Black Coral & White Coral [1]


117 名前:“Black Coral & White Coral”  ◆ekt663D/rE 投稿日:04/11/12 04:30:11

これも世に蔓延する不況のあおりの一つなのだろうか。
解体されるでも改装されるでもなく、ただひたすらに放置された廃工場。
入口は封鎖されていても、脇の塀には穴が空いており、真っ昼間から軽々と敷地に足を踏み入れる事ができて。
薄暗い内部は地元の若い連中の溜まり場にでもなっているのか、壁面は鮮やかなアートや
昔懐かしい○○参上!などのペイント文字で彩られている。

その中で、所々に空いた天井の穴から工場内に差しこむ光が人影を浮かび上がらせた。
見るからに長身のそれは光源から考えると不自然な闇を身に纏いながら、どこか険しい表情を浮かべている。

――もしも、人が。100%の善人と100%の悪人の2種類しかいなかったなら。
僕らはもっと楽に生きられただろうか。




「・・・赤岡くん。」
背後から呼び掛けられ、男・・・赤岡は声のした方へゆっくりと振り返る。
「一体何を考えてるのかな。話があるからちょっと付いてきて下さいって言ったちょっとにしては、
 随分事務所から歩かされた気がするけど。」
憮然とした様子で赤岡に告げるのは、小沢。わざとらしく両太股を手で叩いたりしているが、
行き先も聞かされないままいきなり十数分ほど歩かされれば、こんな態度になるのも当然だろうか。
「そう・・・ですかね。」
小沢の感情が明らかに表情に出ているにもかかわらず、赤岡はそれをサラリと受け流すとフゥと息を付いた。
「まぁ、ここまで来れば、さすがにまわりを気にする事なく話もできるかと思いまして。」
「・・・話?」
「そうですね・・・例えば、さっき小沢さんが事務所で調べようとしてた事、とか?」
淡々と言葉を紡ぐ赤岡に、小沢の表情がピクッと変化する。

午前中に一本取材を片付けた後、小沢が・・・いや、小沢と井戸田、スピードワゴンが
事務所に現れたのは、別にイレギュラーな事でもなく、スケジュール通りの行動であった。
後々の仕事についての軽い打ち合わせを終え、夕方のライブまで自由の身となった井戸田は
稽古場にいるという野村にちょっかいを出すべくそちらに向かったのだったけれど。
小沢は稽古場に顔を出さずにあるマネージャーと会えないかどうか、近くのスタッフに訊ねて
話を付けようとしていたのだ。

そのマネージャーとは、彼らスピードワゴンに虫入り琥珀を見せに来たあの人物。
力ある石について知っている彼なら、何故琥珀が号泣の手にあるのかを聞く事もできるかもしれない。
そう思っての小沢の行動だったのだけれど。
彼がつかまるより早く、赤岡が小沢を呼び出して、こうして今に至ると言う次第だった訳で。

「何で今更・・・あの琥珀なんかに興味を持ったんです?」
「別に。ただ・・・あれは危険な石だからね。ちゃんと管理されてるのか、気になったから。」
いきなり内角ストレートというのも何だろう、と小沢は一旦アウトコース寄りに言葉を返す。
とはいえ、決してそれは出任せではなかった。
あの夜、芝公園で向かい合った彼ら・・・島田が持っていたあの虫入り琥珀が、
事務所で保管されていた虫入り琥珀とは別のルートから彼らの元にまわってきた石で無いとも言い切れない。
そこの辺りの確認もしておきたかったのは、小沢の本心である。

「・・・余所の石の事まで気に掛けるなんて、良い人なんですね。小沢さんは。」
赤岡の首に掛かるネックレスのヘッドで、黒珊瑚が微かに揺れている。
「二つも三つもあんな石がゴロゴロしてたら・・・厭だからね。」
「・・・・・・・・・・・・。」
小沢の言葉を受けて、赤岡の表情に僅かな陰りが生じた。
・・・そろそろ勘づいたか。ポケットの中のアパタイトを確認するように生地の上から触れて小沢は言う。

「悪いけど、僕は忘れてないよ。君達が、あの晩・・・僕らに何をしたかを。」
穏やかに告げる小沢の言葉は、水面の波紋が広がるが如く周囲へと拡がっていく。
鼓膜を振るわす声に、赤岡は一瞬だけ苦々しげな眼差しを小沢に向けたが、すぐに諦めたように吐息をついた。

「初めてですね。あの琥珀の力が作用しなかった人は。」
何かしら立ち向かってくるかと予想して身構えた小沢からすれば、拍子抜けするぐらいにあっさりした態度で
赤岡は小沢に言うと、煙草を取り出して一本口にくわえる。
ライターを取り出す代わりに指先を先端に近づければ黒珊瑚が瞬いて、
赤岡の指先に生じた小さな青い火の玉が煙草に火を灯した。

「あの晩の続きになるけれど・・・あの琥珀やその石を使って、赤岡くん達は何がしたいんだ?」
数歩、赤岡の方へと歩み寄って小沢は問う。
「他の関係ない人達も巻き込んで・・・心は痛まないの?」
「・・・・・・痛い、ですよ。」
紫煙を吐き出し、赤岡はボソリと小沢に答えた。

「だったら、何で!」
「強く、なりたいんです。ならなきゃ、いけないんです!」
飄々とした普段の彼にしては珍しい、感情を押し殺したような調子で言い放つ赤岡の首元で。
黒珊瑚は所有者とは逆に感情を爆発させるかのように漆黒の光を散らし、
赤岡の長身を照らす日の光を一瞬だけ遮った。
石は所有者の感情や精神状況を反映する傾向がある。赤岡の本心は黒珊瑚が示した通りなのだろう。

「小沢さんもわかりますよね。力ある石を持ってしまったが為に・・・毎日追い回されたり狙われたり。
 本当は、そんな事している場合じゃないのに。戦いたくなんかないのに。」
「・・・・・・・・・・・・。」
そんな自らの内なる激昂に気付いたのか、平静さを見せるようにゆっくりと赤岡は言葉を続ける。
「だからといって・・・僕の石と島田の石を一緒に封じてもらえるかといえば、それは難しい、でしょう?」
確かに力持つ石を巡る戦いが起こるのは、自分が石を持っているから。
石を封じてその記憶を捨てれば、運悪く巻き込まれさえしなければもう石の戦いと鉢合う事はないだろう。
無理に力を求める必要もない。けれど。
「僕の石はともかく・・・あいつの石を封じるほど、『白』が馬鹿だとは思えませんからね。」
普段よりもずっと饒舌な赤岡を見上げながら、小沢は島田が持つ白珊瑚の力を思い出す。
負の感情に濁った石を浄化する光を放つ、石。もしその光が『黒』に汚染された石にも有効ならば。
白のユニット側からすればそれをむざむざ封じる訳には行かないのは道理だろう。
「何で、こんな面倒くさい石とぶつかってしまったんでしょうね。僕らは。」
深く溜息を付き、赤岡はくわえていた煙草をその中程までしか吸っていないにも関わらず、捨てた。

確かに赤岡の言いたい事は小沢にもわからなくもない。
黒のユニット側に付くのは論外としても、白のユニット側に入った所で、二人は戦いから逃れられないのだ。
むしろ白のユニット側に与する事で、戦いの最前線に駆り出されてしまう可能性だってあるだろう。
それならば、どちらにも属さず己の力だけで最低限の戦いを潜り抜けていくしかなさそうで。
その為には、どうしても強い力が必要になる。

「だからといって・・・関係ない芸人に石を渡して暴走させたりするなんて・・・それはやりすぎだと思う。」
「・・・でしょう、ね。」
小沢が絞り出した言葉に、赤岡は否定はしませんし、だからといって止めるつもりもないですが、と静かに応じた。
「でも、あいつに小沢さん達を襲うように言ったのは、二人なら・・・スピードワゴンさんなら
 あいつの事も何とかしてくれる、悪いようにはしないだろうって信じてたから。なんですよ。」
「そんな信頼、してくれなくて良い。」
その言葉のどこまでが本気でどこからが冗談なのかが瞬時に判断できず、ムスッと言い返す小沢に
赤岡のポーカーフェイスが崩れて苦笑じみた笑みが僅かに浮かんだ。

あの芝公園の時と同じ、石にまつわる話をしているにもかかわらず。
赤岡の纏う雰囲気はあの時よりも和らいでいて、言葉や態度に悪役めいた調子は感じられない。
小沢に琥珀の副作用が通用しない事から開き直ったのか、他に何か理由があるのかは
さすがに小沢にもわからないけれど。
「しかし・・・随分と今日は素直だね。」
「・・・でしょうか。」
まだ唇を尖らせながらではあったが、ふと小沢の口からこぼれた言葉に赤岡は不思議そうに小首を傾げる。
「もしかしたら、ここのせいかも知れませんね。」
「この、工場の?」
「ええ。色々と縁のある場所なんですよ。」
良くも、悪くもね・・・そう付け加えるように呟いた、赤岡の目がにわかに見開かれた。
彼の目線は小沢ではなく、その背後へと向けられている。

「初めて自分の石を使ったのも、島田くんの石が目覚めてしまったのも、ここだった。・・・そうでしょ?」

ザリ、とコンクリートの破片を踏む音が聞こえ、続いて響く声に小沢の表情も変わる。
石の事を口にしているというならば、彼の背後にいるのは力を持つ石に関わっている人間なのであろう。
けれど、石やその所有者の気配を敏感に感じ取れる筈の小沢にも関わらず、
声がするまでまったく相手に気付く事ができなかった。その事への驚きよりも。

「・・・設楽、さん?」
呆然と赤岡が口にした、固有名詞。
聞き慣れたバナナマン設楽の声が聞こえた事に、小沢はまず驚かされていた。



122 名前:“Black Coral & White Coral”  ◆ekt663D/rE  メェル:sage 投稿日:04/11/12 05:00:15
 前の話を書き終わって2週間でまた投下し始めている辺り、 
 本当にこらえ性のない駄目人間丸出しですが。 
 コードネームは030!な感じで今度もどうぞ宜しくお願いします。 
  
 えぇと、時間軸はVSの続きという以外特に定めていないので、 
 ラストに出てきた設楽さんは ちょっとためしに さんの話の 
 設楽さんとはまだ別モノだと考えてて下さいませ。 
 黒寄りでソーダライト使いなので、繋がりそうなら繋げてみますけれど・・・。 

 [スピードワゴン 能力]
 [号泣 能力]