そして僕らは完全となる[1] ※流血シーン注意


716 :そして僕らは完全となる。 DLEARTMI:2005/07/22(金) 03:16:56 

自分たちとは無関係。 
でも、確実に以前とは違う、仲間の間でのざわざわとした雰囲気。 
こうやって二人で居るときぐらいしか、安らかな雰囲気は手に入らない。 
すべてが狂っちまった。 
こんな ちっぽけな物の為に。 

広い会議室。時計の針音だけが支配する、この世界。 
「藤田、もう上がろう」 
大村がそう声を掛けた時、俺は床に寝っ転がっていた。 
パタン、とノートパソコンを閉じる音。俺はのっそりと体を起こす。 
「早く用意しろよ。置いてくぞ」 
「…かってるよ」 
俺は椅子に手をかけ、ゆっくりとしたアクションで立ち上がる。 
起きたばかりで体に力が入らない。これ以上の速さで動くことは不可能だ。 
俺が鞄に手を掛けた時、大村は紙コップを手に取り、備品のお茶に手をつけていた。 
緩やかな動作で紙コップの中のお茶を口に運びつつ、暗くなった外をじっと眺めている。 
ゴッ……―――― 
「…ん?」 
大村がぴたっと止まる。 
「何だよ?」 
どうしたとばかりに振り返る。 
「今なんか聞えなかったか?」 

大村が怪訝な顔で振り返って、俺に言う。 
「今?別にな――――」 
ガガガガガガガガガガガガガ!!! 
「!!!!!!!」 
何かを引きちぎるような音と振動が、二人の心拍数を上げる。 
何を言ったらいいかわからず、しばらく黙り込んだまま天井をちらちらうかがっていた。 
その時、小さくはあるが、人の叫び声が聞こえた。 
「…喧嘩、かな?」 
「そう…だといいが……」 
大村はそう答えると、少し俯き、扉を見る。 
「―――――石……か?」 
何か心あたった様子で、吸いつけられるように扉に歩く。 
「おい、止めに行くのかよ?」 
「あぁ。なんか…俺はやばい気がするわ」 
「やばい…ってどういう………」 
後ろから来る俺を配慮せず、小さくしか開かれていない扉。 
俺は眠たい体にムチを打ち、扉を大きく開け放った。 

会議室から出て、階段を見上げると、大村が既に踊り場を越えていた。 
俺は早足にその背中を追う。 
「大村、やばいってどういう事だよ」 
「…お前も知ってるよな。石に関わる争いの話」 
階段を上がる大村が、6段後ろの俺に語りかける。 
「!…もしかしてこれがそうだってんじゃねぇだろうな?」 
「可能性がないわけじゃないだろう」 
俺は階段を勢い良く駆け上り、大村の手を掴んだ。 
驚く大村の瞳に、俺は首を振る。 
「俺たちが関わることじゃない。帰ろう」 
しかし、大村はそれ以上に威厳強く、緩やかに首を振った。 
「人が死んじまうかもしれないのに無視するのか? 
お前すげーな。俺にはできねーよ」 
大村は俺からするりと手を解き、また階段を上り始めた。 
俺はそれ以上足が動かず、大村の背中を焦燥感の中じっと見守った。 
”巻き込まれて死んだらどうすんだよ” 
そう叫んでやろうとした時だった。 

突然、階段前の部屋がカッ、と光を放ったかと思うと、 
次の瞬間、轟音と共に訪れた爆風に足をさらわれた。衝撃で、踊り場まで転がり落ちる。 
「って…ぇ………」 
起き上がろうとする体の至る所に鋭い痛みが走る。 
爆発で飛んできた無数のガラスが体に突き刺さったのだ。 
しかし幸い、感覚がなくなったような場所はなかった。 
ただ、生々しい痛みが体を襲う。 


爆煙は次第に薄くなり、階段の上で座り込んでいる大村の背中がうっすらと見えた。 
ゴホッ、と一つ咳をして、大声を張り上げる。 
「大村、大村!!大丈夫か!!!」 
そう叫んだ時、大村の向こうにもう一つの影―――――――。 

そして 

一面血で染まった部屋の壁が見えた。 

「ぅ………」 
体に走る鋭い痛み。 
右手の感覚が無い。 
生暖かい血が空気に触れている。 
思考力が低下し、何も出来ず、ただ呆然と座り込んでいる。 


これは………石の……力……? 


「大丈夫ですか?」 
その声にはっ、と仰ぎ見た先には、吉田が無表情にこちらを眺めていた。 
「吉…田……」 
名前を呼ぶのが精一杯だった。 

彼の背景に広がる血の海と、彼の頬についた血の筋が、大村の絶望への鼓動を高鳴らせる。 
しかし、吉田は無表情のまま長身を屈ませ、大村を見据える。 

「血が出てます」 





「治療 しないと」 




無関心な瞳で呟いた言葉には、図りようの無い殺意が感じられた。 

ガッ、と掴まれた肩に衝撃が走り、そのままぐぃ、っと上に持ち上げられる。 
傷口を握りつけられる痛みに顔を歪め、振り払おうと手を伸ばすが、
まるで機械のように強い力がそれをさせない。 
「大村さん」 
吉田はさらにぐっと力を込めた。大村からうめき声が漏れる。 
「所詮、何も出来ないでしょう。人間て」 
「う………」 
掴まれた肩の感覚が麻痺し、徐々に体の力が抜けていく。 
頭の中がぼぉっとして、回転が弱まっていく。 


俺は――――――― 





俺は 






このまま…………? 



「大村ぁぁぁ!!!!!!」 
失われつつある意識の中 
聞こえてきたのはお前の声だった。 

殺しの現場を見られた。 
じゃあ殺しても良いだろうと思った。 
だから、大村さんの血液から活動元の力を取り出していた。 
これが体からすべて消えた時、人が生きていることは出来ない。 
それでもいいと思った。 
この世界にはいい人しか居ないのだから。 
純粋に良い人と どうでも良い人 
この世界には良い人しか居ないのだから。 



藤田は我武者羅に、ドン!と吉田を突き飛ばした。 
大村に集中していた吉田は対応できず、大村から手を離す。 
力なく崩れ落ちた大村を藤田は慌てて抱え込んだ。 
息は荒く、肩からは血がどくどくと止め処なく流れている。 
「大村、大村?大丈夫かよ。大村、おい、おーむ!」 
混沌としている大村の名前を呼びつづける。 
閉じたままの瞳。ゆっくりと唇が動く。 
「……げ……ろ………」 
「…え?」 
消え入りそうな声。しかし、確かに聞こえた。 
「お前…は……逃げ……ろ……」 
まるで言わされているかのように、苦しそうな表情で藤田に言葉を投げる。 
藤田はうろたえた。動揺した。 
「…何…何言ってんだよ、逃げるわけないだろ!」 
「殺さ……れる………早…………」 
苦しそうに息を吸う。どこにも力が入らず、呼吸が続かない。 
しかし、はっきりと言った。 
”逃げろ” 

藤田は呆然とする。 
逃げる? 
俺が? 
こいつを見捨てて? 
殺されるかもしれないのに? 
俺が? 
俺が逃げる? 
大村は? 
大村はどうなる? 
死ぬのか? 
殺されるのか? 
ヤダよ、俺。 
そんなの絶対ヤダよ。 

「決まりましたか」 
背後で吉田の凍った声が聞こえた。 
感情の起伏の無さそうな彼の声には、多少怒色が見える。 
「逃げたいのなら、許可します」 
藤田は背中にそれを聞かせ、大村を壁に預けた。 
「死にたくないなら、僕の邪魔をしないでいてください」 
藤田はゆっくりと振り向き、ギッ、と吉田を睨み付けた。 
「俺はこいつ置いて逃げるなんてできねーよ。 
 死にたくは無い。でも俺はここを退かない」 
「…」 
吉田が無表情な顔を保ったまま、ふっと息を吐いた。 
血塗れた手をすっと差し出し、藤田に向ける。 
「頭の悪い、対策でしたね」 

ズッ。 



一瞬、何が起こったのか分からなかった。 
虚ろだった大村の瞳が大きく開かれる。 
藤田の胸を貫いた、鋭利な赤い槍。 
痛みよりも血が噴出すのが先で、何も考えられなかった。 
ガクッ、と膝をつき、ドサリと床に倒れる。 
「ふじ……た………」 
傷口から広がる、血溜まり。 
「ふじた…………」 
動かない体。 





「奇麗事は通用しないんですよ。ここでは」 




吉田の冷たい響きが冷たい廊下に響き、天井に消えた。 



 [トータルテンボス 能力]
 [POISON GIRL BAND 能力]