402 : ◆UD94TzLZII :2007/03/19(月) 09:51:33
「はぁっ、はぁっ・・・」 ギブソンは無我夢中で走ってきた。もちろん、その手には黒い石が握られていた。 「・・・なんで、こんなもの・・・」 ギブソンは悔しさと怒りでいっぱいだった。勝手に裏切り者にされた事、 話を聞いてくれなかった事。・・・この石を捨てられない事。 砕こうとすればいつでも砕けるはずなのにその気が起きない事。 「くそ・・・っ。こんなもの・・・!」 腕を振り上げ地面に叩きつけようとした瞬間。 「・・・っ!」 ギブソンの頭に鋭い痛みが走った。 「・・・っんや、これ・・・っ」 「大丈夫?」 突然聞こえた声に驚きながらもギブソンは返事を返した。 「あ・・・大丈夫です・・・」 声のする方を向くとそこにいたのは・・・。 「・・・後藤さん?」 にっこりと笑った後藤だった。その笑顔にギブソンは警戒する事を忘れてしまった。 「大丈夫か?」 「はい・・・」 まだ痛みは残るがさっきよりはましになった頭を持ち上げ、ギブソンは後藤の顔を見た。 「・・・なんでここに?」 「・・・まぁね。いろいろ」 その時、ギブソンの手の中にある石が熱くなった。 「熱・・・っ」 「・・・熱いか?」 熱い、と感じながらもギブソンはその石を手放せなかった。 「どんどん熱くなって・・・うわ・・・っ!」 ニヤリと後藤は笑った。 「くそ・・・っ、なん・・・で、俺は・・・」 「・・・我慢は良くないで?はよ楽になりたいやろ?」 ギブソンの目の前にいたのは彼の知ってる後藤ではなく、石の力に操られた後藤だった。 「・・・っ、うっ・・・ぐ・・・」 「苦しいやろ?この力に身をまかせればええんや」 息も絶え絶えに言葉を続けるギブソンを後藤は可哀想にという目で見つめた。 「はぁっ・・・あ・・・」 ギブソンの目から闘志が消え始めた。 「ええ子や。そう・・・そのまま・・・」 後藤はそっとギブソンのポケットに手をのばした。ギブソンの持つ石を捻り潰すために。 「よし・・・っ!」 間一髪のところでギブソンの攻撃を避けた。 「あちゃぁ・・・失敗、してもうた・・・」 「石の力に抗う気か?大層なもんやな」 「ええ・・・僕、らは・・・貴方、を救わ・・・なきゃ、いけないん・・・でね」 ギブソンははぁ・・・っと辛そうに息を吐きながら、その目に再び闘志を燃え上がらせた。 「・・・ほんまに、可哀相な奴や」 そして後藤は雷をおこした。 「お前が仲間になるって聞いてうれしかったのに・・・こんなところでさよならするなんて・・・っ」 ギブソンが後藤に蹴りを入れた。 「無駄な講釈たれんと、はよ攻撃したらどうです?」 いつの間にかギブソンは回復していた。 「・・・まさか!」 「ええ、壊す前に使わせてもらいました」 ギブソンは後藤に黒い石を見せつけ、捻り潰した。 「・・・ふん、一度使ったら終わりや。嫌でも石の力に飲み込まれるぞ」 「僕の事、軽く見すぎとちゃいますか?そんなの勝って見せますよ」 そして、ギブソンの石が光を放った。 「若いってのはええなぁ。無茶できて」 後藤は肩をすくめた。 「っらぁ!!」 後藤はギブソンに突っ込んでいった。 「・・・さすが、久馬さんを負かしただけの事はありますね」 ギブソンの挑発に後藤は薄く笑った。 「その石防御しかでけへんのやろ?ずっと守りっぱなしか?」 「まぁ、そうですけどね」 「じゃあ精々防御しぃや」 「・・・僕は、久馬さんみたいに優しないですよ?」 「それは良かった。あいつはつまらんかったからな」 後藤はニヤリと笑った。 「楽しませてくれや」 後藤が攻撃をしかければギブソンの石の力で防御され、跳ね返される。 かと言ってギブソンの攻撃は微力なものでさほどのダメージにはならない。 戦いは進展を見せない・・・かに見えたのだが・・・。 「ぐぁっ・・・!」 突然、後藤が膝をついた。 「どないしはったんですか?・・・急に」 「何って・・・お前・・・!」 後藤はギブソンの周りにある濁ったものに顔を顰めた。 「あぁ・・・。なんででしょうね?なんか力が湧いてくるんですわ」 「飲み込まれ始めたか・・・」 「・・・楽しませてくれないんですか?後藤さん」 頭でわかっていても、ギブソンの笑みに後藤はわずかだが、恐怖を感じた。 「ギブソン!!」 「え・・・?」 その声にギブソンの動きが止まる。 「お仲間さんの登場って訳かい・・・」 「なんで・・・?僕の事・・・追ってくるんですか?」 ギブソンは目の前にある光景が信じられなかった。 裏切り者と言われて追い出されたのに、目の前には・・・。 「久馬がな、鈴木にがつーんと怒ったったんや」 「え・・・久馬さんが?」 「せや。こんな大事な時に何してんねん!ってな」 その話は普段の久馬から想像するに、到底信じられるものではなかった。 「・・・・・」 「大丈夫や、もう鈴木も許してくれる。お前が自ら黒い石を持ってるなんて思うてない」 優しく久馬が語りかけるとギブソンの周りの濁ったものが消え失せ、同時にギブソンは安心して、張り詰めていた力が抜け、腰を抜かしたように膝から崩れた。 「素晴らしきユニット愛、か。・・・なぁ?久馬」 後藤が久馬を睨みつける。 「そうや。・・・後藤」 久馬も後藤を睨みつける。 「これから覚悟するんやな」 「はん。何にもでけへん奴が」 後藤は久馬を鼻で笑った。 「俺だけとちゃう。全員の力を結集してお前に攻撃をしかけんで」 「・・・勝つのは俺や」 後藤はニヤリと笑った。 「・・・お前を救ったるからな。待っとけよ」 久馬は後藤とすれ違いざまに小さい声でそう言い、去っていった。 「・・・やれるもんならやってみぃ」 そして後藤もその場を去った。 「どうでした?ギブソンの様子?」 結果を待ちきれなかった菅が瞳を輝かせて聞いた。 「どうもこうも途中で久馬達が来て台なしや」 がっくりと肩を落とす菅。その横で宇治原がうんざりしたように言った。 「・・・しぶとい人やなぁ。ほんまにもう」 「なぁ・・・説明してもらわなあかん事が一個あんねん」 後藤の冷たい声に一瞬、宇治原は身を固くしたがすぐに切り換え、答えた。 「何ですか?言ってみて下さい」 「ギブソンに何持たせた?あの雰囲気、あの感じは尋常やなかった」 「僕らと同じ石ですよ」 宇治原はやんわりと答えた。 「嘘つけ!!」 机を叩き、後藤が叫んだ。 「あの感じは・・・あいつは、俺の知ってるあいつとちゃうかった!」 「悪の石の力に決まっとるやないですか」 先ほどの後藤の声に劣らぬ冷たい声で宇治原は言った。 「はぁ?なんでお前がそれ持ってんねん?」 「あ〜もう、欝陶しいなぁ!」 黙っていた菅が苛立しげに声を張り上げた。 「なんやねん、その言い方は!」 後藤が菅を睨みつけた。 「こんなに役に立たへんとは思わなかったわ。そら俺が紹介した人や、あの人ら潰すにはええかも知らんと思うたよ、でもな、いちいち質問するわ、すぐ混乱するわで欝陶しいったらないねん、もう!!」 菅は後藤への不満を言い切るとはぁと息をついた。 「菅」 宇治原が静かな声でそう言ったあと、鈍い音がした。 「え・・・?」 菅は自分におきた事が判らず、呆然とした。 「戦いに個人的な感情を挟むな。わかったか?」 「あぁ・・・ごめん。感情的になりすぎたわ」 菅はしゅんとして謝った。 「ええねん。そういううっといんはな・・・無くせばええねん」 「どういう事?」 菅が首を傾げた。 「完全に黒に染めたんねん。俺らの完全なる駒にすれば、余計な事も考えんで済む」 宇治原はにこっと笑った。 「さすが、宇治原や。・・・でもどうやって?」 「簡単なこっちゃ」 宇治原は先ほどとは違う、背筋が寒くなるような笑顔で言った。 「限界まで混乱さすねん。頭がイカれてまうくらいに。そうすればもう戻ってくるのは不可能や」 「楽しみやなぁ。で、どんな事でさすん?」 「俺とちゃう。混乱させるのは・・・あの人達や」 残酷な方法に菅は思わず生唾を飲んだ。 「自分らのせいで守ろうとした人が狂ってゆく・・・か」 「せや。これで立ち直れない程のダメージを与えたんねん」 菅は最近の宇治原は久馬達を倒すのに躍起になっていて、本来の目的を忘れかけているのではないかと気になっていた。 「宇治原、俺らの目的忘れてへんよな?」 「もちろん。一番になるには邪魔な物は消していかなあかん。せやから、まず久馬さん達を消さなな」 「う、うん・・・」 何故か納得のできないもやもやしたものが菅の内に湧いていた。 |