ゆびきりげんまん [2]


507 名前:眠り犬 投稿日:2005/05/24(火) 10:39:18 
  
  人通りの無い路地裏に二人はいた。ターゲットはさらに奥へと進んで行く。 
  山里は石の力を解くと、山崎に言った。 
 「ふう。しずちゃん、様子見てきて…ってアレ?」 
  隣にいたはずなのに、いない。 
  辺りを見渡すと、三メートルほど後ろに彼女はいた。 
 「――何でそんなに離れてんの」 
  目を細めて尋ねる。 
 「一般人の十倍は山ちゃんキモいのに、それが倍増してるやん」 
 「………」 
  力を使った代償で確かにそうなのかもしれないが、その言い方と行動はどうなんだろう、などと腕を 
 組みながら思案してしまう山里だ。 
  そんな彼を一瞥して、山崎はスカーフに隠れている赤い石にそっと触れた。赤い光が放たれると共に、 
 背には真っ白で大きな翼が生える。バサリ、と言う音をたてて、彼女は宙へと飛んで行った。 
  その姿が小さくなると、山里の携帯電話が鳴り響く。 
 『つきあたりを左に行った所にいる』 
 「サンキュー」 
  つきあたりの手前で、山里は止まった。自分の姿が見えないようにしながら、様子を伺う。飛んでい 
 た山崎も、その隣へと降り立ち、力を解く。 

  山里は、小声で山崎に話しかけた。 
 「しずちゃんさー、すぐブレスレットの石を見つけたよね。けっこう遠くからだったのに」 
  同じく山崎も小声で返す。 
 「見つけたって言うか、知ってた」 
 「……えーと、どういうこと?」 
  山崎が言うには、先程話題に出た『M-1審査員がひそひそと石の話をしていた』際に、何組かファ 
 イナリストの名前が挙がっていたそうだ。 
 「その中に、あのコンビの名前があったから」 
  なるほど。だから二人の姿を見て足を止めたのか。 
 「ふ〜ん。…さてと、そろそろ訊くこと訊きに行こっか」 
  山里は、角を左に曲がった。その後ろを山崎がついて行く。 
 「すいませ〜ん、ちょっとだけいいですかー? 話があるんですよー!」 
  大きな声で馴れ馴れしく、気持ち悪いほどの笑顔で、山里は尋ねた。尾行をした相手に話しかける時 
 は、いつもこんな感じなのだ。 
  本人曰く「悪い印象を与えない為」らしい(山崎に毎回「やめろ」と言われているのだが)。 

  当然コンビは、声の聞こえた方へと顔を向けた。 
  黒髪の男が、金髪の男へと話しかける。 
 「来たよ」 
 「やっぱ使えるって言うだけの事はあるか」 
  感心するように言うと、金髪の男は溜め息混じりに呟く。 
 「…ったく。色々疲れてるってのに……」 
 「色々、ねェ」 
  苦笑気味に、黒髪の男は同意した。 
  
  待ってよ。何で驚かないのさ。まるで俺らが尾行していた事、分かってたみたいじゃない。というか 
 会話の内容から察すると、もしかして――。 
   
  山里の頭に、出来れば当たって欲しくない予測が浮かんだ、その時だった。 
 「で、俺らに何の話です?」 
  目の前のコンビ――東京ダイナマイト、ハチミツ二郎こと高野がおもむろに尋ねてきた。 
  いきなり話を振られた山里は動揺する。 
  早鐘を打つ鼓動を無理矢理押さえ、意を決して、問いかけた。 
  
 「――アナタ達は、どっちですか」 

  
 「『黒』ですよ」 
  
  自嘲めいた笑みを浮かべ、高野は答えた。 
  当たって欲しくなかった予測は、当たってしまったのだ。 
 「こっちの目的、わかりますよね」 
  山里と山崎は、無意識の内に後退りをしている。 
 「…石を渡す気も、そっちに入る気もないです」 
  強い口調で山崎が断言すると、高野の相方、松田が口を開いた。 
 「気がなくても、そうしてもらいます」 
  
  刹那。赤と緑の石が、キラリと光った。 
  
  山里の視界から松田の姿が消える。身の危険を察するよりも早く、体がフッと浮くのを感じた。下に 
 視線をやると、自分がいた所で、松田がこちらを見上げている。 
 「速いな」 
  抑揚の無い声で山崎が言った。彼女は力を発動させた瞬間、山里を抱えて飛んだのだ。 
 「このまま逃げようよ」 
  そう提案する山里に、山崎は反対した。 
 「今逃げても、また別の日に別の芸人が襲ってくると思う。それに……」 
  自分達が二人を倒せば――『黒』から抜けさせる事が出来れば。 
 「…それが一番ええやろ」 
 「…そうだね。俺、バカだなあ」 
  呟いた山里は、何時に無く真剣な表情だ。 
  山崎は、不細工を売りにしている(?)相方の横顔が、少し格好良く見えた。 
 「何かおかしいことあった?」 
  クスクスと笑っている山崎に、山里は聞く。 
 「いいや、別に。下降りるで」 
 「うん」 
  教えたら山ちゃん、どんなリアクションするんやろ。 
  そんな事を考えて、山崎はもう一度、小さく笑った。 
東京ダイナマイト
松田大輔
石…デマントイド(「疾走」。ダイヤモンドの光沢を放つ稀少な石。明るいグリーン)[ブレスレット]
能力…爆発的に動作が速くなる。
走る時に使えば目にも留まらないほどの速度で走れるし、相手を殴る時に使えば威力が増す。
条件…連続/長時間の使用後は、使った箇所が痛むのでまともに動かせなくなる。
 [南海キャンディーズ 能力]