368 :[東京花火−scene6] ◆yPCidWtUuM :2005/11/19(土) 23:54:51
珍しい酒席をそれなりに楽しんで、5人は店を後にし、ほろ酔い加減でタクシーを拾おうと歩き出した。
有田はすっかりご機嫌で、首を軽く右腕でキメたような状態で上田を引きずり、長州の『パワーホール』を
大音量の鼻歌で歌いながら前を歩く。上田は今にも倒れそうになりながらよたよたと相方に連れて行かれた。
「…離せ!首キマッてる!相方不慮の事故で殺す気か!」
「ふんふんふふ〜ん♪ふふふふふふふふ♪ ふんふんふふ〜ん…」
…先の角を曲がったらしく姿は見えないが、ここまで響いてくるほど2人の声は大きい。
残りの3人はなんとなく固まって歩いていたが、スニーカーの紐が解けた井上は、皆から少し遅れる。
今日の集まりに使った居酒屋は奥まったところにあるので、街道に出るまでが暗いせいか、前を行く相方と波田の背が
わずかに闇に霞みぼやけていた。吹きすぎた冷たい風に、冬が近いなと思いながら上着の襟をかきあわせる。
そういえば自分の石を使っていた奴が、『凍る』とか言ってた、と波田は話していた。
こんな季節にそない寒々しい力ってのも何やなあ、と小さくごちて、ポケットの中の金の粒に触れてみる。
その瞬間、何となく指先から石の波動のようなものが伝わってきた気がして、慌てて井上はそれをとりだした。
…光っている。
これは例の『共鳴』という奴だろうか、それにしてはこのあいだと違う、何か嫌な感じがする。
「…準一!」
とっさに井上は前にいる自分の相方の名前を呼んだ。そのただならぬ声の調子にふり返った河本が今度は叫ぶ。
井上の後ろに凄まじいスピードで何かの影が迫って来ていたのだ。
「聡、伏せろ!」
それに反応して井上はバッと身を伏せた。凄まじいスピードでその上を人影が飛び越える。
人影はしなやかな低い姿勢でアスファルトの上にズザッ、と急ブレーキをかけて着地し、地面を見つめたまま言った。
「…ちぇっ、ラチるの失敗しちゃったよ二郎ちゃ〜ん」
ちょっと拗ねたようにこぼした言葉は、その声の調子と裏腹にまるで穏やかでない。
しかしその声と彼が呼びかけた名前に井上は耳を疑い、河本も目を見開いて硬直した。
「駄目だろ松田、もっと静かに近づけよ」
呼びかけに答えてのっそりと表れたのは、金髪の横に大きな男。
暗闇にまぎれて近づいたのは、東京ダイナマイトの松田と高野だった。
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