コール [2]

159 : ◆BKxUaVfiSA :2005/08/30(火) 18:03:21

「な…何だこれ…」
大木は首を傾げた。
紙には見知らぬ横文字が殴り書きで書かれてあった。指でなぞりながら一字一字ゆっくり読んでいく。               
「うー…汚くて読めねえよ…えーっと…せ、ら、ふぃ、な、い、と…“セラフィナイト”…?意味わかんね」
何となく可愛らしい響きの、聞いたこと無いようでどこか聞いたことがある名前。宝石か何かの名前なのだろうか。
何にせよ少し声に出して読むのが恥ずかしい。

言い終わった途端、大木の目の前に転がっていた石が緑色の光を放ち始めた。
石を拾いかけていた男達はそのまばゆい光に目が眩み、石を取り落とす。
石の光が消えると同時に、ひゅるるる…という風の音がして、木の葉がくるくると舞った。
そして、大木の背後から聞こえた、明るい声。

「堀内ケン、あ、参上〜っ!しゃきーん!!」

3人の視線が、一点に集中する。
あの茶髪の男―――ネプチューン堀内健の姿が、そこにあった。
「え〜何何?もうピンチになっちまったワケ?だっらしねーなあ!」
「…はあ、すみません」
堀内は大木の腕を引っ張り、身体を起こさせた。落ちているリュックも拾ってやる。
「な、何で堀内さんが…」
男達は意外すぎる人物の登場に声が上ずっている。
「じゃあ、ちゃっちゃと終わらせよーぜ。この後収録なんだよ。泰造と潤ちゃん待たしてっからさぁ」
くるりと男達の方へと向き直り、小馬鹿にしたような口調で挑発する。

そしてまんまとその挑発に乗った血気盛んな若手は、相方と思われる男の制止を振り切り、目の前の大物先輩に向けてその赤い光線を放った。


常人より遙かに運動神経の良い堀内は身体を器用に折り曲げて光線を交わす。だがその光線は大木のときと同じようにぐにゃりと反転し、再び堀内に向かって襲いかかってきた。
それに気付かない堀内に大木が声を荒げる。
「ちょ、堀内さん、後ろ!」
「お、何ボンス。“志村後ろ!”みたいなこと言っちゃって。……ありゃ」
堀内の唇が「やべっ」と動いたのを大木ははっきりと見た。
「“やばい”ってアンタ…」
その瞬間、真っ赤な光が堀内を包み込んだ。

あまりにもあっけなさ過ぎる展開に、大木はもちろん、光線を放った男も目を丸くしている。だが直ぐにそれは笑みに変わった。
「驚かせやがって!やっぱり堀内さんは原田さん達が居ないとてんで使えませんね!」

「ふ〜ん?何の話してんの〜?俺にも教えてくれねえ?」
「えっ…」
背後に人の気配を感じた時には、もうすでに堀内が小泣き爺の如く男の背中に負ぶさるようにのしかかっていた。
隣では相方が口を開けて固まったまま突っ立っている。
男は堀内の重さによろけてうつ伏せに倒れ込んだ。堀内は男の頭をこんこんと叩く。
「良いね〜その台詞。久しぶりに本気で頭に来たかもよ?」
段々と声が低くなってくる。どうやら本気で怒ってしまったようだ。
「こ、の…!」
相方の男が木材を横に振り回し、堀内の頭を狙った。確実に避けることの出来ない間合いだった。だが、
「くそっ……また…!?」
振り切った木材は宙を切った。同時に、堀内に乗っかられていた男の背が急にふっ、と軽くなる。
「何だよ!何が起こったんだ!」
慌てて男が起きあがり、相方に詰め寄った。
「消えたんだよ…一瞬で」
「消えたって…」
「まるで…風みたいに、ふわっと…」

顔を青くして会話をする男達を、大木は少し離れたブロック塀から覗き込んでいた。
今までくりぃむしちゅーや川島が言っていたことは、ただの冗談だと思っていたのだが。
目の前でこんな光景を見せつけられてしまっては、認めざるを得なくなってしまった。

「つーか堀内さん、どこ行ったんだ?」
ぽつりと呟く。
すると、背後からひゅるるる…と緩やかな旋風が巻き起こり、その中央からふわりと音もなく堀内が現れた。
それに気付かない大木にそろそろと近寄り、思い切り肩を叩いてやる。
「わーっ!!」
心臓が飛び上がり無意識に叫び声が出る。堀内は自分と大木の口元に人差し指を当て、笑いを堪えながら(しーっ)と言った。
「いぇいっ!、どう?かっけぇだろ俺!忍者みてーだろ!」
「忍者って言うよりお化けですね」
「まあとにかく!」
堀内は大木の眼前に手を突き出す。
「お前に怪我させた奴らを許すわけにはいかねー。俺も何か馬鹿にされたし。一発くらい殴っても文句言われねーだろ」
「でもあいつのビームみたいなの追いかけてくるんですよ?」
大木の言葉を無視してぱきぱきと肩を鳴らし、

「さあ、駆け出し若手君の前座は終了でーす。そろそろ本番行っちゃいましょー、3秒前〜、2、1…」

口元に手を当て、芝居がかった口調で聞こえよがしに叫ぶ。
ゼロ。
そう言ったと同時に堀内の身体に一瞬、テレビがぶれた時のように青黒っぽい影が掛かる。
そして一秒も経たない内に姿が完全に消えた。
「いくら追いかけて来るビームでもさぁ、当たんなかったら意味ねぇよな〜」
わざと遠くに堀内が現れると男が光線を放つ。
光線はしつこく堀内を追いかけ回すが毎回ぎりぎりの所で堀内は消え、倉庫の屋根の上など様々な場所に姿を出す。
「あー疲れた。そろそろ終わりにすっか。…っとその前に、痛い目に会ってもらうぜ」
「えっ…うわあ!」
「ボンスの仇、覚悟っ!」
あろう事か男達の頭上に現れた堀内は、重力に任せて二人の身体をどすんっと地面に叩き伏せた。
「ごめーん、痛かった?不意打ちには注意しねえと」
けたけた笑いながら、気絶して起きあがれない男達の上から一瞬で大木の隣へ移動する。

「…瞬間移動?」
大木が言った。
「そっ。もう気付いてると思うけど、これ全部石の力だから」
「堀内さんの瞬間移動も、あの若手の光線も?…じゃあ俺は…」
「お前のはそのー…あれだ。“呼び寄せ”ってやつ。お前紙読んだろ?セラフィナイトって。俺の石の名前だよ。“天使のお守り”だって。かーいいだろ」
堀内は鼻の下を擦りながら胸を張った。
少し違和感はあるが、まさに「永遠の中2」の彼にはうってつけの石かもしれない。
「魔法みたいですね…」
「マホー?そんな綺麗なもんじゃねーって。まあ詳しいことはそのうち話していくから」
すると、大木の石が光り始めた。
「え、なんか光ってますよ?」

「あー残念、時間切れだ。じゃあ俺、泰造と潤ちゃんのとこ戻るから。シュワッチ!」
石がぱっと強く光ると、堀内の姿も完全に消えた。辺りを見渡してみたが、堀内の声は聞こえない。今度は瞬間移動したわけでは無いようだ。
「…ああ〜何か分かんないけど、これから大変そう…」
大木は夕焼けの空を見上げて、ふーっと溜息をつくのだった。

end
堀内健(ネプチューン)
石:セラフィナイト [羽のような模様がある。黄緑+白]
能力:瞬間移動。半径100メートル以内の空間ならどこでも移動可能。
条件:一瞬で移動するので長い間姿を消しておくことは出来ない。
   連続で使えるが、使うたびに移動範囲が狭まる。
   自分以外の物も瞬間移動させられる。
 [ビビる大木 能力]