東京花火−scene2


353 :[東京花火−scene2] ◆yPCidWtUuM :2005/11/19(土) 23:42:57 

…収録後の楽屋を、訪れる影2つ。 


「よお」 
「ちょっと邪魔するよ」 


軽い挨拶とともに楽屋に入ってきたのは、2人が先ほどまで出演していた番組のMCであるくりぃむしちゅーの 
有田と上田だった。最近共演する機会が増えてはきたものの、彼らがコンビで自分たちの楽屋を訪れるのは珍しい。 


「どうもおつかれさんです」 
「おつかれさんですー」 


ふたりは少しばかりいぶかしく思いつつも、多くの番組を持つこの先輩コンビに礼儀正しく頭を下げた。 
有田と上田はそれに「おう」などと簡単に応じる。その後、すばやく話を切り出したのは有田だった。 


「あのさ、単刀直入に聞くんだけど」 
「はい?」 
「ひょっとして、石持ってねえか?」 


見事と言うべき素早い切り込みに、返事をした河本は一瞬あっけにとられた。あまりといえばあまりに直接的な 
質問だったので、返答に困ったのだ。石に何か特殊な力があるなら、簡単に持っていると答えてしまうのも 
まずいんじゃなかろうか、と思った河本が迷っている間に、井上が代わりに答えてしまった。 


「持ってますー」 


のんびりした口調だが、これは重大な告白だ。河本は『ちょっと待たんかい!』と思いつつ相方を見やるが、 
井上は何ら悪びれたところなく、いつも通りのきょとんとした表情で椅子に腰かけている。 
返答を聞いた有田の方も、そう簡単に肯定の言葉がかえってくるとは思っていなかったらしく、ちょっと驚いた顔だ。 
上田に至っては頭を抱えている。
おそらく有田のバカ正直な質問で慌てたところに、さらにバカ正直な井上の返事が来て 
打ちのめされたのだろう。河本はおおいに上田に共感した。 


「上田、ほらやっぱ持ってるってよ!さっき共鳴したもんなー」 
「…おう」 
「何?何暗くなってんだよ?」 



無自覚な有田とそれに疲れる上田に苦笑しつつ、河本は有田の言葉尻をとらえる。 
『共鳴』とはいったい何のことだ?自分たちが石を持っていることが有田たちには伝わっていた理由は? 


「あの、有田さん、『共鳴』って?何で俺らが石持っとるってわからはったんですか?」 
「それはあれだ、俺らも石持ってるから。光ったんだよ」 
「?は?」 
「ああもう、有田代われ!…悪いな、ちゃんと説明するから」 
「はあ…」 


ため息まじりに有田を制した上田は、自分の石をとりだし、有田にも2人に石を見せるよう促して、 
まず自分たちの石について簡単に語り始めた。河本の基本的な質問から、2人が石を手に入れたばかりで 
何も詳しいことを知らないと察したらしい彼に、河本と井上は自分たちのもとに石がやってきた経緯を話す。 
上田はそれにじっと耳を傾けてから、はじめは石の共鳴と力について話し、それから白のユニット、 
黒のユニットについての説明をして、最後に自分たちが白のユニットに属していることを告白した。 


「もしお前らの石の力が使えるものだったら、黒の奴らは自分たちの側にお前らをとりこもうとするだろうし、 
 それができなきゃ倒して石を奪おうとするだろう。
 俺らはお前らに『今すぐ白に入れ』とか強制する気はないけど、 
 できればお前らと戦うようなことは避けたいと思ってる。だからこうして話をしにきたんだ」 


その言葉に河本は大きく頷いた。上田の話を聞いたところで、今すぐ白につこうとまでは思わないし、 
逆に黒につこうとも思わない。わけもわからず戦闘に巻き込まれるのはまっぴらごめんだし、
この2人の敵になる気もさらさらない自分にとって、上田の言葉は至極受け入れやすいものだ。
隣で井上も小さく縦に首を振っている。 
そんな2人の様子を見て上田の話が終わったと判断したのか、
今まで黙って話を聞いていた有田が、『待ってました!』 …とばかりに口を開いた。 


「なあなあ、そんじゃさ、まだ2人は自分の石の力がどんなんだかわかってねえの?」 
「はい、さっぱりですわ」 
「なー、何なんやろな?」 


河本は肩をすくめ、井上は河本と顔を見あわせて首を傾げる。石を巡る芸人たちの状況は理解したが、 
自分たちの力がわからないことには何をどうすればいいのかさっぱりだ。そんな2人に有田は言う。 


「まあでも、黒の奴ら来たら嫌でもわかるよ…ってお前らの力が戦闘に使えなかったらマズいな」 
「もしどっちもそうだったら、攻撃系の奴に襲われたらひとたまりもないぞ」 
「そっか、そーだよなあ…何か能力わかる方法とかねーのかよー上田」 
「んなもん俺が知るか!…うーん、今までの奴らって大体みんなその場で石が発動してたしなあ」 



有田と上田の2人は後輩の身の上を案じ、
戦闘に巻き込まれる前に石の力を特定する方法はないかと考えを巡らせる。 
そのとき、有田が突然「あっ!」と小さく叫んだ。 


「お前の能力でこいつらの石の記憶読めばいいじゃねーか!」 
「おいおい、俺の石じゃ記憶は読めても能力は…いや、前に持ってた奴が使った記憶があるかもしれねーか」 
「そうだよ、石が覚えてるかもしれねーだろ」 
「けど俺いくらなんでも見ただけで石の名前なんてわかんねーぞ?しかも蘊蓄まで言わないとなんねーし…」 


ぶつぶつ言いながら上田は河本と井上にむきなおる。 


「ちょっと見せてもらってもいいか?」 
「あ、はい」 
「どーぞ」 


差し出しされた2つの石をしげしげと見つつ、上田は「あれ?」と小さく声を上げた。 



「この井上のって、ひょっとして金じゃねーか?」 
「あ、上田さんもそう思わはります?」 
「…え、俺のって金なん?石やないんや」 
「ああ、多分。まあこれも鉱物っちゃあ鉱物だしな…よし、こっちだけなら何とかなる」 


そう言って上田は井上の金の粒に触れ、蘊蓄を脳裏から引っぱりだす。 


「えー、金といえばみなさん、指輪やネックレスなどの装飾品としてお馴染みの貴金属ですが、 
 これはおそらく人類が装飾に使った初めての金属だろうと言われています。古代エジプトの 
 ヒエログリフでも金についての記述があるくらいでして…」 


よどみなくつらつらと言葉を並べながら、小さな欠片に残った記憶を読みとっていく作業に入った。 
その欠片の記憶は今朝の井上家の玄関、おろしたての靴の中から転がり出て井上とご対面したところまで戻ると、 
それ以前は急に真っ暗になる。ただ、真っ暗な中で一瞬、誰かの右手が石にむかって伸ばされ迫る場面が、 
映画のワンシーンのように閃いた。男の左手には何か、茶色い大きなものが握られている。 
そしてその男の顔がノイズのようにさし込み、消えた。 

…その顔は自分の記憶の中にある顔のひとつに重なる。とたん、男が左手に握っていたものの見当がつき、 
上田はふっと笑った。石から手を離し、能力の代償である激痛が背中を走り抜けていくのに耐えてから、言う。 


「ほとんど真っ暗だったけど、一瞬だけこの石に手を伸ばした奴の顔が…多分アイツ、何か知ってる」 
「…アイツ?それ誰だよ上田」 
「…ギター持ってた。波田陽区だ」 


 [くりぃむしちゅー 能力]