ザ・プラン9編[1]


283 名前:22 投稿日:04/11/24 11:31:20


鈴木は鼻歌交じりに、その作業にいそしんでいた。
誰も居ない楽屋、夕べ拾った緑色の石に異様に親近感が沸き、
その石とシルバーのチョーカーなどを作ってみたりしている。
普段なら道端に落ちている石を拾ったりはしないのに、
なぜかその石だけは特別な気がした。自分が呼ばれているような感覚。
「できた!」
我ながらいい出来、そう自画自賛し、早速そのチョーカーを首からかけた。
(あなたを待っていました。)
「え?」
突然聞こえたその声に驚く鈴木。
しかしもちろん、楽屋には鈴木以外には誰も居ない。
「気のせいか・・・」
誰も居ない楽屋で、自分以外の人間の声が聞こえるなんてありえない。
それで片付けてしまった。

(あなたを待っていました。)


「おはようございまーす。」
雑誌を読みながらタバコを吸っていると、次に現れたのは浅越。
今日は本公演の稽古とあって、ラフな格好で来たようだ。
「あれ、鈴木さんが一番ですか?」
荷物を置いて鈴木のそばに来た浅越は、一瞬眉間にしわを寄せる。
そして数歩距離を置くと、首をかしげながらも腰を下ろす。
鈴木のそばに行った瞬間、頭痛が起こった気がした。まるで自分が近寄ることを拒むような、激しい痛み。
「どないした?」
「いえ。」
鈴木に聞かれたが、こんな事を話しても訝しがられるだけだ。
そう思い、愛想笑いで流して台本に目を落とす。
「そんなことよりや、これ見て。」
台本と浅越の目線の間に、鈴木が勢いよく何かを差し出す。
(っ!また?)
再び浅越を襲う頭痛。そして、差し出されたのは緑の石のチョーカー。
「さっき作ったった。ええやろ?」
「へぇ、ネフライトですか。いいですね。」
「ネフラ・・・?何それ?」
「ネフライト。翡翠のことですよ。」
「ふぅん。それってすごいんか?これ、道で拾ってんけど。」
「そうですねぇ。本物なら、ちょっとした価値はあると思いますよ。」
穏やかに答えながら、浅越は頭の中に乱立する疑問符と戦う。
さっきと違って、頭痛は治まらない。
それどころか、痛みは増しているような気がする。
「すいません、ちょっとお手洗いに行ってきます。」
あまりにもひどい頭痛に、堪らなくなった浅越は立ち上がった。

トイレの鏡の前で、浅越はやはり疑問符を乱立させる。
「鈴木さんから離れたら、治まった?」
しかし、鈴木に近付いただけで頭痛がする理由は思いつかない。昨日までは、何ともなかった。
すると、浅越の携帯が鳴る。
「はい、もしもし。・・・・・あ、昨日はお疲れ様でした。」
浅越がポケットから出した携帯電話には、青い石と黒い石のストラップが付いていた。


友人からもらった困った贈り物をポケットに押し込んだまま、次に来たのはヤナギブソン。
台本をすでに憶えてしまったのだろう。手ぶらである。
「おはようございまーす。あ、まだ鈴木さんだけですか?」
「おー、ゴエが来とんで。トイレ行ってるわ。」
「そんなことより、そのチョーカーどうしたんですか?めっさいいですやん。」
「やろ?俺が作ったった。」
「マジですか?珍しいですね、石でチョーカー作らはるなんて。」
「昨日たまたま拾ってん。エエ感じやったから作ってみた。」
「へぇ。何の石ですか?」
「ネフ・・・翡翠とか言うとったで、ゴエが。」
「・・・あ、じゃあこの石もチョーカーにできます?」
ヤナギブソンは、上着のポケットから友人からの困った贈り物を差し出す。
それは赤黒い石で、透明感はない。
「赤花菊花石っていうらしいんですけどね、昨日ツレにもらったんですよ。
なんか特別天然記念物とか言うてましたけど、石だけもらっても困るなぁって思ってたんです。」
「へぇ。ええやん。チョーカーでええんか?」
「はい。お願いできます?」
「ええよ。まだ時間あるし。」
鈴木はヤナギブソンから石を受け取ると、さっそく工具を手にした。


電話を終えて楽屋に戻ろうとした浅越の頭の中で、何度も同じ言葉が繰り返されていた。
(あの石を壊せ!)
聞き覚えのない声。あの石とは、もしかして鈴木の持っていたネフライトのことを言っているのだろうか。
けれど、たかが石でなぜ?というか、どうしてこんな声が聞こえるのだろう。
石といえば、自分の携帯にも石の埋め込まれたストラップが付いている。
昨日、仕事が一緒になった知り合いからもらったものだ。
「石と縁でもあんのかな。」
とりあえず楽屋に戻ろうとドアに手をかけた瞬間、あの頭痛が襲い、浅越の意識は遠のいた。

「おはよーさん。」
楽屋のドアに手をかけて立ち止まっている浅越に声をかけたのは灘儀。けれど浅越の返事はない。
「おい、浅越?」
もう一度声をかけるが返事はない。
「朝っぱらからシカトって何やねん!」
そう言って浅越の肩に手をかけようとすると、ものすごい力で突き飛ばされる。何が起こったのかわからない。
「何すんねん!」
灘儀は思わず怒鳴ったが、それにも何も答えず、浅越は勢いよく走り去ってしまう。
今までにこんなことなど一度もなかった。思い切り戸惑いながら、灘儀はようやく立ち上がる。
そしてふと気づく。
「あいつって、あんなに力あったか?」

とんでもない勢いで走ってきた浅越に入り口でぶつかったのが久馬。
「おいおい、どないしてん。」
突然のことにそう聞くが、浅越は何も答えず走り去ってしまう。
なんだかよく分からないが、とりあえず楽屋に下りることにした。
今日はみんなに見せたいものがある。
本公演で鈴木がぜひやりたいといっていた、灘儀と自分の衣装に使うための石が見つかったのだ。
この石で鈴木は喜んでくれるだろう。久馬の意識は、浅越の態度に対する疑問より、そちらに重きがあった。


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