enemy or friend? [1]


663 名前:シャロン  投稿日:05/02/10 00:19:47 

冬の夜風は、身を切るように冷たかった。


「わーきーたーさんっ!」
テレビの収録を終え、テレビ局から出てきた脇田の背後から、明るい声が響いてきた。
振り向いて立ち止まった脇田の目に入ってきたのは、同じ事務所の後輩の顔だった。
「品川・・・」
「今からちょっと飲みにいきません?」
インドア派の品川が自分から飲みに誘うなんてめったにないことだ。
最近、沈みがちの自分を励まそうとしてるんだろうな・・・脇田はそう気づいた。
後輩に気を使わせて申し訳ないと思う反面、そうやって気を使ってくれる後輩の存在がうれしかった。

しかし、今は到底飲みに行く気分になどなれない。

「いや・・・いいよ、俺どうせそんなに飲めないしさ。」
「そうですか・・・」
「・・・」
「・・・」
二人を気まずい沈黙が包む。

「・・・庄司、どうしてる?」
先に沈黙を破ったのは脇田だった。
「いつも通りですよ・・・ただ、石が暴走してた間のことは全然覚えてないみたいですけどね。」
「そうか・・・」
「庄司の石は脇田さんが持ってるんですよね?」
「ああ・・・肌身はなさず。」
脇田がポケットを軽くたたきながら答えた。
「どうもこの石の力は、持ってる本人がコントロールできないらしい。
 浄化してあるけど、今の庄司に持たせるのは危険だし、それに・・・」
「・・・そうですね。」
脇田の言葉は途切れたが、二人の思いは同じだった。

無駄な争いに、相方を、大切な後輩を、巻き込みたくはない・・・

「ま、いつか、折を見て庄司に返すよ。・・・!」
脇田の目が鋭く光った。
それと同時に、胸元のカルセドニーが赤く光る。
「来ましたね・・・こんな人通りの多いところで。」
品川も気づいたようだ。
ポケットに右手を突っ込んで、淡く白く光を発し始めたラブラドライトを握り締めた。
「とにかく早く、どこか人のいないところまで行きましょう。」
品川の言葉に脇田はうなずき、足早に歩き始めた。



数分後、彼らは人気のない倉庫の中で対峙していた。
月明かりに照らされて、四人の顔がぼんやりと浮かび上がる。
「林・・・家城・・・」
そこにいたのは、二人の事務所の後輩、カリカの二人だった。
林の口がゆっくりと動いた。
「こんばんは、脇田さん、品川さん・・・」
「お前ら・・・黒だったのか・・・」
品川は二人を睨みつけながら言った。
林はこともなげに答える。
「ええ・・・ある人が俺たちに正しい道を教えてくれたので・・・」
「誰だよある人って?」
「さぁ・・・お二人も良く知ってる人ですよ・・・。」
続いて家城が口を開く。
「お二人が、おとなしく石を置いていってもらえれば、危害は加えません。」
「ふざけるな!」

まずいな・・・
やりとりを聞きながら、脇田は必死に考えていた。
(自分たちの石は、戦闘向きじゃない。
口ぶりからして、カリカの石は攻撃の能力を持っているんだろう。
このままじゃ、不利だ。どうすれば・・・)

「脇田さん、伏せて!」
品川のつんざくような声に、脇田は我に帰った。
あわててその場にしゃがみこむと、背後でガツン!と大きな音がした。
振り向けば、ドラム缶がつぶれている。
「なんだよこれ・・・」
「脇田さん、こっちです!」
品川は近くのドアに向けて走り出した。
脇田もそれに続く。
走る途中、庄司のモルダヴァイドが脇田のポケットから落ちたが、それに気づくものは誰もいない。
「させるか!」
さらにその後ろから、林の放った白い塊が追いかける。

品川が、続いて脇田が転がり込むように部屋に入り、鉄の扉をしっかり閉めた瞬間、
ドアの向こうで大きな衝撃音がした。
「おやおや、先輩、逃げてばっかりじゃないですか・・・」
ドアの向こうから、家城の嘲笑する声が聞こえる。
「何だよ今の・・・」
脇田がドアにもたれかかったままつぶやいた。
「林の力みたいですね。風を操ってるみたいです。」
「あの塊が風だってか・・・ドラム缶潰したぞ。」
「家城はどんな力を持ってるんですかね。」
「知らねーよ・・・眉毛がなくなるとかじゃねーの?」


ガン!

扉の向こうで、再び衝撃音がした。
「早く出てきたほうがいいですよ・・・俺の力を使えば、このドアをぶち破るくらい簡単ですから・・・」
まるで、笑いをかみ殺しているかのような林の声。
確かに、このドアを破られれば、この小部屋に追い詰められた格好になってしまう。
それは明らかに不利だ・・・。
「どうする、品川・・・」
「・・・俺がおとりになりますから、その間に脇田さん逃げてください。」

しばしの沈黙。

「そんな分の悪い賭けができるかよ。」
脇田の声は低く厳しかった。
「でも、少なくとも俺の力で、二人の気を引きつけることはできます。」
「その間に、俺の石を使ってあいつらの石を浄化できれば・・・」
二人はしばらく黙って見詰め合った。
部の悪い賭けであることに変わりはない。
しかし、他に手段はなかった。

「じゃあ・・・」
品川がドアのノブに手をかけた。
「行きます!」


ドアを開けると同時に、品川は石に意識を集中させ、目を閉じた。
まぶたの裏に、風に乗って飛んでくるドラム缶が見える。
反射的に右によけた品川の横を、大きな物体が通り過ぎていく感覚、そして背後の衝撃音。
目を開けると、ドアの向こうの林と目が合った。
「・・・あれを避けるなんて・・・さすがですね。」
「あれくらいじゃ、俺は倒せねぇよ。」
林の息がやや上がっている。
(力の使いすぎか・・・)
林に力を使わせれば使わせるほど、こちらのチャンスは広がる。
「でも、逃がしませんよ・・・」
林の髪の毛が風の力で揺れる。
品川は再び目を閉じた。
飛んでくる風の塊・・・今度は軽くかがんでかわす。
「だから、あれくらいじゃ俺は倒せねぇって言ってるだろ。」
林の目も、その後ろにいる家城の目も、明らかに狼狽している。
(今だ脇田さん・・・)

「わぁぁっ?!」
林の背後で家城の叫び声がした。
二人の背後に回りこんでいた脇田が、家城に飛び掛ったのだ。
「家城!目を覚ませ!!」
脇田は家城の握り締めている石を奪おうとしながら叫ぶ。

「家城!」
家城のほうに体を向けた林に、品川が飛び掛る。
「お前の相手は俺だ!」
風の塊が頬をかすめるが、気にしない。

もう少し、もう少しで家城から石を奪える・・・!
「家城!お前も力を使え!!」
林の叫び声に、家城は「あ・・・」と思い出したようにつぶやいた。
そして、家城の表情が媚を売るように変わった。
「わ〜き〜た〜さぁん」
「え?」
急にオカマ声になった家城に驚き、脇田は家城の顔を見た。
家城はにこりと笑って、ウィンクをした。

その途端、脇田は力が抜けたかのようにずるずるとしゃがみこんだ。

「脇田さん!」
「これでこの人はしばらく動けないよ。」
「家城、お前脇田さんに・・・っ!!!」
脇田に気を取られていた品川を、風の塊が吹き飛ばす。
品川は壁にぶつかって、うっ・・・と声をあげた。
「形勢逆転ですね・・・品川さん。」
相変わらず息は上がったままだが、林は怪しい笑顔を浮かべて言った。
余裕の笑顔にも見える。
「っ・・・!」
体を動かそうにも、体の痛みが邪魔をする。
(このまま、やられちまうのか・・・)

彼らとは遠く離れた床の上で、モルダヴァイドが強く輝いていることに気づく者は誰もいない。
 [ペナルティ 能力]
 [品川庄司 能力]
 [カリカ 能力]