東京花火−scene5


363 :[東京花火−scene5] ◆yPCidWtUuM :2005/11/19(土) 23:51:40 



ここは都内のとある居酒屋の個室、顔をつきあわせているのは2コンビ1ピン、計5人の芸人だ。 

くりぃむしちゅーと次長課長とギター侍。つまりは有田、上田、井上、河本、そして波田。 
有田と上田が波田に渡りをつけて実現した顔あわせである。 



運良く井上と河本が黒のユニットに襲われることはいまだなく、石の能力も不明のまま2日がすぎていた。 
波田の手元に残った例の石もその後特に発動することはなく、抜け落ちた記憶も戻っていない。 
井上たちにはこの会合に顔を出す以外、選択の余地がなかったし、波田も上田たちの話を聞いて自分の拾った石と 
何か関係がありそうだと思い、気になってここに足を運んだのだった。
3人それぞれがぼんやりとした不安を抱えたまま、有田の言葉で会は始まる。 


「んじゃ始めよーぜ…まず波田、聞きてーことがあんだけど」 
「はい」 
「井上が持ってる石の記憶を上田が力使って探ったら、お前がそん中に出てきたんだと」 
「ええ、聞きました」 
「お前はとりあえずアレだ、井上の石について何か知ってんの?」 



あいかわらず単刀直入な有田の質問に、横の上田は苦笑している。 
波田は自分のほうをうかがっている河本と井上の様子をそっと確かめながら、さりげなく井上の石の確認を要求した。 


「あの、井上さんの石ってのは…」 
「井上、見せてみ」 
「あ、はい」 


井上は手の上に金の粒をのせる。それをのぞき込み、もとより心当たりがなくもなかった波田は、
その石に自分の姿が記憶されていたわけをはっきりと理解した。 


「…これ、俺が何日か前に拾おうとしたやつですね」 


そう、井上の石は波田があの夜、2番目に拾おうとしたものだったのだ。 
だが、その石がなぜ井上のもとに行ったのかまではわからない。 


波田は諸々の状況から、この場での自分の立ち位置に関して判断を下すことにする。 
白にも黒にもくみせずひとり動いてきた彼は自然に、過ぎるほどの用心深さを身に付けていた。 
今日も収録もないというのに、不測の事態に備えて自らの武器となるギターを抱えてこの場に表れたほどだ。 

 上田さんや有田さんは白ユニットに属している。彼らは井上さんの石のことで自分に声をかけるとき、 
 自分たちの能力を隠そうとしなかった。こちらが黒ではないかと疑う様子のなかったところから考えて、 
 おそらく自分が石を回収し、ふさわしい人間に配って回っていることは誰かから聞き知っているはずだ。 
 話の出所はきっと川島さんあたりだろう。かといって白に勧誘しようという気もなさそうだし、河本さんと 
 井上さんが自分の石の能力も知らないような状態である以上… 

“この場で詳しいことを話したとして、自分が不利になったり、危害が加えられたりする可能性は低い”という結論を 
出した波田は、あの夜に拾った透明な石をとりだして見せ、自分が黒いユニットに襲われたときの一部始終を 
話して聞かせる。その話を聞いて少し考え込む様子を見せていた上田は、波田の持ってきた石を手にとって言った。 


「話を聞く限りじゃやっぱり、この石が何か力を発揮したとしか思えないな。もしかして波田、お前が拾えなかった 
 もう1個の石って河本のじゃないか?」 


その言葉で河本がポケットからとりだした石に、波田は確かに見覚えがあった。
上田の言う通り、これは波田を襲った3人組の1人が持っていたものだ。 



「間違いないですね、これは俺を襲ったもうひとりが持ってた石だ」 
「…となると、お前が拾った石ってのは他の石を飛ばす力があるんかな?」 
「他の芸人のところに、ですか?」 
「多分、わざわざ井上と河本のとこに来たのはこいつらと波長が合ってるんだろ」 
「言われてみればそうですね。俺、自分の石のせいか何となくその人にふさわしい石ってわかるんです。
 この2つの石は お2人とぴったり波長が合ってる…」 


波田はそこまで言ってふと思った。この石は自分の望みを叶えたとも言えるかもしれない、と。 
自分の望みは悪意を持って石を使う人間からそれをとりあげ、ふさわしい人間に渡すことだ。 
井上と河本が持っている石は、もしあのとき自分が普通に拾っていたとしても、
いつかどこかでこの2人に渡すことになっていただろう。それは自分の胸元のヘミモルファイトの意志でもある。 


「けどさ波田、お前、戦闘のときの記憶もまるまる抜けてんのか?だったらこいつらの石がどんな力持ってるかは 
 結局わかんねーままだな」 


有田はちょっと残念そうにそう言ったが、波田はそれを否定した。 



「いえ、記憶全部抜けてるわけじゃないんですよ。覚えてる部分もあります。
 少なくともこっち、井上さんの石は攻撃用じゃないです。戦闘中に後ろに下がってたから…
 ただ、そいつ確かこの石を発動しようとして失敗してたはずなんです。
 何だっけな、何かおかしなこと言ってたんだけど…」 
「おかしなこと?」 
「ええ、発動が失敗したときに…えーと、『凍る』とか何とか…」 
「『凍る』…?何だそりゃ、何か冷やす系の能力なんかな?」 
「さあ、そこまでは…。河本さんの石の方はちょっとよく覚えてないんです、すみません」 


記憶が混乱している波田の話は要領を得なかったが、覚えていないものは仕方ない。 
有田と波田のやりとりを聞いていた上田が、少し真剣な顔をして言った。 


「波田、お前を襲った奴らが力足らずでこの石の発動に失敗して自爆したっていうなら、
  これは多分それなりの力がある石だ。だとしたら黒の奴らはきっと回収のためにまた襲ってくると思うぜ。
 まさか石がこいつらのとこに来てることまではわからないだろうから、
 お前がまた襲われる可能性は高いと思う。気をつけろよ」 


上田の、自分の身を案じる言葉をありがたく思い、波田はうなずく。 
こうしてそれほどの進展も見せることなく会合は終わり、5人は酒と肴に手をつけたのだった。