劇団ひとり短編

※◆LlJv4hNCJI「ピン芸人」からの続きです。

172 名前:お試し期間中。 ◆cLGv3nh2eA  投稿日:04/11/13 23:10:22

「いい加減にしろよっ!!戦いたくないって…何回言ったら分かるんだよぉ!!」

涙声に近い叫びと共に路地裏に藍色の光が広がった。

暫くして若い男が路地裏から出てきた。
その目は虚ろで、何かに取り憑かれているかのような覚束無い足取りで夜の街に消えていく。

「こんなに乱用してたら、そのうち俺の涙腺どうにかなっちまうんじゃ…」
路地裏に独り残された劇団ひとり・川島省吾は涙を拭いながら呟いた。
自分がこうして襲われるようになったのはつい最近。
別に喧嘩を売られた訳でもカツアゲされた訳でもない。
原因はギター侍波田陽区から渡された不思議な石。
彼から聞いた話によれば、欲に目がくらみ他の芸人の石を奪おうと襲っている者が居るらしい。
今さっき襲ってきた若者も石の力に取り憑かれていたのだろう。
(名前も知らないような若手にまで石が出回っているなんて…)
彼は自分の石を狙って襲ってくる連中を、やっと使い方を覚えた石の力で追い返してきた。

(早く石を封印している人達に出会わなければ…)
石を巡る争いの中で作られた芸人集団があると風の噂に聞いた。
こうしていつまでも襲われっぱなしと言う訳にも行かない。
こんな争いに巻き込まれたくなかったが、石を持ってしまった以上何かするべき事が有る筈だ。
(誰かわかんないのに…どーすりゃ良いんだよ…)
石のことを知っている人物がいないかと、楽屋で自分の石をさり気無く見せたりもした。
結果、さっきの男につけられ襲われることになった。

「あー…面倒くせぇ…」
思わず口を吐いて出た呟きは、望まず石を手に入れてしまった自分の不運への嘆き。
ポケットに両手を突っ込むと足早に家路へと急ぐ。
またいつ背後から襲われるか分からない不安を振り切ろうとするかのように。

…また一人、いつ終わるとも知れない戦いへと巻き込まれていった。


 [劇団ひとり 能力]