オパール編 [5]


83 名前:お試し期間中。 ◆cLGv3nh2eA 投稿日:04/11/11 21:49:22

突如作業を続けていた柴田の表情から笑みが消えた。
「…あと少しなのに」ボソリと呟き顔を上げ、忌々しそうに舌打ちをする。
「やっぱり楽屋なんかでやるんじゃなかったな」
柴田は何かの気配に気づいたのか、酷く慌てた様子でドアから駆け出して行く。

十数秒後、小木と中川家の3人がコント撮影を終えて楽屋に戻ってきた。
跳ね返された金縛りと、石に送り込まれた謎の光によって
意識を失いかけていた矢作の視界に3人の姿が映る。
安堵の溜息を吐こうとしたがそれすらも出来ない。口を動かすことすら出来なさそうだ。
(どうやってこの状況を説明すればいいんだろ…)

慌てて駆け寄って来た小木が矢作を抱き起こして顔を覗き込む。
「矢作っ!何があったの?一体誰がこんなこと…」
真っ青な顔で呼びかける小木を、中川家の2人が宥めようとしているのが矢作の目に映った。
(おーい小木…とりあえず死んでねぇから、そんな顔すんなって)
自分は大丈夫だと伝えようとするが、身体は鉛のように重く意識も遠退きつつある。
「あんま動かさん方がええって!!小木君!!」礼二の怒鳴り声が遠く聞こえる。
(あ、やべぇ…ちょっと眠くなって……)
目の前に有った筈の小木の顔が見えなくなると同時に、矢作の意識は完全にブラックアウトした。

石の能力者である3人は倒れている矢作を発見すると、
一目で同じ能力者の仕業だと言う事に気づいた。
素人目にはどう見ても眠っているようにしか見えなかったが、
どんな能力に攻撃されたのか想像もつかない。
念のために小木が自らの石の力で「変身」した。
意識を失っている矢作をソファに寝かせると、意識確認や瞳孔、脈などを的確に診断していく。


「うん、大丈夫。寝てるだけだね」
全ての診断が終わった後、小木は額の脂汗を拭いながら言った。
「なんや、心配掛けよって…」礼二は溜息をつき、安堵の表情を浮かべた。
「小木君しんどそうやけど大丈夫?」能力を解除し、疲れた様子の小木に剛が訊ねる。
矢作の力無しに能力を発動させたため相当の負担が掛かったらしい。
「ちょっと休憩します…もし他の人が戻ってきたら状況説明はお願いしますね」
小木はソファの空いているスペースに座りって目を閉じた。

後から撮影を終えて戻ってきたくりぃむしちゅーの二人に
中川家の二人は矢作が倒れていた事と、それが能力者の仕業であるらしいと言う事伝えた。
説明の最中にアンタッチャブルの二人も各々楽屋へと戻ってきた。

上田は室内にあったテーブルに手を当てた。
「犯人はまだ近くに居るかもしれないな…」その場に居るメンバーを見回しながら上田は言った。
(楽屋に入れたなら関係者かもしれない…)考えたくないがそう疑うのが妥当だろう。
上田は手に握った石に意識を集中させる。
「あんまり無理すんなよ?」
相方の石の能力の便利さの裏にある代償を知っている有田は心配そうに見守った。

「…テーブルと机のニュアンスの違い、皆さんはどうお考えでしょうか。
一般的にテーブルは机の外来語表現だと思われている場合が多いそうです。
ですが実際は机を英語で表現するとデスク。つまり机とテーブルというのは別物なんですね。
使い分けとしましては、引き出しがなく食事・休息・娯楽に使われるものをテーブル。
それに引き替えデスクというのは、引き出しがあり仕事・勉強に使われるものを指しているそうです」

(この際質なんてどうでも良い…)
取り敢えず現場を見ていたであろうテーブルについての蘊蓄を言い
最後の決めポーズまで決めると、能力が発動した証である透き通った光が放たれた。
つい十数分前の出来事。一体ここで何があった?誰もが上田に注目していた。
その為楽屋内でもう一人、石を使っている者が居ることには気付く者は居なかった。
段々と記憶の時間が遡られ、遂に上田は矢作の姿を見つけだした。


矢作と対峙する誰かの姿が浮かび上がる。
後姿だけがぼんやりと浮かび上がり、ハッキリとは分からない。
もうすこし…あと少し記憶を遡れば正体が分かる、上田がそう思った瞬間。
突如全身を切り刻まれるような激痛が襲った。
普段以上に激しいそれに思わず両手で身体を押さえる。
「…っ、ぐ…ぁ…」突然苦しみだした上田に、その場に居た誰もが上田の身の危険を感じた。
「上田っ!!もういいから、早く止めろ!!」有田は石を払い落とし、肩を掴んで揺さ振った。
「上田さん!!」「大丈夫かいな!?」
力なく床に座り込んだ上田の様子を、皆が心配そうに窺う。

「すまない…姿は確かに見えたんだが、誰だかは…はっきり確認できなかった」
途切れ途切れにそう言った上田の目は、ある人物の足元を捕らえていた。
自信も確証も無い。顔を見ることは出来なかったが、もしかすると…
だが違っていたら大切な後輩を酷く傷つけることになる。
そう思うと今この場では何も言うことが出来なかった。

―二人目
自分の足元を睨みつける上田を見下して、柴田は微笑を浮かべた。
いつも明るく、よく笑う印象の彼からは想像も付かないような冷たい表情。
上田の異変に気をとられ、誰一人として柴田の表情に気付く事は無かった。
そのとき偶然柴田の感覚と「同調」していた渡部を除いては…


「矢作…気がついた?」
先に目を覚ました小木が呼びかけるが反応が薄い。
まだ石の能力の所為で意識がはっきりしていないのだろう。
「誰にやられたか、覚えてる?」
矢作は無言でゆっくりと首を横に振った。
「じゃあ、喋れそう?」
再び首を横に振る。肉体的ではなく精神的なダメージが大きかったらしい。
矢作の表情は暗く、目は虚ろだった。

(この状態が長引かなければ良いんだけど…)
小木は憔悴しきった相方の様子に、何故肝心なときに一緒に居なかったのかと後悔していた。
実際彼はそのとき収録中だった為、それは仕方の無いことだったのだが。
「ちょっと無理みたい。ゆっくり休ませたほうが…」

有田は頷くとその場に居る皆を見回して言った。
「そういうことだから…今日はこのまま解散しよう。ここにいても犯人が分かるわけじゃないし、
矢作も上田もかなり参ってるみたいだから、無理させるわけにもいかない」
皆はただその言葉に頷くしかなかった。

「矢作君…大丈夫なん?」帰り支度の済んだ礼二が小木に声を掛けた。
「もう少し此処で様子見ます。もしダメっぽかったら俺が送りますんで」
「大したこと無いとええんやけど…」剛は矢作の顔を見て心配そうに呟いた。
「もしかしたらまだ犯人がそこら辺にいるかもしれないんで、礼二さんたちも気をつけて」
「おう。そっちも気ぃつけてな。じゃ、お先に」礼二は皆に挨拶をしドアノブに手を掛ける。
「役に立てん能力で、申し訳ないなぁ…」剛は最後にポツリと漏らし、二人は楽屋を後にした。

「大丈夫スか?きつかったら柴田に石で回復してもらっても…」
山崎は心配そうに上田に声を掛ける。
「いや、そこまで酷くは無い…一瞬だったからな」上田は気丈にも笑ってみせた。
「もう全然痛みもないし、俺よりも矢作の方を心配しろよ」
だが…上田は数日後にあの痛みの本当の恐ろしさを知ることになる。


「じゃあ、俺達も帰ろっか。明日も仕事有るし」
「そうだな…それじゃ、皆さんお疲れ様でした」二人は挨拶をし、楽屋を出て行こうとする。
その後ろ姿を見ていた上田は、無意識のうちに柴田を呼び止めていた。

「何です?上田さん」声を掛けられ柴田は振り向いた。
「…いや、気をつけてな」自分でもどうしてだか分からない、
あの時の人物が彼だという確証はないのだ。
あまり疑いすぎて信頼を無くしてもいけないだろう。
彼は自分達と同じ白いユニット側の人間の筈…
「上田さんたちも気をつけてくださいね。いつ何処で狙われるか分かりませんから…」
柴田は真剣な表情でそう言うと、待っていた相方と共に廊下へと消えていった。

「それじゃ、俺達も帰ります。上田さんもお大事に…」
矢作は小木に肩を借りて何とか立ち上がることは出来たが、
まだ喋ることは出来ないようだった。
無表情のまま、小さく会釈すると小木に支えられながら楽屋を出て行った。
「同じ芸人同士なのに…酷いことするやつがいるんだな…」
矢作の姿を見送った有田が呟いた言葉に、
「全くだな…」上田は胸が締め付けられるような思いがした。

その後自宅に戻った上田の元に、小木から矢作を家に送ったとの連絡があった。
別れ際まで口を開こうとしなかった相方の事を、心底心配している様子だった。



92 名前:お試し期間中。 ◆cLGv3nh2eA   投稿日:04/11/11 22:08:47
 ファイアオパールが目覚めた後の能力 
 ・相手の能力を強化・反射する。 
 ・相手の能力のマイナス面だけを増幅させて苦しめる。 
 ・負の感情を送り込むことによって、不信感を抱かせ相手の精神を追い詰める。 
  
  
 今回も無駄に長くなってしまいました… 
 某コント番組の設定だったのに、劇団ひとりと森三中が書けませんでした。 
 登場人物が多いと訳分からなくなりますね(w