オパール編 [1]


21 名前:お試し期間中。 投稿日:04/11/07 16:56:11

男は先程から楽屋の前で聞き耳を立て、室内の様子を窺っていた。
中からは撮影本番前の緊張感の中、最後のネタ合わせをしている芸人達の声が聞こえてくる。
スタッフとしてこのスタジオに送り込まれた男の使命は、
ある石に眠る悪意を目覚めさせる切欠を作る事。
事前に黒い欠片の影響を受けた石を持たせた芸人は既に楽屋に潜り込ませてある。
後は自分がいつ合図を送るか、それだけだ…


本番前の騒々しい楽屋の彼方此方で芸人達はネタ合わせをしている。
「…いい加減にしろっ!」「「ありがとう御座いましたー…」」
「よっし。時間はピッタリだから、これで本番もいけるだろ」
「此処もう少し直した方が良いんじゃね?」
まだ駆け出しの若手芸人達が最後の最後まで念入りに打ち合わせをしている中、
部屋の隅のほうに腰掛けて室内をじっと観察しているトリオが居た。
社交的なイメージの芸人なだけに、彼らを知っている者は少なからず違和を覚えていたが、
もしかしたら腹の調子が悪いだけかもしれないと、特に声を掛ける様な事もしなかった。

「あいつらどうしたのかな。三人揃って何か暗そうだけど…」
部屋の隅の三人組が気になる様子のアンジャッシュ児嶋が相方にポツリと言った。
「さあな。何か悪いモンでも食ったんじゃねーの?」
俺に訊かれてもな、と言った様子で渡部は適当に返事をする。
「それよりも俺が気になるのはあっちだよ…」
渡部の視線の先には傍から見て一目で判るほどキレかけているアンタッチャブル柴田と、
申し訳無さそうに縮こまりながらネタ合わせをしている相方山崎の姿があった。
「また山崎やっちゃった?有田さん…かな」「…だろうね。」
山崎がくりぃむしちゅーの有田と仲が良いのは有名な話。
酷い時には仕事よりも有田との約束を優先させたこともあったらしい。
本番が迫っている為に、遅刻した山崎への柴田からのお叱りは後回しにされたようだ。
営業でやり慣れているネタを、番組用に時間調整している。
その近くで後輩のCUBEがネタ合わせしているのも見えた。
久しぶりのTV出演に張り切っている様だった。
「俺らもちゃんとやっておかないとな」
ああ、と児嶋は短い返事をし、ネタ帳を広げている渡部の方へ向き直った。

ドアがノックされ、芸人達は一斉に其方へ視線を向ける。
ガチャリと楽屋のドアが開けられ、スタッフらしき男が顔を覗かせた。
「本番20分前でーす」
静まり返った楽屋に響いた声に、芸人達が了解の返事をしようと口を開きかけた瞬間、
突如床がグラリと揺れた。地震のようにグラグラと大きな揺れが続く。
(石が…反応している…?)最近芸人の間で出回っている不思議な能力を持った石。
渡部はペンダントにして持ち歩いている自分の石に手をやった。
触れてみるとそれは自分が能力を発動させていないにも拘らず、
じわりじわりと厭な波動を発していた。
(この揺れは…誰かが能力を使っているのか…)渡部は室内の芸人達の動きに目を凝らした。
それが普通の地震ではなかったと気づいた者は自分以外にも居たようだ。
揺れが収まった後、児嶋をはじめ渡部が知っている石の能力者達が室内を厳しい目で見回していた。

先程の男が部屋の入り口で叫んでいる。
「スタジオのセットが崩れて作業していたスタッフが足を挟まれました!!人手が足りないんです…
手を貸して頂ける方は来て下さい!!次の揺れが来る前にどうにかしないと危ないんです!!」
こうすれば力を感じた者は能力者を止める為にこの部屋に残るだろう…
その為に能力を使う時にワザと他の石へ働き掛けるように仕向けたのだから。
男は我ながら素晴らしい作戦だと、心の中でほくそ笑んだ。
駆け出していく若手芸人達を追いかける振りをして、室内から見えない位置に隠れる。
そっと中を窺うと、残ったのはアンジャッシュ、アンタッチャブル、アンガールズの3組。
能力者である彼等は一斉に部屋の隅の方を睨み付けていた。

「あんた達が…やったのか?」柴田が恐る恐る問いかける。
其処にはニヤリと不敵な笑みを浮かべているインスタントジョンソンの三人が立っていた。
渡辺の右手には黒と緑の混ざる濁った光を放つアマゾナイト。
暫く沈黙が続いた。
(何故この三人が黒いユニットに?)渡部は突然のことに困惑する。
「スギ、ゆーぞー。この石すごいっしょ?もっかい地震創ろうか?」
沈黙を破ったのは渡辺の自慢げで、無邪気そうな言葉。
「別に良いけどさ、それやっちゃうとスタッフの人が危ないんじゃなかったっけ?」
杉山が、冗談でもツッコミとは言えないような返事をした。
「そっかー…関係ない人やっちゃうと怒られるからね。止めとくよ」
残念そうに言うと石を持った右手をぎゅっと握る。

あまりにも普通な調子で繰り広げられる普通じゃない会話に、6人は呆気に取られていた。
「あんまりのんびりしてる暇ないよ。ほら、早く早く」佐藤が後ろから渡辺を急かす。
「わかってるって、全員倒しちゃえばいいんでしょ?スギ、準備できたよ」
渡辺の言葉に杉山が無言のまま一歩前へ出る。
胸元に下げた石からは紅色と黒の混じった光が放たれ、杉山の全身を包んでいた。
その手には渡辺の能力で創り出した金属バットが握られている。
「やる気ならこっちも無抵抗って訳にはいかないな…」
三人に最も近い位置に居た児嶋は、渡部に目で合図を送ると袖を捲って臨戦態勢をとった。
「金属バットだなんて、ベタな凶器だなぁオイ」
完全に自分の問いかけを無視された柴田が、つまらなそうに呟いた。

「なんか、ヤル気みたいですね」 「やるしかないみたいですよ、皆さん」
コントのときの空手の構えをしているアンガールズの二人に、渡部が後ろから声を潜めて言った。
「彼らの能力がまだ良く判らないから、慎重に行きたい。
君達の能力は彼らを傷つけずに石を奪うのに必要だから、ちょっと下がっていて欲しいんだ」
成る程、と納得した二人は構えを解いて一歩後ろに下がる。
渡部はあの計算しつくされたコントを創り出す頭脳をフル回転させ、この非常事態を
どう切り抜けるかを考える。(先ずは三人の能力を知るのが先決だ…児嶋、頼んだぞ)
「あんまり考えてる暇なんてないんじゃないの〜?」
佐藤の声とともに、杉山が一番近い位置に居る児嶋に向かって駆け出した。
「「児嶋さん危ない!!」」アンタッチャブルの二人が揃って叫んだのとほぼ同時に、
杉山のバットが児嶋目掛けて振り下ろされる。
「…え?」児嶋は何故かその攻撃を避けようともせず、後ろを振り向いた。

メキ、と妙な音がした。確かに自分の攻撃は当たったと杉山は確信していた。
だが手応えがなかった。目の前には殴った筈の児嶋が突っ立っている。
児嶋の立っていた床にバットがめり込んでいるだけで、本人には全くダメージが無い。
「そーいや、児嶋さんの石って…」山崎が思い出したように手を叩く。
「なんか、無駄に叫んじゃったみたい」柴田は安心して苦笑いを浮かべた。
「馬鹿にしやがって…くそっ!」拉げたバットを床に残し、杉山が児嶋に殴りかかる。
「え?」再び驚いた表情をした児嶋の腹をすり抜けた杉山の拳は、近くにあった机にめり込んだ。
「なにアレ!お化けみたい!!」後ろから見ていた渡辺が驚きの声を上げる。
「キャラが薄いからって、やりすぎじゃ〜ん」
児嶋がムッとした表情で佐藤を見遣りほっとけ、と呟いた。
(スギは肉体強化…成る程ね。後はゆーぞーだけか。一体どんな能力を…)
そのやり取りを見ていた渡部は、打開策を必死に考える。

「このっ!」児嶋は隙を突いて杉山のわき腹を殴りつけたが、
「いっ…てぇ」強化された体にはダメージを与えられず逆に腕を痛めてしまった。
机から拳を引き抜いた杉山が、躍起になって次々と児嶋に殴り掛かる。
石の能力で避け続けてはいるものの、攻撃向きな能力ではないため児嶋は反撃が出来ない。
「ったく…どうすりゃいいんだよ!殴っても全然効いてねーみたいだし
…避けてばっかじゃ何も出来ねーよっ!」傍から見ても児嶋の著しい体力消費は明らかだった。
杉山の方は疲れも見せず、まるで無限にエネルギーが湧き出ているかのような動きを見せる。
「児嶋さんっ!!俺も手伝います!!」見兼ねて柴田が石を掲げた。
「悪ぃな柴田、助かるよ」
柴田の石から放たれた赤い光は児嶋の体を包み、児嶋のパワーを回復させる。
「何の目的で俺らを襲ってるわけ!!?黒いユニットなんかに操られて情けないとか思わないの!!?」
正気に戻せるかもしれないと、石の能力を上げていつも以上のテンションで噛み付くように吼えた。
「…別に?」帰ってきた杉山の返答は、呆気なくその可能性を打ち消した。

(やはり石を奪うしかない。このままじゃ埒が明かないな…あの二人に仕掛けてみるか)
渡部は山崎に歩み寄ると小声で耳打ちした。
「児嶋達がスギをひきつけている間に、ジャイとゆーぞーの上に何か出してみて」
小さく頷いた山崎は息を吸い込み、二人に向かって大声で叫んだ。
「一万円からのおつりです!」途端に二人の頭上に大量の小銭と桜えびが出現した。
「うっわ、生臭っ!」渡辺が慌てて石を掲げ何かを作り出そうとするも突然のことに形にならず、
それらは二人に一気に降りかかった。
「ありがとちゃ〜ん」佐藤のお決まりの言葉が何故このタイミングで…
渡部のそんな疑問は直ぐに解決されることとなった。
山崎の能力で召喚された大量の小銭と桜えびはその言葉を合図に、
青い光に包まれたかと思うと一瞬で佐藤の持っている石に吸い込まれていった。
「エネルギー吸収…これまた厄介な能力だな」渡部は忌々しそうに舌打ちをした。
(一人一人止めていくしかないか…)渡部が田中に声を掛けようと三人から目をそらしたとき、
「よそ見してる余裕は無いんじゃな〜い?」青いレーザー状の光が渡部目掛けて発せられた。



21 名前:お試し期間中。 投稿日:04/11/07 16:56:11

 アンジャッシュ渡部→今までの能力+相手の精神に直接入り込んで語りかけることが出来る。 
 ただし、相当な精神力を要する為使用後回復に丸一日かかる。 
 インジョンは黒い石の効果で前レス915・916の効果ということにしておいてください。 
 アンタッチャブル・アンガールズは今までに出ている設定でお送りします… 
 [アンジャッシュ 能力]
 [アンガールズ 能力]
 [アンタッチャブル 能力]
 [インスタントジョンソン 能力]