CUBE編[前編]


869 名前:じゃあちょっとためしに ◆dRwnnMDWyQ  投稿日:04/10/23 01:35:57

 なんで自分はこんな事になってしまったんだろう…。もう戻れないとわかっていつつも石川は、一人苦悩していた。
しかし、背に腹は変えられない事態、彼にとっては文字通り死活問題であったとしても。

「いしかわ〜!ねえねえ、アレ知らない?アレ。」
 事務所の傍らでノートを広げ、ネタを書きつつ苦悩する石川は、相方である和田の能天気な声に、
まるで不快なノイズを聞いたかのように顔をしかめた。
「アレでわかると思うの?何がどこにあるかの前に、アレが何か教えてくれるかなあ〜?」
 一応、無駄と知りつつも嫌味を込めて石川が吐いた言葉に和田は何も気付かないかのように、
―実際気付いてはいないのだろう。無邪気に応える。
「ホラ、今日のライブで使う小道具だよ。ヘアクリップ。」
「はあ?そんなもん誰かに借りればいいでしょ?」
 石川が、想像以上に下らない和田の探し物にため息をつくと、和田はムッとしたように応えた。
「バカ、あのクリップじゃなきゃダメなんだって・・・え〜っと、ここにあったんだけどなあ。」
 何がダメなのかは本人にもきっとわからないハズだが、和田は必死になってカバンをかき回している。
「忘れたんじゃないの・・・?」
「いや…。絶対持ってきてるんだよ。あれ〜?ここかな〜?」

和田の必死の形相に呆れ返った石川は、軽く覚悟を決めると和田に見つからないようにポケットの中の石を握り締めた。
−本当にしょうがない奴だなあ・・・。
その瞬間。グリーンとピンクの混じったようなまだら模様の光が走った。
「和田、ヘアクリップってポケットの中にあるんじゃない?」

「え?そんなわけ・・・。あっ!」
 おそるおそるポケットの中を探った和田は驚きの声をあげた。
上着のポケットを引っ張り出すとたしかに赤いヘアクリップが転げ落ちた。
「な、なんでわかった?」



「バカじゃないの?カンだよ。ただの勘。」

 −あ、そろそろ来るな。そう思った瞬間、石川に激しい頭痛が走った。思わず頭を押さえながら言う。
「それより見つかったんならとっとと行ったら?邪魔なんだけど。」
 和田は石川の形相にムッとしつつも、さっきまでとの様子の変化と青ざめた表情にを見て、心配そうに声をかける。
「行くけどさー、大丈夫?顔青いよ。」
「大丈夫だから!とっとと行きなよ。それともネタ書いてくれるの?」
 わざと意地悪に笑いかけた石川の顔色の悪さに、少々目を奪われたものの和田は何も言わずに部屋を出て行った。
ドアの閉まった音を聴いて石川は、安堵のため息をつく。



 −こんな下らないことのためにリスクを犯して何なんだろうな・・・。
石川はピルケースから黒いガラスの欠片のような物質を取り出すと、水もなしに飲み込んだ。
一気に痛みが引く・・・。
と同時に体の中でもやもやと、黒い影がうごめくのを感じた。しかしそれも一瞬で消える。
彼の石の力、「精神力と第六感を高める能力」が黒い欠片の魔力を押さえているのだろう。
 
こんな忌まわしい石の欠片を、わざわざ自分から飲み込まなくてはいけないくらいに、副作用が激しい能力だったとしても。

そして石川自身にとっては、まだ他の「黒いユニット」に属する人間の多くのように
(石川のように自分の意思で参加している人間も多くはいるが)、
あっさりと洗脳された方が楽だったのかもしれないとしても。

 その時、電話が鳴った。電話の主を見て石川はまた深いため息をつく。
躊躇したが逆らうわけにはいかない。石川は電話に出ることにした。
「はい。・・・ええ。集会ですね。わかりました。じゃあ、〜に7時ですね。はい。それでは。」
 簡潔に電話に出ると、石川は事務所を後にした。ライブでは黒いユニット側の人間は幸運にもいないようだった。
スタッフに石川を監視している黒いユニット側の人間がいるのかもしれないが・・・。
石川にはまだ洗脳されているフリがばれていない自信があった。それは能力ではない。
ただの石川自身の予感にしか過ぎなかったが。


 [CUBE 能力]