139 名前:じゃあちょっとためしに ◆dRwnnMDWyQ 投稿日:04/11/13 00:54:53
男の憮然とした様子を見て、設楽は「シナリオライター」と呼んでいる男に話かけた。
「ん?どうしたの?何か腑に落ちない事でもあるみたいだね?」
「設楽さん、今日の彼の失態なんですが、僕の「シナリオ」では今日、彼はインジョンをサポートして、
その場にいる白ユニットの面々の一人を『説得』し、一人を再起不能・・・
計2個の石をこちらの手に出来る予定だったんですよ。」
「ふうん。で?」
設楽の平然とした様子に男は相当苛立ちを隠せないようだった。
設楽ではラチが開かないと石川の方を向いて直接言った。
「どうして君は、インジョンのサポートを怠ったんだ?」
「え・・・それは・・・。」
石川には答えることが出来なかった。自分でも何故かはわからずにいた。
「君のせいでインジョンの石は、浄化されたんだよ?」
「え・・・あ・・・申し訳ありま・・・。」
「君の使命はわかってたハズだよね?」
石川には何も答えることはできなかった。自分にもなぜ黒いユニットの命令に背いたのかわからなかったからだ。
ただ、プライドも何もかも捨てて地面に頭をこすり付けるようにして土下座することで精一杯だった。
――もし、和田に何かするつもりなら、この場で刺し違えてでも・・・。
何故か、嫌いなはずの相方の為に土下座しつつも剣呑な覚悟を決め、石川をその場を収めようとした。
その時だった。空間を切り裂く様な設楽の声が響いた。
「そんなに彼責めたってもうどうにもなんないじゃん。
つうかさあ・・・君のシナリオ自体に狂いがあったわけでしょ?実際うまくいかなかったのはさ。
人のせいにするのはどうかなあ?」
今度は『シナリオライター』が赤面する番だった。
「そ、それは・・・!」
「あれでしょ?多分さ、渡部さんいるじゃん?アンジャッシュの。
彼が君の予想よりすげえ頭良くて力強かったってことじゃない?
それにさあ、石川君だって完全に操られてるわけじゃないんだしさ。ね?そうでしょ?」
「え・・・!あ・・・!」
操られたフリが完全にバレていた!石川は青ざめたままでポケットにそっと手を入れ、石を握り締めた。
――どうにかこの場さえ逃げられれば・・・!
そうして設楽を睨みつけた瞬間だった。
「あ・・・え・・・?」
石川はまるで金縛りにでもあったかのように、石の力を発動させるどころか、身動きすらできなくなっていた。
設楽は悠々と自分の目の前のお膳を踏み越えると、石川に近づき、ポケットからスッと石を引き抜いた。
「これが君の石ね・・・。スイカみたいだね。」
「え?うわ・・・。」
ポケットの中を探られたのに石川は抵抗どころかひざまづいたまま身動き一つ、声をあげることすらできなかった。
「設楽さん・・・?」
男が設楽をたしなめようとした瞬間だった。設楽は石に爪を立て、石川に見せ付けるように強く力を入れた。
「ぐ!ぐわっ!うわああああ!」
石川になぜか激しい痛みが襲った。心臓を押さえながらその場に転がるようにのた打ち回る。
その様子を生気のない他のユニットメンバーがぼんやりと見つめていた。
(何人かの操作が完璧ではないメンバーは怯える様子を見せてはいたが)
驚く「シナリオライター」と楽しげに笑う設楽以外は。
設楽が力をを緩めると、石川の胸の痛みが嘘のように消えた。荒い息遣いの石川に石をポンと投げる。
「はあはあはあ・・・。」
「びっくりした?ふうん。やっぱりそうなんだね。」
設楽は呆然とした石川や『シナリオライター』など気にせずに一人で納得しているようだった。
「いやさ、君が石の持ち主だと自分で思ってるでしょ?それと同じようにさ、石自体が君の持ち主だって事だよ。」
「・・・・・・?設楽さん、どう言う事ですか?」
「そのままだよ。例えば石の持ち主が死ねば石の効果はなくなっちゃうしさ、
逆に石が壊れれば石の持ち主は死んじゃうってわけよ。
封印されない限りはね。ってことは・・・石に直接「念」を送り込むとどうなるかな・・・?」
設楽は楽しげに笑った。まるで新しい玩具をみつけた子供のようだった。
「『シナリオライター』君、一個面白い劇を考えてくれないかなあ・・・。今すぐで悪いけどね。
それから、石川君にも協力してもらわなきゃね。汚名返上って言葉あるでしょ?ね?やってくれるよね?」
「シナリオライター」がその能力を駆使して作り上げたシナリオを見て設楽は満足げに笑った。
「うん、いいシナリオだね。」
そう言うと石川にもそのシナリオをポンと投げた。
「読んでみてよ・・・。」
石川はおそるおそるそのシナリオを読んだ。
「こ、これは・・・?!」
「この順番で、完璧にやってもらいます。こうすれば今現在、関東における白ユニットの戦力、
もしくはそれに与する者の戦力に75%以上・・・相当な影響を与えられるはずです。」
冷静に解説する『シナリオライター』に設楽は笑いながら、でも冷たい声で呼びかけた。
「今度はヘマしないよね?」
『シナリオライター』は思わず赤面した。
「・・・・・・大丈夫です。渡部さんの知能や能力のデータは取れましたから。」
「ふうん。俺、渡部さん欲しいなー。頭いい人好きだもん。」
「貴方の好き嫌いは関係ないと思いますが?」
「そうだね、彼が「説得」で動くとは思えないもんね。で、矢作さんにケガはないの?
一応仲いいしさ、ケガさせるのはちょっとね。精神的なケガならいいけどさ。
矢作さんがパニクるの見るの好きだから。」
「大丈夫です。どうせなら小木さんも加えますか?」
「ああー、矢作さんさえこっちに引き込めばどうにでもなるんじゃない?」
冷静な会議に石川は呆然とするのみだった。今からの自分の役割を思うと気が重くなる。
――いくらなんでも、自分の先輩を売るなんて・・・。
設楽が石川の方に気が付いた。
「石川クン。手、出して。」
「は?」
石川が手を出すとどこから出したのだろう。パラパラとカプセルを落とした。
「これ、柴田さんに飲ませてよ。柴田さんにやってもらおうと思うんだよね『ユダ』役をさ。」
「どうして・・・柴田さんなんですか?」
「ねえ、石川さん、シェークスピアって知ってますか?」
「はあ・・・。『ロミオとジュリエットとか』・・・『リア王とか』・・・。」
『シナリオライター』は淡々と話していく。
「シェークスピアの劇でオパールっていう石は『不幸を呼ぶ石』と言われて使われたんですよね。」
設楽が言葉を継いだ
「柴田さんの石は?」
「あ!!」
――柴田の石、それは
「ファイアーオパール・・・。」
設楽はまるで悪魔のような笑みを浮かべた。
「そう、面白いと思わない?これって偶然かなあ?『石の意思』が働いてると思わない?ねえ?」
しばしの宴の中、石川は料理や酒を満足に口に運ぶ事はできなかった。
――二度と失敗は許されない。今度失敗した時は、彼と、そして死神に取り付かれた相方の破滅を意味していた。
皆、はしゃいではいたが、今の自分にはどこか機械的で操られたわざとらしさを感じずにはいられなかった。
この宴の支払いに何故か考えをめぐらせることで、場をなんとかやりすごそうとした。
――きっとこの宴はあの大御所の芸人が支払うんだろうな。そして店を出た頃には催眠も解け、
「若手やスタッフを連れて料亭を楽しく豪遊した」という記憶しか残らないんだろう。
まあ、石川には関係のない事であったが。
何故か設楽の視線を感じていた。設楽と視線が合った瞬間だった。
石がけたたましいほどに反応し研ぎ澄まされた石川の精神に、設楽の声を感じた。
目の前が急に暗くなる。その瞬間、青い光が見えた気がした。
「ネエ、俺ノ声ガ聞コエルデショ?君ノ精神ト直接話ガシタクテサ。」
「・・・エエ、ワカリマス。」
「石川クン、コレダケハ言イタインダケド?中途半端ナ悪ホド、ツマンナイモンハナイト思ウヨ。」
「エ?」
「考エテゴラン?君ハ和田クンの為ニ動イテルト思ッテルヨネ?デモ、ドウシテコッチニ、黒ユニットニ来タノ?」
「ソ、ソレハ・・・。」
「白ユニットニ、助ケヲ求メル事ダッテデキタノニネ。
君ノ中ニ、呼応スル心ガアッタカラ、コッチに来タンジャナイ?」
「・・・・・・。」
「悪ニ徹スルナラ徹シナイトネ・・・。賢イ君ナラワカルハズダヨネ。」
――ああそうだ、自分は和田の事よりも本当は悪に染まりたかったんだ・・・。
石川は生まれ変わった様な気がした。今までの罪悪感が剥がれ落ちていく。
石川は礼を言うと、来た時とは別人のような足取りで宴の場から颯爽と去っていった。
「シナリオライター」が設楽をいぶかしげに睨みつける。
「彼に何をしたんですか・・・?」
設楽は平然と答えた。
「ああ、『説得』して彼の迷いを取り去ってあげただけだよ。」
「貴方は・・・。」
「多分彼はうまくやってくれると思うよ。俺さ、彼みたいな人嫌いじゃないんだよね。」
「え?」
「相方の事守ってあげたいとか泣かせるじゃん。ね?俺や君みたいだよね。」
設楽はわざとらしく、シナリオライターの名前を呼んだ。
「ね、小林君。」
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