Black Coral & White Coral [2]


257 名前:“Black Coral & White Coral”  ◆ekt663D/rE   投稿日:04/11/21 03:53:00

「な・・・何で、あなたが・・・っ」
勢い良く振り向いて、小沢は掠れた声を上げる。
確かに赤岡が口にしたように、小沢の目の前に立っているのは、設楽。
その姿はいつも通りのたたずまいにも見えるけれど、ただアパタイトは小沢に警戒を促すように
微かに瞬いて、発せられる熱がジリジリと伝わってくる。

「んー・・・?別に・・・強いて言うなら、珍しい組み合わせが歩いてるなって思って?」
思わずついて来ちゃっただけ。へらっと他意無く笑って設楽は小沢に応じた。
「そっちこそどうしたの?何かピリピリしてて怖いったらありゃしない。」
・・・何だ、本当に付いて来ちゃっただけか。
場を茶化すように軽い調子で話を振ってくる設楽につられるように、小沢は思わずふぅと深い息を吐く。
けれど。

「・・・・・・・・・。」
赤岡は静かに右腕を上げ、人差し指と中指を揃えて設楽の顔面に向けた。
首から下がった黒珊瑚がキラリと輝き、赤岡の指先の虚空に青白い火の玉が出現する。
「・・・うわぁ、それ何の手品?凄いじゃない。」
「何故、あなたが僕と島田の『石』について御存知で?」
石によって熾されたその火は小さく、マッチに灯ったそれぐらいのモノであるが、
興味津々といった様子で問う設楽に構わず、赤岡は静かに告げる。
「・・・石?そんな事何も言ってないよ?」
「そんな事は・・・今、確かにあなたはそう言っ・・・・・・」
軽い調子の設楽に反論しようとする、赤岡の言葉が止まった。
いや、言葉を止めただけではない。
指先に灯った火こそかき消えたけれど、赤岡はそのまま微動だにしなくなってしまう。

「・・・赤岡くん?」
上着を掴み、軽く揺さぶってみても赤岡は小沢に何も反応しない。
「どうした?石の・・・代償か?」
問いかけは工場の中に虚しく響くのみで。

なおも赤岡を揺さぶれば、小沢の目の前で黒珊瑚があしらわれたネックレスが揺れる。
その球状の深い漆黒に、淡い青い輝きがヴェールのようにまとわりついているのが、見えた。
この輝きは、力を持つ石独特の物である。例えば小沢のアパタイトの輝きは青緑で赤岡の黒珊瑚は漆黒。
だと、すれば。
「・・・・・・・・・っ!」
赤岡の上着を掴んだまま、小沢は設楽の方を向く。
今度は視えた。
設楽から放たれ、広がっていく淡い青い光。
これが、アパタイトが警告を発していた原因なのだろうか。

「・・・何で、あなたが。」
表情を引き締め、改めて小沢は問いかけた。
見知った先輩芸人相手としてではなく石を持つ相手として設楽を認識し、発せられたその口調は重い。
「赤岡くんに、何をしたんです?」
明らかに見て取れる後輩の態度の変化に、設楽は面白くなさそうに肩を竦めた。
「別に何もしてねェよ。ただ、ちょっとじっとしててもらっただけだし。」
何もしてなくないじゃないですか、と小沢が口にしかける前に、設楽は更に言葉を続ける。
「つかさ、今日はそっちの・・・赤岡くんの方に用事があるんだよね。」
「何の、用事ですか。」
これが設楽の石の力なのだろうか。発する言葉の一つ一つが、ダイレクトで届いてくるような・・・
そしてそれを無条件で受け入ればければならないような圧迫感に、小沢は抵抗するために意識を集中させる。
自然と険しい表情になる小沢とは対照的に、あくまでいつも通りの態度で設楽は彼に問うた。
「別にいちいちお前に言うほどの事じゃねぇって。
 それとも何だ?お前に話を通さないと、あいつに何一つ話しかけちゃ駄目なワケ?」

「それは・・・・・・。」
不気味な圧力とは関係なしに、もっともな設楽の言葉に小沢は一瞬口ごもる。
僅かに逸れた視線が、設楽の口元に浮かんだ歪んだ笑みに気付く事はなかった。

「・・・・・・・・・・・・。」
「だーいじょうぶ、ちょっと話をしてくるだけだから。」
じゃ、行くよ。
目線で赤岡へ一つ促し、設楽は小沢に背を向けると工場の更に奥へと歩き出していく。
促された赤岡の方も、設楽に従うように動き出した。

「赤岡くんっ!」
上着を掴む手を強引に振り解かれ、思わず小沢は声を張り上げる。
己を呼ぶ声に、赤岡はチラリと小沢の方を向いたけれど、それも僅かな間の事。
すぐにまた、設楽の後を追って去っていった。

「・・・・・・・・・っ。」
やがて錆びた鉄骨の向こうに、背の高い影が二つ消えていく。
赤岡に振り解かれた手を胸にやり、小沢は眉を顰めた。
・・・厭な、胸騒ぎがする。
追いかけなければと足を踏み出そうとする小沢だったが、その両脚は意志と反してピクリとも動こうとしない。
その感覚に、小沢は覚えがあった。赤岡の黒珊瑚の力の一つ、金縛り。
ギュッと眉をしかめると小沢は携帯を取り出し、ジッと二人の向かった方向を睨み付けながら
メモリーを弄って、数秒。

「潤?何も聞かないで、今すぐ来て!あと、そこに江戸むらがいるんだったら・・・一緒に連れてきて!」
『・・・・・・・・・っ?!』
通話が繋がった瞬間、畳みかけるように喋り掛ける小沢に、通話相手はさぞかし驚いた事だろう。





「・・・ここならもう、いいかな。」
その一方で、工場の一番奥に辿り着いた設楽は小さく呟くと立ち止まり、くるりと振り向いた。
微かに射し込む光に照らされたその姿とたたずまいは、彼の石・・・ソーダライトの力を借りずとも
十分なほどに威厳とカリスマ性を帯びているように見える。

「で、話・・・とは?」
何でしょうか、と設楽に続いて立ち止まり、一つ息を吐いて赤岡は問うた。
「まさか・・・『黒のユニット』に入れとかいう下らない話でしたら、お断り・・・ですよ。」
「その、まさかなんだけどな。」
一瞬赤岡の言葉に驚いたように目を見開いたが、ククッと笑って設楽は答える。
「どちらの側にも属さずにいるのは、お前らも辛いだろ?苦しいだろ?」
だったら、こっち側に来いよ。僕が、悪いようにはしない。
告げながらスッと差し出された設楽の手を赤岡は無視する。

「確かにあなたは・・・親切ですし、悪い人だとは僕も思ってはいませんけれど。」
その頼みは受け入れられません。
そう静かに答える赤岡の黒珊瑚から漆黒が湧き出してくる。
「おやおや・・・。」
いきなり石を大きく発動させる赤岡の態度に、呆れたように設楽は苦笑を浮かべた。
「ずいぶん嫌われちゃったものだね。」
「当然です。」
差しだした手を引っ込めて頭を掻く設楽に赤岡は明らかに敵意を帯びた眼差しを向け、告げる。

「ここで『黒のユニット』が余計な事をしなければ・・・僕らの石は目覚めずに済んだんですからね。」
それを知っているあなたは『黒のユニット』か、それに近い人間。
・・・ならば、例え相手が誰であったとしても。

漠然と発生した漆黒が、ゆっくりと意志を持つかのように赤岡を中心にして渦巻いていく。
「・・・戦うの?面倒くさいんだけどなぁ。」
あーあ、と口にしている以上に心底面倒くさそうに設楽は一度視線を伏せた。

しかし、次にもたげた設楽の眼差しは淡い青みを帯びていて。
設楽を見据える赤岡の目線と衝突した瞬間、赤岡の脳に直接言葉が叩き込まれる。
先ほど小沢と共にいた時も何度か聞こえた、威圧感のある声で。

 『本当にそのまま攻撃して良いの?後悔、しない?』

それはほんの一言だったけれど。
赤岡の葛藤を引き起こし、動きを止めるには十分すぎるほどであった。
目を伏せた時に目星をつけていた手頃な廃材を拾い上げ、設楽は赤岡に殴りかかる。
「・・・・・・・・・っ!」
無防備の腹部を横殴りに叩かれ、赤岡はぐらりとよろめくとそのまま床へと倒れ落ちた。

「もう一度言うけど、こっちに来なよ。このままじゃいつか・・・取り返しの付かない事になるよ?」
赤岡を見下ろし、投げかける設楽の言葉は優しいけれど、その裏側に従わざるを得ない何かを秘めている。
「じゃ、僕ももう一度言いましょうか。その誘い・・・断ります。」
床に這い苦痛に顔を歪ませながらも、それでも赤岡はソーダライトの力に抗うように設楽に答えた。
「僕もあいつもショッカーの怪人になるつもりは・・・させるつもりは、ありませんから。」

「ったく、良いねぇ・・・若いって奴は。」
赤岡の瞳はまだ、彼の持つ黒珊瑚のように凛とした光を湛えている。
見上げてくる真っ直ぐな眼差しにスゥッと冷たく目を細め、設楽は思わず呟いていた。
「・・・・・・反吐が出る。」


 [バナナマン 能力]