ゆびきりげんまん [1]


409 名前:眠り犬 ◆Fbdba4pavs  投稿日:2005/05/01(日) 13:35:29 

「なあ、山ちゃん」
 東京のテレビ局。その廊下を歩きながら、しずちゃんこと山崎は相方である山里に話しかけた。
「なに、しずちゃん」
 隣を見る山里。彼女の背はかなり高いので、どうしても見上げる形になってしまう。
「M-1決勝の時に、審査員が何人かで集まって、ひそひそ話していたの聞いたんやけど」
「ずいぶん前の話持ってきたね〜」
 いつも通りのユルいテンションで話す二人。だが。

「でな、石の話してた」

 その一言に、山里の足は根を生やしたように動かなくなった。
 芸人の間で噂になり、出回っている『石』。そして『ソレ』は自分達の元にもある。山里は、山崎と
一緒に情報収集を行っているのだが、最近は『黒のユニット』が襲ってくるのでホトホト困っていた。
「何でそんな大事な事黙ってたのさ!?」
 当然、山里は声を荒げて言う。しかし、それに対する返答は。
「忘れてた」
 あっさりとまあ。
「もう! ……それで、どんな話してた?」
「事務所のモノが動き出したとか、欠片がどうだとか――あ」
 急に間の抜けた声を出す山崎。瞳に映るのは、二人の男。

「どうした、しずちゃ〜ん」
 顔の前でハタハタと振られている手を無言でどけ、山崎は前方を指した。
「あのコンビがどうかしたの?」
 白い紙きれを見ている彼ら。
 随分と真面目な顔をしているが、特に怪しい様子は伺えない。
「手、見てみ」
「…どっちの?」
「髪が黒いほう」
 言われた通りに視線を向ける。その手にはめられた銀色のブレスレットには、明るい緑色の石があっ
た。『普通』のアクセサリーである可能性は、低い。
「よし。ちょっと話しかけてみようか」
「事務所違うし、親しくもないのに?」
「だから今訊かなきゃ」
 近くへ行こうと歩き出したその時、コンビの片方――金髪の男と目が合った。
 金髪の男は、隣の黒髪の男に何か話しかける。そして読んでいた紙を彼に渡すと、急かすようにエレ
ベーターへと向かって行った。

「あっ、行っちゃった!」
「山ちゃんの顔見て気分悪くなったんかな?」
「しずちゃ〜ん。冗談言ってないで追いかけようよ」
「でも外に行ったみたいやんか。収録は?」
「まだまだ時間あるから、大丈夫。……それに…」
 山里はポケットから携帯電話を取り出して、ストラップを山崎に見せた。青くて丸い石の中央が
 くり抜かれていて、そこに白い紐が通してある。
「ね?」
「あー。分かった」
 それじゃ、とエレベーターへ向かう二人。

 この後、収録に間に合わなくなってしまう事を、彼らはまだ知らなかった。