ONE NIGHT R&R [2]


220 名前:シャロン ◆ygLwUQlNuI   投稿日:2005/03/23(水) 01:16:24 

・・・最近、雰囲気悪いな。
ワンナイ収録スタジオで、宮迫はふと思った。
この現場に限らず、どの現場でもなのだが。
今まで中の良かった芸人が急に険悪になっていたり、妙にコソコソしていたり・・・。

・・・これも、「白いユニット」と「黒いユニット」とかゆーのが関係してるんやろか。

自分も持っている、不思議な力を持った「石」。
それを巡って、「白いユニット」と「黒いユニット」が対立している、という程度のことは宮迫も知っていた。
ただ、自分はどちらに味方するつもりもない。
襲ってくる芸人には容赦なく立ち向かうが、それ以上のことはしない。
それが、相方と決めた雨上がり決死隊の立場だった。

「宮迫。」
名前を呼ばれて振り返る。
そこには、相方の蛍原の姿があった。
「ちょっと、話があんねん。」
「あとにしぃや。疲れとんねん。」
「今やないとあかん。」
蛍原の表情は真剣だった。
「・・・石のことやねん。」
「・・・わかった。楽屋、行こか。」

楽屋で二人はテーブルを挟み、向かい合って座った。
「・・・で?」
宮迫は鞄から煙草を取り出しながら問いかけた。

「・・・宮迫。黒に入らへんか?」
「・・・は?」
宮迫の動きが一瞬止まった。
「お前、何、冗談言って・・・」
「冗談やない。」
蛍原の目は真剣そのものだった。
「黒いユニットに、入ろう。」
「なんでやねん!お前、白にも黒にも入らないって決めたやんけ!」
宮迫の煙草を持つ手が震える。
「・・・黒に、入ろう。」
「お前・・・まさか!」
宮迫は煙草を放り出し、テーブルの横を回り込み、蛍原の腕を掴んだ。
「石見せや!お前の石!」
蛍原は身をよじって逃げようとするが、宮迫の動きのほうが早かった。
蛍原の上着のポケットに手を突っ込み、モスアゲートを引っ張り出した。

モスアゲートは、本来の濃緑ではなく、濁った輝きを放っていた。

「・・・なんでやねん・・・」

宮迫の頭の中は真っ白になった。


どうにかせな・・・でも、どうする?


・・・脇田・・・そうか、脇田なら。
白いユニットのアンジャッシュやスピードワゴンとも仲のいい脇田なら。
何度か石を浄化させた経験もあるという脇田なら。
アイツなら、どうにかできるかも知れん・・・


白いユニットに入るつもりはない。
けど、相方が黒いユニットに取り込まれるのは問題や・・・


「ほ・・・蛍原、ちょっと待っとけ!」
宮迫はモスアゲートをしっかり握り締め、楽屋を飛び出した。
「脇田!脇田どこや!脇田!!」
楽屋のドアを出たところで宮迫は喚く。
ただ、蛍原を元に戻したい・・・今の宮迫の頭の中にはそれしかなかった。



「宮迫さん。」
どこから現れたのか・・・宮迫の隣には中川が立っていた。
「あ、ヒデ!脇田来とるか?脇田どこや?!」
中川は無言で、宮迫を楽屋に押し戻し、後ろ手でドアに鍵を閉めた。
「ちょ・・・おま・・・お前なにすんねん!」
「蛍原さんの石を暴走させたのは俺です。」
「・・・?!」
突然の中川の言葉に、宮迫は言葉を失った。
「・・・なんで・・・なんでや!なんでお前が!しかもよりによって蛍原を!!」
宮迫は中川に掴みかかる。

中川は無表情で・・・いや、少し寂しそうだったかもしれない・・・
胸元のクリソコラを握り締め、宮迫の<悪意>に同調した。


その瞬間、楽屋が闇に包まれた。


「あ、宮迫さん、さっき俺のこと探してました?」
暢気に廊下を歩いていた脇田は、すれ違った宮迫に声をかけた。
「・・・いや、いい。」
「そっすか。」
鼻歌交じりに脇田はその場を去る。
その後姿を、強く見つめる宮迫。


このときに、脇田が宮迫の異変に気づいていれば。
もしかしたら、また違う結果が生まれていたかもしれない。




静かな自室で、中川はソファーに深く腰を下ろし、大きくため息をついた。
足元では愛猫が静かな寝息を立てている。

2日も続けて石の力を使ったからか、中川の肉体も精神もボロボロだった。


目を閉じれば、まるで自分が闇の中に深く深く落ちていくかのような錯覚に陥る。
その闇は、自らのクリソコラから湧き出ているようで。

今まで対峙した芸人たちの、自分に対する悪意が満ちている闇。

そっと目を開ける。
まだ自分の身体に闇がまとわりついているような気がして身震いする。

この道を選んだのは俺じゃないか。
俺自身じゃないか。
俺の手元に、石が転がり込んできたときから。
相方が、石を握り締めているのを見たときから。

後戻りはできない。
後戻りするつもりはない。


でも、心がぐらつく。
こんな静かな夜には・・・