Last Saturday[3]


221 :Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/18(土) 23:43:30 

 福田が怒りを顕わにして叫んだ瞬間、石が熱を持ったように感じられた。 
 しかし、そのすぐ後に福田がはっとして指の隙間から石を覗いた時は、既にその熱さは 
消え去っていた。気のせいか、と思い直し、福田は再び吉田を睨み付ける。 
「言うとくけど、全然ふざけてなんかおらんで。大まじめや」 
 吉田は福田の行動にも気づかないまま、福田の叫びに対し言葉を返した。 
 その後さてと、と言って再び石を光に透かす。 
「跳ね返ってくる前に、決着つけとかんとな」 
 その言葉で、確実に次の行動に移るのだと悟った福田は思わず身構える。構えたところ 
でどうにもなりそうにない、厄介な能力を使う奴だとは思ったが、そうする以外に自分の 
取るべき行動が思いつかなかった。 
 対する吉田はふう、と一息ついた後、がっと口を開けて再び大声で叫んだ。 

『福田! もしお前のいる場所に、ちょうど隕石が落ちてきたらどうすんねん!』 

 うわっ、と声を上げて、福田は思わず顔を手で防ぐ姿勢をとっていた。 
 目を閉じながら、福田はぼんやりと思っていた。自分も吉田の妄想に飲み込まれ、徳井 
のような無防備な姿になってしまうのか。そして、石は奪われるのか――。 
 しかし福田に、その瞬間はいつまで経っても訪れなかった。 
 あれ、と手を下ろし、向かい合う吉田と小杉を見つめる。吉田と小杉にとっても予想外 
の出来事だったようで、二人とも焦っている様子だった。 
「な、なんでや?」 
「お前、何ともないんか?」 
 小杉と吉田がかなり焦った様子で福田に尋ねてきた。 
「ああ。別に、なんともないけど」 
 なんと緊張感のないやりとりだろうと思いながら、福田は首を傾げた。徳井はあんなに 
も動揺していたのに、自分には全くそんなことがなかった。 
 ふと、福田は手の中にある自分の石を握り返す。すると、今まで冷たかったはずの石が 
じんじんと熱さを帯びていた。 
 そこで福田は先日、徳井が石の能力に目覚めた時のことを思い出す。あの時確か徳井 
は、石が熱を持っているのだとしきりに訴えていた。 

 ――まさか、これが俺の能力? 
 吉田の能力が福田に効かなかったことと、関係があるのかもしれない。 
 現に吉田は、福田の目の前で石を握ってかなり動揺していた。 
「なんでや!? これ、ちっとも反応せえへん!」 
 そう叫ぶ吉田は、どうやら石の能力が使えないことを嘆いているらしかった。隣にいる 
小杉が必死になだめているが、一向に興奮が収まる様子がない。 
 彼の動揺した顔は、今までの歪んだ顔からは想像できないほど、素に近いものだった。 
いつもロケや無茶な企画をやらされて、危険な状況に置かれた時の彼の顔、そのままである。 
 その顔を見て、やっぱり吉田は吉田や、と呑気なことを一瞬思ってしまった福田は、首 
を振ってその思いを振り払った。 
 それからしばらく二人の話が終わるのを待ってみるが、終わる気配すら見せないので、 
やっと福田は不服そうに声を上げた。 
「ちょっと! 話はまだ終わってへんやろが。騒ぐんは勝手やけどなぁ、徳井の石返してからにせえ!」 
 そこでようやく、吉田は騒ぐのを止めて小杉と共に福田の方に向き直った。 
「それはあかん。そんなん言われて、はい分かりましたって返す奴がおると思うんか」 
 そらそうか、と福田はため息をつく。だからといって、そのまま彼らを見逃すわけには 
いかない。福田は石を握りしめたまま、じり、と足を後ろにずらした。 
「おい。どうしても返してくれへんのやったら、力ずくでも取り返すで」 
 福田は挑戦的な態度に出た。特に腕っ節に自信があるわけでもないが、最終手段として 
はやむを得ないだろう。 

 すると先程まで笑みを浮かべていた二人の顔から、急に表情が失せた。冷めた目つき 
で、吉田は福田を睨み付けてくる。 
「そんなに言うんやったら、取り返してみいや。石は小杉が持っとるわ」 
 そう言われて福田が小杉の方に視線を移すと、小杉は手に持った石を福田の方に見せて 
きた。それはまぎれもなく徳井の石。福田はすぐに小杉の方に行って石を取り返そうと 
思ったが、小杉が挑戦的な目つきで睨んでくるのを見て、躊躇してしまった。 
 何しろ小杉は体育会系だ。福田よりは鍛えられた頑丈な肉体を持っている。力ずくでは 
勝てないかもしれない。 
 その一瞬の躊躇が、福田の隙を生んだ。 
「迷ってる暇なんかないでぇ!」 
 小杉に物凄い勢いで突進され、福田はバランスを崩してその場に倒れ込んだ。覆い被さ 
れ、石を取られそうになるが、福田は強く石を握ったまま決して渡そうとしなかった。そ 
れが今の福田にできる、唯一の抵抗だった。 
 しかし、やはり小杉の力は強い。腕を掴まれたり、地面に叩きつけられたりしているう 
ちに、福田の体力は徐々に失われていった。 
「早よ放した方が、身のためやと思うけどな」 
 苦しさに喘いでいる福田の耳に入ってきた、小杉の冷たい声。その声と同時に、福田の 
腕はより強い力で押され、福田は思わず石を放してしまいそうになる。しかし危ういとこ 
ろで、なんとか手のひらに力を入れて石を落とすまいとした。 
 おそらく小杉は、福田が石から手を放すその瞬間を狙っていたのだろう。ちっと舌打ち 
するのが聞こえ、小杉はそのまま言葉を続けた。 
「ほんまにしぶとい奴やな……あんまり手荒なことはしたくなかったけど、こうなったら 
しゃあないか」 
 そう言い終わった瞬間、小杉の拳が福田の顔の真上に上げられた。福田は顔が引きつ 
り、体が固まった。この後の彼の行動は容易に想像できる。福田は恐怖を覚えていた。 
「石を渡さへんかったこと、後悔するんやな!」 
 小杉の鋭い声が響き、拳が一直線に福田の顔面に落ちてくる。 
 福田はぐっと目を閉じて歯を食いしばり、その後の瞬間を覚悟した。 
  

 ドカッ、という鈍い音が、空に響き渡った――。 


「……おい小杉。それはやりすぎとちゃうか」 
 相方の落ち着いた声が聞こえた気がして、福田ははっと目を開けた。 
 自分の体が押さえつけられている感覚がなくなっていたので、慌てて起きあがり、自身 
の体を見回した。 
 先程まで小杉に押さえつけられていた痛さは少々残っていたが、どうやら直接小杉に殴 
られたわけではなかったらしい。じゃあさっきの音は、と福田は小杉を見て、あっと声を 
上げた。 
 小杉は福田の目の前で、痛そうに頭を押さえていたのだ。 
 そしてその傍らには、怒りを顕わにした相方・徳井の姿。拳を胸の前にかざし、小杉を 
睨んでいる。 
「ちょ、徳井くん、なんで……」 
 福田が起きあがったのに気づいたらしく、徳井は安心したように軽く息を吐いた。 
「危ないとこやった。福田、怪我ないか?」 
 徳井の問いに、再び体を見回して大丈夫や、と頷く福田。 
「でも、なんで小杉が――」 
「何すんねん、徳井!」 
 福田が再び徳井に問いかけようとした時、頭を押さえていた小杉が立ち上がり、徳井の 
方に凄い剣幕で詰め寄った。一方徳井はあくまでも冷静なようで、詰め寄られても表情を 
一切崩さない。 
 徳井がやばい、と思って福田が立ち上がった時、小杉は徳井に向かって脅すような口調 
で言った。 
「おい、ほんまに容赦せえへんで。それでええんか? あ?」 
「小杉。俺に構ってる場合か。お前の相方、大変なことになっとるぞ」 
 徳井は冷めた口調でそう言い、吉田のいる方を指差した。つられて小杉、福田がそちら 
を振り向く。 
 するとそこには、すっかり取り乱してしまっている吉田の姿があった。先程まで暗示に 
かけられていた徳井と同じ顔をして、何か言っている。福田が小杉の方を振り向くと、小 
杉は悔しそうな顔をしていた。 

「くそ、もう切れたんか……間に合わへんかったか」 
「何がどうなってんのかは知らんけどな。早よ行ってやった方がええんとちゃうか?」 
 小杉にそう言う徳井。小杉はくそっ、と舌打ちし、相方の方へ駆けていこうとした。し 
かしその片腕を、今度は福田が強く握った。 
 小杉は驚いたように福田の方を向き、ふりほどこうとするが、福田と一緒に徳井もその 
腕を握り、絶対に振りほどかれないようにした。 
「おい。それは後の話や。徳井くんの石返すのが先やてさっきから言うてるやろ」 
 福田がそう言うと、小杉は不機嫌そうにふん、と鼻を鳴らして叫んだ。 
「何を偉そうに言うとんねん!」 
 その瞬間、徳井と福田は小杉の強い腕力に引っ張られ、バランスを崩して倒れていた。 
二人がかりで押さえかかっても、やはり小杉の鍛えられた腕力には敵わない。 
 苦渋に顔を歪める立場が逆転し、チュートリアルの二人は体を起こして同時に小杉を睨 
み付けた。先程振り回されて倒された時の痛さで、すぐに立ち上がれるような状態ではない。 
 小杉は二人の視線を受け、再び鼻を鳴らす。 
「しばらくそのまま座っとけ」 
 そう言い捨て、小杉は未だに動揺し続けている吉田の方へ行き、腕につけたブレスレッ 
トの石を握った。 
「ほんまに、これがあるからお前の能力はちょっと厄介なんや――」 
 呆れたようにそう呟いたかと思うと、すう、と息を吸い込み、小杉は吉田に向かって思 
いっきり叫んだ。 
『吉田、お前考えすぎやねん!』 
 その途端、吉田がはっとして動きを停止させた。きょろきょろと辺りを見回し、隣に小 
杉が立っているのを見て、お、おう、と言いながら手を挙げる。 
「なんや、もう跳ね返ってきとったんか……」 
「ほんまに、手間かけさすな。それより早よ、あいつらにもう一回暗示かけたってくれ」 
 小杉は顎で、そろそろと立ち上がり始めたチュートリアルの二人を指す。吉田も素早く 
立ち上がり、分かった、と小杉に向かって頷いた。 

 一方チュートリアルの二人は、痛みに耐えながら立ち上がり、同時に頷いてブラックマ 
ヨネーズの二人の方へと駆けだしていた。 
 二人でぶつかっていき、一気に徳井の石を奪い返す作戦である。単純ではあるが、何も 
武器を持たない彼らにはこうするしか対抗手段が残されていなかった。 
 それに気づいた様子の吉田と小杉は素早く反応し、吉田が叫んだ。 
『お前ら、地面が突然崩れて落ちてったらどうすんねん!』 
 その瞬間、チュートリアルの二人は動きを止め、あっという間に崩れ落ちた。二人とも 
首を振り、息も荒く何かを呟いている。 
 暗示にかけられた状態というのは、例えどんなに精神が強靱な者であろうともただ無防 
備になるしかないという恐ろしい状態である。ちょうど海で溺れる夢を見て、はっと起き 
たら、まるで水の中でもがいていたように息が荒くなっていた――そんな状態なのだ。 
 無防備になった二人の姿を見てにやりと笑い合い、ブラックマヨネーズの二人は福田の 
方に近づいていった。この状態でも石を握りしめている福田に、ある意味感心するけどな―― 
と吉田は笑い、福田の拳をほどき、彼の石をやすやすと手に入れた。 
「これで終わりか。なんや呆気なかったなぁ」 
「はは、ほんまや。小杉、後で俺に跳ね返ってきたら、頼むぞ」 
「了解や」 
 二人は再び笑い合い、動揺したままのチュートリアルの二人を置いてその場を立ち去ろ 
うとした。 

「――そこのブラックマヨネーズの二人」 

 自分たちのことを呼ばれたような気がして、吉田と小杉は周囲を見回す。 
 しかし声の主は見つからず、二人がそのまま帰ろうとした時だった。 
「吉田も小杉も、どっちも大怪我して倒れとけ!」 
 声がその場に響き渡った途端、吉田と小杉は声を上げる間もなく、何か強い力を受けて 
その場に倒れ込んだ。あまりに強い力だったのか、二人は倒れたまま動かなくなった。 

 一方、早くに暗示が解けた福田は徳井を揺すり、徳井に我を取り戻させた。二人は立ち 
上がり、その後福田があっと声を上げた。 
「やばっ、俺の石なくなってる!」 
「えっ、嘘! 取られたんか?」 
「かもしれん……くそっ」 
 福田が悔しそうにそう吐き捨て、ふと周りに視線を動かした時だった。自分たちがいる 
場所の近くで、完全にノックアウトされているブラックマヨネーズの二人を発見したので 
ある。 
 福田は慌てて徳井にもそれを気づかせ、二人はブラックマヨネーズの二人の倒れている 
方に駆け寄った。 
「おい、どうなってんねん。こいつら倒れてるやんか」 
「そんなん、俺にもわからん」 
 徳井の問いに、福田も首を振る。自分たちに暗示をかけ、有利になっていたはずの彼ら 
が何故こんな場所で倒れているのか、見当もつかなかった。 
「よう、徳井に福田」 
 二人が首を傾げてその場に立ちつくしていると、突然前の方から一人の男が手を挙げて 
歩いてくるのが見えた。その男の姿を確認した途端、福田と徳井は同時に声を上げた。 
「たむらさん!」 
「なんとか、助かったみたいやな」 
 そこには、「せやねん!」での共演者の一人・たむらけんじが、にっと笑いながら立っていた。 


228 :Last Saturday  ◆TCAnOk2vJU :2006/02/19(日) 00:07:48 
チュートリアル・福田 充徳 
石:ヴァリサイト 
効能:物事を冷静に見つめる助けを促す。 
能力:相手の能力を一時的に使えなくする。 
   また、使い方次第で相手の興奮や精神ダメージを癒すように持っていくことも可能だが、 
   直接働きかけることはできず、その手助けをするのみ。 
条件:ツッコミ台詞において能力発動。 
   一度の発動で抑えていられる時間はその時によって様々で、1分〜5分間。 
   これを福田自身が決めることはできない。 
   また、抑えていられる時間を超えてなお抑えようとすると大量に体力を消費する。 

ブラックマヨネーズ・小杉竜一 
石:ドロマイト(弱気を払い、積極的で大胆な行動ができる)/ブレスレット 
能力:「考えすぎやねん!」と一喝することにより他人の抱く迷いをかき消す事ができる。 
   ちなみに、アクアオーラ使用者が代償として見ている幻影に対しても効果はある。 
   また迷いを消した後「○○したらええんちゃう?」とアドバイスすることにより、 
   相手を実際そのアドバイス通りに行動させる。 
条件:アドバイスは悩みに見合った適切なものでなくてはならない。
   (朝早く起きたい→目覚ましセットしたら? 等) 
   故に、小杉が相手の悩みを把握していなければならない。 
   また、アドバイスした人物が目的を達成した時点でその暗示はとける。 

たむらけんじ 
石:ロックルビー 
効能:感情の解放。心の痛みを癒す効果がある。 
能力:「○○死ね!」等と芸人の悪口を名指しで言うことで、その芸人に 
   自分の今の気分の高まりをそのまま物理的ダメージとして与えることができる。 
条件:必ず名指しで悪口を言わなければならない。 
   また、相手にぶつけられた感情エネルギーは消費するため、
   発動するとしばらくローテンションになる。 
   その間に再び能力を発動しても、気分が高まっていないために大したダメージにはならない。 


今回はここまでです。一応三人の能力を出してみました。