暴走機関車ダンディ [#5]


252 名前:オデンヌ ◆RpN7JISHH.  投稿日:04/06/14 21:03

おぎやはぎが去り、楽屋は再び緊張感に包まれる。
井戸田はダンディにじりじりと接近した。
途中、礼二の方を見ると一点を見詰め、何やらぶつぶつ呟いている。今話し掛けたら何をされるか分からない。
「さて、と…」
「だから潤さん、待ってって!」
後方から先ほどよりもしっかりした声が聞こえた。振り返ると、剛に支えられ、小沢が立ち上がっていた。
「無理すんな。今石持って来てやるから、そこで待ってな」
「潤さん、何で全部一人でやろうとするの。」
「何でって、小沢さんその体じゃ満足に力使えないっしょ。」
「井戸田くんかて、今はダメなんちゃう?」
「!?」
沈黙を破った剛の一言に井戸田は動揺した。
ズボンのポケットに左手を突っ込んでもぞもぞさせながら、言葉を続ける。
「自分も石使うとる訳やから、人の石の力も認めなアカン…せやろ?」
再び出したその薬指には、小ぶりながらも蜂蜜色をしたキャッツ・アイの指輪が輝いていた。
「全部やないけど、見して貰たで」
「それってまさか…中川家さんも…」
井戸田は剛の手に煌めく石に目を奪われていた。すると突然、小沢の表情が強張った。

「潤さん後ろ!!!!」

――ヤベぇ――――――!
どんっと肩から背中のあたりに鈍い衝撃を受け、そのまま前につんのめる。
倒れる瞬間、目の前のものがスローモーションになっていった。
小沢さん…井戸田ではなく、その後方を見て驚いている。
剛さん…同じ方を見て何故か笑いをこらえている。
――てめーら俺の事ァどうでもいいのか――――――!!!?
泣きそうな思いで床に突っ伏した井戸田の後ろで一際大きく声が響いた。

「「ゲッツ!」」

「あれ?」
上体だけ起こして後ろを見ると、さっきまで自分が立っていた位置に礼二が陣取り、ダンディと対峙していた。
しかもまるで鏡で映しているかのように指先の高さから膝の角度までダンディと同じ「ゲッツ!」のポーズをとっている。
「礼二さん?」
「痛かったか?警察には言わんでくれや。…ゲッツ!」
どうやら自分が今倒れたのはゲッツのせいではなく、礼二が突き飛ばしたからのようだ。
(警察って…)
「「ゲッツ!」」
ダンディは何度もゲッツを放ったが、同時に礼二も全く同じモーションでゲッツする。
その度に2人の間で小さな風が巻き起こった。
何が何だか分からずポカーンとしている井戸田と小沢を尻目に、剛はケタケタ笑い始めた。

「剛さん…?」
シンクロ状態で何度も「ゲッツ!」し続けるダンディと礼二の姿を見てずっと笑い転げている。
「…あいつアホやー!アヒャヒャヒャ」
「剛さーん!?」
井戸田がキレ気味に呼び掛けると笑いをこらえながらようやく説明し始めた。
「あぁ…アイツな、昔からよー誰かのマネして来よったけど、最近はあーいう変な力までマネ出来るようなってん」
「変な力って石…?」
目を丸くする小沢と井戸田に礼二がつけ加える。
「いっぺん食らってみんと分からんけどなゲッツ!ダンディのは衝撃波みたいなもんやからゲッツ!
正面から撃ち返せばゲッツ!消せるんちゃうかゲッツ!」
よく見ると礼二のシャツの襟元からチェーンがチラチラと光っている。
恐らくペンダントのような形で石を身につけているのだろう。
「こんなよう動く礼二久し振りに見たわ…おもろいからもうちょっと見…」
「アホな事言うな!俺もしんどいねん!!誰か止めえ!今なら近づけるやろ!!!」
今なら近づける。井戸田は小沢の方を見た。剛は小沢を支える手を離し、ちょっと背伸びして囁いた。
「小沢くん、今度は行けるで」
小沢は少し考えて、井戸田に力強く目配せし、ダンディと礼二の方へ歩いた。

もう支え無しで歩く事は出来たが、さっきやられた時に捻った足が少し痛む。
ゲッツ砲を打ち消している礼二の額からは汗が噴き出し、こちらの疲労もピークに達しようとしていた。
確かに何度もゲッツポーズを繰り返すとスクワットに似ている。もしどちらかの気力・体力が尽きたら…
真似ているわけではないが、先ほどの井戸田のようにに最悪の事態が小沢の脳裏を掠め、目が潤んでくる。
礼二がその様子に気付き、すっかり荒くなった息の中から声を掛けた。
「小沢…くんゲッツ!…俺はダンディにゲッツ!合わせ…とるゲッツ!だけやから…ゲッツ!
ダンディだけ止めゲッツ!ればええ。ゲッツ!楽に…やれゲッツ!」
「!」
実は2人共止めなければならないと思っていた小沢は深呼吸ひとつして肩の力を抜き、
目を閉じ、握り締めた石に意識を集中させた。
〜〜止めないと。こんなこと…こんな……・・・〜〜〜〜〜〜

『もうこんな遊び、終わりにしない?』

目を開き、甘く、しかし力の込められた声でダンディに囁くと、
それまで小沢の意識に共鳴して淡く光っていたアパタイトは強い光を放ち、
その光を浴びたダンディはガクンとその場に崩れ落ちた。