光も収まった。
「・・・・・・!?」
既に、事態の異常性は竹山の理解を遥かに超えている。
恐る恐る目を開いた竹山の視界に映ったのは――――燃え盛る、炎の壁だった。
肌に感じる熱さが、これが夢や幻ではない事を物語っている。
そして、首に掛けているルビーが光と異様な熱気を放っている事が服越しにも分かった。
慌てて、シャツの中からそれを引っ張り出す。深紅のルビーは、いつも以上に輝きを増し澄んだ光を放っていた。
「まさか、この石が・・・・・・?」

やがて炎は風に流されるように消え、遮られていたその向こう側が視界に入る。
さっきまで蹲っていたはずの中島は、立ち上がってこちらをじっと見ていた。
能面のような無表情と、舞台照明が落ちたあの時のような、冷たい目。
それは普段の中島なら決して見せる事の無い、氷のような目だった。
射抜くような視線に竹山が後ずさるより早く、中島が地面を強く地面を蹴って距離を詰める。

――――びきん!
その拳が瞬く間に氷に覆われ、鋭く太い杭と化した。
「っ!」
その危険さを本能的に感じ取り、竹山は横に飛び退いた。
中島の上着の胸ポケットで何かが蒼く光っているのに気付き、眉を顰める。
空振った氷の拳が、木製の机を二つに叩き割った。まともに食らえば身体に大穴が開きかねないだろう。
それを見ながらも、手が凍傷になったりしないのだろうかと呑気な事を一瞬考えた自分に、心の中で苦笑する。
どこからどう見ても異常な事態の中、自分でも驚く程あっさりとこの現実を認めている自分が居た。
この様子だと、恐らく普通の攻撃では歯が立たない。
相方を傷付けるのは気が進まないが、命の危険に晒されてそんな事は言っていられなかった。
背筋に悪寒が走るのを感じながら、竹山は胸元のルビーに手を触れる。
普通ではない力を持っているであろう、深紅の宝石。そして、恐らくは中島の異変の原因と、同質のもの。
この石に宿った力も、今は自然に受け入れられる気がした。いや、受け入れなければいけない状況なのだ、今は。
その瞬間、唐突に何かを理解出来た気がした。
言葉では言い表せない何か・・・・・・きっとそれは、与えられた力を自分の意思で操る方法。
脳裏に炎のイメージを描きながら、何かを振り払うように右腕を動かす。
不思議と、「何も起こらない」という可能性は思い浮かばなかった。

ゴォッ
鮮やかな紅い炎が、周りの空気を熱しながら一直線に飛ぶ。
緩慢な動きで振り向いた中島は、それを避けるでもなく左手を前にかざした。
凍り付いた空気中の水分が一箇所に集まって瞬時に氷の塊となり、紅く燃える炎を迎え撃つ。
ジュウッ!
再び水分が蒸発していく音が響くとともに、氷も炎も掻き消えた。
(相打ち、か?)
次の瞬間、煙幕のように広かる蒸気を切り裂くように飛び出してきた中島は、
相変わらずの無表情で氷の拳を振りかぶった。
その拳を、後ろに跳んで間一髪で避ける。
だが、体勢を整えて着地しようとした竹山を待ち構えていたのは、投げ付けられた氷の刃だった。

「!」
咄嗟に身体を捻ってかわしたが、そのせいで体勢が崩れた竹山はろくに受身も取れず床に叩き付けられる。
「ぐっ・・・・・・!」
本当なら痛みにのた打ち回りたいところだが、今の状況はそれを許してくれない。
痛みを堪えて立ち上がった竹山は、続けざまに襲ってきた中島の拳をかわすと、その足を思い切り蹴り飛ばした。
「っ!」
微かに顔を歪め、中島がよろめく。
その隙に何とか距離を離すと、竹山は肩で息をしながらずり落ちた眼鏡を上げた。
足を押さえたもののそれ程ダメージを受けた様子が無い中島に、軽く舌打ちをする。
炎を飛ばしても、氷の壁で相打ちにされてしまうだろう。それに、こちらの体力の限界もある。
このまま、ただ攻撃を避け続けているわけにもいかない。
しかし、唯一思い付いた対抗手段はかなりの危険を伴っていた。

(でも・・・・・・それしかない)
一瞬の逡巡の後覚悟を決め、竹山は右手を握り締めた。その拳を、一瞬にして炎が包み込む。
間近で炎に炙られた肌が熱湯に浸けたように熱かったが、泣き言は言っていられない。
普通ならば腕が焼け落ちても不思議ではない状態でその程度の熱さで済んでいるのは、
ルビーの持つ力のおかげなのだから。
竹山は自分の方へ向かってくる中島を迎え撃つように、渾身の力を込めて拳を繰り出した。
氷の杭と化した拳と、炎に包まれた拳が、真正面から激突する。

――――その瞬間、蒸気の白に染まった風が狭い控え室の中を吹き荒れ、2人の姿を掻き消した。


 [カンニング 能力]