737 : ◆vGygSyUEuw :2006/07/24(月) 09:54:13
石も点検し、信用できると踏んだらしい。 「じゃあ正式に白ってことな」 と子供が友達を遊びに加えたような軽い調子で言って、象牙を投げ返す。 慌てて受け止めた瞬間、朗らかに携帯の着メロが鳴った。 「もしもし?…あ! 上田上田、やった、釣れた!」 有田は嬉々として通話口に叫んでいる。 やっぱり確信犯だったか…いや別にいいんだけれども。 …しかし、そういうことを迂闊に本人の前で言って、「やっぱりやめときます」と踵を返されたらどうするんだろう。 まあ、「コイツは俺たちについてくる以外どうしようもない」と分かっていての行動なんだろうしそれは事実だ。 『…うるせえよ。』 微かに漏れ聞こえる返事は呆れ気味で簡潔。 携帯をかける有田の隣、自分は先ほどから手持ち無沙汰だ。 「んでさあ、どうすんの?やっぱあの作戦やっちゃう? いつだっけ、来週の…あ、火曜ね。」 ごそごそと片手で手帳を出してめくり出す。 「…あ、やっぱ火曜はやめて。ちょっと野暮用が…」 『……おっまえは…合コンと石、どっちが大事だ!?』 「いや、そうじゃないって…たださあ、申し訳なくもないけどそこは一人で」 『できるかあ!』 「できるできないよりやるやらないだろー!?」 『結果できなかったら意味ねえんだよお前若手差し向けて拉致るぞ!?』 「じゃあその際はこっちも全力でやらせていただきますよ?」 『仲間割れする気満々か!』 だんだん会話の声が大きくなり、否応もなくこちらの耳にも入る。 …この人たちは普段からこんな漫才みたいな感じなんだろうか。 「ん…ああ、わかった。んじゃ替わるわ」 やがて、怒鳴ったら落ち着いたらしい上田が本来の用件を思い出したようで、こっちに水が向いた。 はい、と無造作に渡された携帯を慌てて掴む。 「…もしもし」 『ああ、…えーっと…』 「ハローケイスケです」 『そうそう、ハローな。ま、お前のことを誰々から聞いたー、 とか言うのは後にするけど。協力してくれんだって?』 「…まあ。」 『あんがと、恩に着る。』 何だか不思議な気分だった。年は近いぐらいかもしれないが、あっちは売れっ子でこっちは……まあ、それは置いといて。 とにかく、テレビの中で聞くような声が俺に感謝している。 『んでまあ、もう大筋は有田から聞いたと思うけど』 野太い声が逡巡するように途切れる。 『お前、ホントの戦闘で石使ったことあるか』 「ないです」 芸人同士でホントの戦闘、というのもおかしなものだなとぼんやり思う。 そんなおかしなことがいつからあっていつまで続くんだろう。俺は中途半端に巻き込まれただけで何も知らない。 ただ一つ分かるのは、この人たちはそれを終わらせようとしている人だというだけだ。 『危険だぞ』 「わかってます」 『…そっか。』 なら何も言うことはない、とばかりに、「有田に代われ」と言う。携帯を返すと、今度は打ち合わせを始めたようだった。 もう会話は聞こえなくなっていて、手持ち無沙汰になって石を撫でる。ふと見た横顔は、まぎれもなく真剣だった。 それから5分ほどして電話は終わった。なんだかもっと長いような気がしたが、それは退屈だったからだろう。 「これ、決まったから」 短い言葉と共に、日時と場所、己の役割を書いたメモを渡される。 んじゃ俺は用があるから、と手を振って有田は去っていく。なぜかその背に頭を下げる自分がいた。 顔を上げると、メモをポケットへ突っ込んだ。その拍子にふと固いものに手が触れ、ああコイツを入れていた、と撫でてみた。 表面が不思議と温かく、体温が移ったのかと思う。 しかし仄白い光が漏れていたから、お前も乗り気なんだなと合点する。なだめるように布の上からぽんぽんと叩いてやった。 そして歩き出す。 白い息を吐いて背を少し丸め、それでも目だけはまっすぐ前へ向けて。 |