毒舌家達の憂鬱[前編]

112 名前: ◆8Y4t9xw7Nw 投稿日:05/02/27 03:35:00
お久しぶりですが、ふと思いついた波田陽区と青木さやかの短編を投下します。一応時間軸的には、前スレに投下された長井秀和、劇団ひとり、波田陽区の話(※◆LlJv4hNCJI「ピン芸人」)の1週間程後ということで・・・・・・

112 名前: ◆8Y4t9xw7Nw  投稿日:05/02/27 03:35:00 

【メッセージハ、一件デス。ピー・・・・・・】
『あ、波田君? いきなりで悪いんだけど、
石の事で話があるからちょっと時間作ってもらえないかな。 えっと――――』
とある日の、早朝。
夜を徹した収録から帰り、留守番電話のメッセージを聞いた波田陽区は、聞こえてきた声に深い溜め息をついた。
最近、彼女からの電話が良い報せを運んできた事は一度も無い。
大体、同じ事務所でこちらのスケジュールを分かっているにも関わらず徹夜明けに呼び出す時点で、
何か悪意のようなものが感じ取れるのだ。
『――――あ、そうだ。無視したら【あの約束】5回上乗せするから覚悟しときなさいよ?』
【ゴゼン0ジ4フンデス。ピー・・・・・・】
付け足されたその言葉に思わず苦笑を浮かべた後、波田は今さっき床に置いたばかりのギターケースに再び手を掛けた。



昼、と呼ぶにはまだ少し早い時間。
指定されたのは、いかにも女性が好みそうな小洒落たレストランだった。
思わず自分の服装を確認してから中へ入る。
出来る限り――――ギターケースを持っている時点で充分目立ってしまっているのだが――――
目立たないように気を付けながら店内を見回すと、
少し奥まった、余り人目につかない席に座る見慣れた後ろ姿を見つけた。
「青木さん」
周囲の客にバレないよう、座っている年上の後輩に小声で声を掛ける。
「思ったより早く来たわね。まだ時間まで5分ある」
「遅刻でもしたら後が恐いじゃないですか」
嫌味ったらしく敬語で話されるよりはマシだが、完全に下扱いされるとそれはそれでやりきれない。
ぶすっとした表情で呟く波田の言葉を耳聡く聞きつけたのか、
優雅にコーヒーを飲んでいた相手――――青木さやかは、胡散臭い程の笑みを見せた。
「あら、ちょっと遅れたぐらいじゃ怒らないわよ?」

(嘘つけ!)
一瞬そう叫びそうになったが、そんな事を言ったら何をされるか分からないし、
周囲の目もあるのでとりあえずはじっと堪える。
「そんなに不機嫌そうにしなくても、今日は奢らせたりしないって。
呼び出しのはこっちなんだから・・・・・・まぁ自分の分は自分で払ってもらうけど?」
「・・・・・・そうですか」
青木の言葉に、波田はあははと乾いた笑みを見せた。
ネタで青木の名前を使わせて貰う代わりに食事を10回奢る――――
それが、波田と青木の間で決められた事、青木が留守電で言っていた【あの約束】だった。
ただし、波田はなんだかんだ言ってその約束を無視し続けているのだが。
「今日は一体何の用なんですか?」
席に着き注文を取りにきたウェイトレスにコーヒーを頼むと、波田は眉間に皺を寄せて尋ねた。
嫌がらせのように徹夜明けに呼び出されたのはともかく、
石の事で話があるとなれば、その内容が決して穏やかなものでは無い事は想像がつく。
「ちょっと、ね・・・・・・」
青木は、少し表情を険しくして言いよどんだ。
その表情から、彼女が誰の事を話したいのかが何となく伝わってきた。
彼女にこれ程心配そうな表情をさせる人間はかなり限られている。
「長井さん・・・・・・ですか?」
「まぁ、そういう事」


――――長井秀和。
青木さやかと、もっとも親交が深いピン芸人。
かなり古くからの付き合いがあり、もはや性別を超えた親友と言っても過言ではない関係
――――ついでに、男と女であるが故に色々と誤解される間柄――――だ。
そして、つい先日に起きた出来事に、彼と波田は深く関わっている。
「この間の収録前、あいつ石のせいで暴走したんでしょ?」
「・・・・・・えぇ、まぁ」
芸人達の間にばら撒かれている、尋常ではない力を秘めた石。
拾ったらしい石と拒絶反応を起こした長井は、「劇団ひとり」こと川島省吾の楽屋に乱入し大暴れしたのだ。
「やっぱりね。昨日スタッフが話してるのを偶然聞いたのよ。
『そういえば、劇団ひとりさんの楽屋の壁の穴、長井さんが開けたってホントですか?』
って・・・・・・で、ピンと来たワケ。
それに、その日の出演者調べてみたら石の暴走止められそうなのは波田君しか居なかったから」
話を聞きながら、波田は青木に聞こえないように小さく溜息をついた。
全く、彼女の勘の良さと行動力には敵わない。
川島の能力の欠点は、「追求する意欲を喪失させる」事は出来ても
「相手の疑問を消して納得させる」事は出来ないという点だった。
何があったか聞く気は失せても、壁に開いた穴に対する疑問は消えなかったのだろう。
「・・・・・で、俺にどうしろと?」
「あいつの石に対する順応性の高さ、波田君なら分かるわよね?
どんな石の能力でもある程度扱えるみたいだけど、
合わない石を無理に使って暴走起こしたら普通の人間には手が付けられないわ。
波田君だって、また巻き込まれるのは嫌でしょ?」
「まぁ、確かに」
「だから、もし手に入れた石の中に完全に合うヤツを見つけられたら真っ先に渡してやって欲しいのよ。
自分に合う石を手に入れれば他の石に振り回される事も無いだろうから。
それでなくても最近妙なヤツらがウロチョロしてるし、何かあってからじゃ遅いし、ね?」
黒いユニットを『妙なヤツら』の一言で片付けてしまう所が青木らしいが、
その表情には長年の親友への心配が色濃く現れている。
「分かりました、努力はしてみますよ」
波田がそう口にしたちょうどその時、ウェイトレスが注文したコーヒーを運んできた。
 [青木さやか 能力]
 [波田陽区 能力]