暴走機関車ダンディ [#6]


292 名前:オデンヌ ◆RpN7JISHH.   投稿日:04/11/24 20:43:51

その光の強さもさることながら、
あれだけ暴れまくっていたダンディを一言で封じた威力に礼二は目を丸くしていた。
「おぉー止めよった」
「小沢さんならやると思ってたよ。オイシイとこ全部持ってっちゃって悔しいけど」
「何が悔しいねん、お笑いみたいに言うな」
妙にテンションが上がっている井戸田と礼二の傍で、剛は眉をクッとひそめ、前方を睨んでいた。
その視線の先で、小沢は指揮者が演奏を止めさせる時のような手つきで石を握り直すと、
光はスッと収まり、楽屋は元の明るさに戻った。
床には、紐が切れたペンダントが持ち主と共に転がっていた。
「……!」
石を凝視する内に何か閃いた剛は、それを拾おうと小沢が足を踏み出すよりも一瞬早く跳び出した。
「何を慌てて……っておい何してん」
「小沢さん封印出来た?……え!?」
先ほど突き飛ばしたり怒鳴ったりした事でやいのやいの言い合っていた礼二と井戸田だったが、
チラリと視界に入った剛をそのまま目で追い、ようやく異変に気がついた。
「小沢くん!しっかりせえ!」
年に5回出すかと言われる程の大声を張り上げる剛の腕には、
魂でも抜かれたかのようにぐったりと動かない小沢の身体が抱かれていた。


「兄貴お前、何かしたんか!」
すぐさま礼二が鬼のような表情で剛に詰め寄った。
「違うわ!俺にこんなん出来る訳ないやろ!」
剛も強気に返しているようだが言っている内容は若干弱気だ。
「どういうこと…」
怒号が飛び交う中、頬を叩かれても反応がない相棒を前に、井戸田は茫然と立ちすくんでいた。
しかしおもむろにズボンのポケットをまさぐり、自分の石があることを確かめた。そして…
(小沢がダンディさん止めたのまではいいよ。凄いよ…っていうか何でそれだけで倒れる!?
もうちょい体力つけろ!いいもん食え!いっそデブキャラになっちまえ!
…その前に起きろ!!)
強く念じると、いつしか石はオーラを放ち始めた。
(来た!)
そのオーラに包まれた右腕を振り上げ、大きく息を吸う。
「今度こそアタシみ…」
「すぐに逃げえ!!」
「ぅえ?」
剛の緊迫した声に驚き、思わず力の発動を中止してしまった。
「礼二、2人連れて9階行っとれ。」
「ちょ待てえ、コレ封印しに来とんのやろが。置いて行け言うんかい」
足元のペンダントを指す礼二を横目で流し、井戸田の顔をしばらく見つめると、厳しい顔で口を開いた。
「……無理や。今やっても同じ目に遭うで。」


30年以上共に生きた弟から見て、剛の様子は本気だと感づき始めてはいるが、どうにも腑に落ちない。
「お前さっきから何を…今の力見て頭おかしなったか」
能力を邪魔されて呆気にとられていた井戸田も我に返って反論した。
「同じ目に…ってどういう意味っすか、僕等だってこの石で今まで色々やって来てるんですよ!」
「せやから逃げえ言うとんねん。コイツの狙いは君らや。力を使うて来るんを待っててん。」
「僕等が狙い?」
「そうや。俺も気付くんが遅かったわ。もうちょい早よ気付いとったら…」
剛が目を落とした先で、小柄な体格に似合わぬ太い腕に抱かれた小沢は依然目を覚ましていなかった。
「兄貴…」
忠告を無視してダンディの石に手をかけることは可能だろう。しかし、それでもし新たな犠牲が出たら…
兄は制止出来なかった自分を責める余り、心身にも悪影響を及ぼすに違いない。
「ここで全部言うんめんどくさいねん、早よ行けって!」
剛は楽屋のドアを開けて小沢の身体を引きずり出し、
困惑顔の礼二と井戸田も力いっぱい外へ押しやると、ドアを閉め、鍵をかけた。
「……」
久し振りに出た廊下は、まるで何物かの力が働いているかのように静まり返っていた。


剛の豹変ぶりに当惑していたのは井戸田だけではなかった。
「アホかあいつは…何で俺まで叩き出しよんねん…」
礼二もまた、ムッスリした表情で鍵の掛かったドアを見上げ、
向こう側に居る剛に聞こえるか聞こえないかの声でぶつくさと文句を言っていた。
足元に横たわる小沢は微かに胸元が動いており、辛うじて息はあるようだが、
冷たい蛍光灯の光に照らされているせいかその横顔は青ざめて見える。
井戸田はロッカーに頭をぶつけた時のように軽く揺すってみたが、やはり目を覚ます気配はない。
苛立ちから堪らず床を殴りつけた。
「クソ…ッ!」
その声に一瞬驚いた礼二だったが、急に表情をフッと緩め、小沢と傍にうずくまる井戸田を見下ろした。
「…行こか。いつまでもンな硬い床に寝かしとったら可哀相や」
「えっ…いいんですか!?剛さん置いてって…」
「ええねんええねん、どうせ何も出来ひんまんま隅っこで震えとるだけやから。
そんなもん相手にするより小沢くん回復さすんが先や。ほら、背負わんかい」
(あんたそれでも相方ですか)と突っ込もうとしたが、突然背中に乗せられた小沢の体重にバランスを崩しかける。
「ウっ、何で俺なんすか」
いくら小沢が細いとはいえ身長差もあり、何より意識を失っているので余計重く感じる。
まだ礼二の方が安定するだろうに…
「何もしてやれんやった思うんはまだ早いで。後で自慢したれ『俺が運んだったんやぞ!』言うて」
「……」
少し考えた後「やっ」と気合いを入れて立ち上がると、少しふらつきながらもエレベーターに乗り込んだ。
9Fのボタンを押し、エレベーターのドアが完全に閉まるまでの間、
礼二は兄を残した楽屋の方をずっと見続けていた。