千原兄弟短編

542 : ◆wftYYG5GqE :2007/07/08(日) 21:03:32

「ほんま、迷惑な奴らやな」
完全に気を失い倒れている二人の若手芸人たちを見ながら、一人の男がつぶやいた。


不思議な力を秘めた石なんて、自分には縁の無い話だ。
以前はそのように考えていた千原ジュニアこと千原浩史だったが、
ほんの一月ほど前に石を手にしてから、あっという間に石による争いに巻き込まれてしまった。

それからは、名前も知らない若手芸人達に襲撃される事が多くなった。
彼らは、突然襲撃してきた事から、全員黒側の芸人だったと思う。
幸い浩史の石―チューライトは戦闘に適したものだったので、その都度、返り討ちにしていた。
今も、彼の石を奪おうとした若手芸人を倒したところである。


「あー…しんど」
石を使ったことによる疲労を覚えつつ、浩史は家路に着いた。


数日後、ルミネtheよしもとの楽屋にて。
楽屋には、浩史の他に、相方であり兄である千原靖史がいた。
浩史はふと靖史のほうへ目をやった。
靖史は、何やら熱心な様子でコンパクトミラーを覗き込んでいる。
「靖史お前、なに鏡なんか見とんねん。ブサイクな顔しとるくせに」
「ブサイクは余計や!…別にええがな」
浩史は「ふーん」と生返事をし、特に気に留めない事にした。


舞台が終わった後、浩史はいきなり誰かに呼び止められた。
見ると、プライベートでも仲の良い後輩がそこにいた。
「これからジュニアさんの家に行ってもいいですか?」
「ええけど…どないしたん?急に」
「ちょっと相談したい事がありまして…」


その後、浩史は、その後輩を連れて、自宅へと向かった。
相手の緊張をほぐそうと、酒を振る舞ったりもしたが、
相手は、なかなか話を切り出そうとしない。
「なんか今日のお前、おかしいで。何かあったん?」
すると、後輩は、ようやく話し出した。
「石を……貸してくれませんか?」


浩史は嫌な予感がした。以前も、このような事があったのだ。
「何でお前に石貸さなあかんねん」
浩史は後輩の申し出を断ったが、後輩はなお「本当に少しだけでいいんです!」と、しつこく頼んでくる。
これには浩史もさすがにイライラした。そして、とうとうブチ切れてしまった。
「あーー!もう、何やねん!お前もう帰れ!!」
すると後輩は黙り込んだ。そして、
「ジュニアさん……。…すいません!」
後輩は、いきなり浩史に襲いかかってきた。
(…こいつも黒側かいな。うっとうしいわー)
浩史は舌打ちをしつつも、精神を集中し始めた。ポケットの中のチューライトが光り出す。
そして、後輩の攻撃をぎりぎりで交わし、逆に相手の顎にパンチを喰らわせたのだった。


殴られた後輩は、そのまま床に尻餅をついた。
その拍子に、彼の懐から黒いガラス片のようなものがこぼれ落ちた。
「黒い…欠片?」
以前噂で聞いたことがあったが、実物を見るのは初めてだった。
「これは…えーと、ある人が貸してくれて…それで、えっと」
後輩は、かなりしどろもどろな様子で答えた。
「それでそいつが『俺の石奪って来い』って言うたんか?」
「……」
「誰の指示でやったんや!言うてみい!」
後輩は、ほとんど泣きそうな表情を浮かべ、こう答えたのだった。
「…せ、靖史さんです……」


浩史は、ひとまず後輩を帰らせた。黒い欠片は、ゴミ箱に捨てた。
後輩の前では平静を装っていた浩史だったが、内心、かなり動揺していた。
(…まさか靖史が、俺を襲わせただなんて。ひょっとしたら、あいつ……)
その時、浩史の携帯電話が鳴った。番号を確認したが、見たことの無いものだった。
「はい」
『おージュニアか!俺や!』
「靖史!?お前、何で俺の番号…」
彼らは、プライベートではお互いの携帯番号さえ知らなかったのだ。
『マネージャーから聞いといたわ。それより、さっき家で後輩に襲われたやろ?』
「!」
『今から劇場近くのファミレスに来い。そこで色々と話がある』
じゃー後でな、と言うと、靖史は一方的に電話を切った。
ひょっとしたらワナかも知れない。しかし、今あった事を靖史から聞き出さなければならない。
(…まあ、襲われそうになったら石の力使えばええか)
浩史は、ファミレスへと向かった。


ファミレスには、既に靖史の姿があった。
浩史は、靖史の向かいの席へ座った。
「…一体何のつもりや。後輩使って俺を襲わして。あと何でお前、俺の様子知っとんねん」
浩史は、靖史を睨みつけながら言った。
「とりあえず落ち着け。順番に説明するわ。
まず理由やけど、単純にお前の石が欲しかっただけや。
あの後輩使ったのは、仲のええ芸人のほうがお前が油断するかと思ったけど、失敗してもうたわ」
「な…!?」
浩史は耳を疑った。やはり、靖史は……
「……黒側の人間か」
「おう」

「…何で、黒に入ったりしたんや!」
浩史は興奮して声を荒げた。
「…まあ、黒のほうが色々と面白そうやったからな」
浩史は、靖史がほんの少し悲しそうな表情を浮かべた事に気付いた。
今の質問は、聞いてはいけない事だったかもしれない。
浩史はひとまず落ち着いて、次の質問をした。
「じゃあ、俺の様子知っとったのは…」
「ああ、それな、俺の石の力や。
俺の石な、『こいつの様子が見たい』って思った奴を、鏡で見れんねん。
普段は黒の若手の様子とか見とるけど、今日はお前の事を見とったわけや」
「そーいう事か」
浩史は、ルミネにいた時の靖史の行動を思い出していた。
他にも、靖史は黒ユニットについてを事細かに説明した。


「ところでお前…黒に入る気無いんか?」
いきなり、靖史が尋ねてきた。
「入るわけないやろ」
浩史は、うんざりしながら答えた。
「しゃーない。今日のところは見逃したるわ。お前の石もいらん。
もし黒に入りたくなったら、いつでも俺に言え」
「…誰が言うか。ボケ」

「じゃー俺は帰るわ」
そう言うと、靖史は立ち上がった。
「待て。最後に、もう一つ聞きたい事があるわ」
「ん?何や?」
「…何で俺に黒の事色々と説明したんや」
「お前、白に付くつもりも無いやろ。だからや」
図星であった。実際、白と黒のユニットの争いには興味が無かったのだ。
(さすが昔から俺の事見とるだけあるわ…)
浩史は、若干呆れてしまった。
「せいぜい、他の黒の芸人には気ぃ付けや」
そして靖史は、ファミレスを後にした。


翌日、浩史は家で煙草を吸っていた。
昨日あった様々な事を、ぼんやりと思い返しながら。
浩史にとって、最も身近な人間が黒だった。
もう今までと同じようにはいられないだろう。靖史が、吉本の後輩をけしかける事がまたあるかもしれない。
(…ったく、しょーもない兄貴やな)
それでも、白側に付いて戦うつもりは全く無い。
靖史の事は、必ず自分でケリを付ける。相方として。弟として。
そんな事を思いながら、浩史は、二本目の煙草に火を点けた。

549 : ◆wftYYG5GqE :2007/07/08(日) 21:09:25
千原せいじ
石:ブロンザイト(偏見の無い公正な洞察力)
能力:持ち主が今様子を見たい物(人・動物・物)の様子を鏡に映す。
その物が居る(ある)場所までは分からないが、近くだと鮮明に、遠くだとぼやけて映る。
条件:持ち主が鏡の近くにいて、「○○の様子を見たい」と念じなければならず、
念じる力が大きければ広範囲が見れるが、疲労も大きくなる。

千原ジュニア
石:チューライト(霊的な感性に恵まれて、直観力、洞察力を高めるとされる)
能力:反射神経が数倍になり、相手の攻撃を避けやすくなってカウンターが出来るようになる。
条件:神経を研ぎ澄まさなければならない。研ぎ澄ますまでは無防備。
疲労が大きいため、1日10回出せればいいところ。(その日の体調で回数が減ったりする)