ザ・プラン9編[5] ※暴力・流血シーン注意


431 名前:22 投稿日:04/12/18 14:51:18

浅越をそう長距離に渡って追いかけることは無かった。狭い、奥で行き止まりになった路地。
そこで浅越は4人が来るのを待っていたように、タバコをふかしていた。
「お疲れさま。」
息を切らせながら次々に自分を追ってきたメンバーに、そんな労いの言葉をかけ、タバコを靴でもみ消す。
「今は、浅越さんじゃないんですね。」
「あはは、面白いことを言う。俺はどうなろうと浅越ゴエだろう。」
「違います。浅越さんはタバコは吸わないし、そんな澱んだ目はしてません。」
「黒の力とかいうヤツに、惑わされてるだけや。」
「それでも俺は浅越ゴエに違いない。」
「やったら、浅越の中の黒い部分を消すだけや。」
鈴木の言葉に、浅越は不敵に笑い、携帯電話のストラップを差し出した。
「俺に勝てるものなら、ご自由に。」
確かに、4人に浅越の黒い部分を消す方法なんて思い当たらなかった。
けれど、それを消して元に戻したいという気持ちは変わらない。
何か方法があると信じて、追いかけてきたのだから。

「親切な俺は、今からこの石について話そう。」
浅越は余裕綽々で次のタバコに火をつける。
「この黒い石、この石こそが近い未来、この世界のすべてになる絶対的存在。
そしてこの青い石、これは俺を守ってくれる石だ。」
「この世に絶対なんてない。その黒い石にもなにか欠陥があるんと違うんか。」
「ある。が、それ以上にこの石には力がある。欠陥なんて取るに足らない。
その証拠に、この石の前ではみんな無力だった。」
「ギブソンの石は?お前ちょっと苦手そうやったやないか。」
「面倒な石であることには違いない。が、それがどうした?それも黒の力が増大すればかき消される。」
「その石に、お前自身が飲み込まれることは怖くないんか?」
「ないな。俺は俺で、この石の力を利用しているに過ぎない。」
「ホンマか?絶対か?」
「俺にとっての障害があるとしたら、それはお前たちを・・・お前たちを・・・」
「浅越?」
話の途中で、浅越は急に顔をしかめる。
「浅越!浅越なんやろ?出て来い!そんな訳の分からんのに負けんな!」
鈴木の叫び声に、浅越はさらに顔をしかめ、その場に座り込んだ。

「鈴木さん・・・早く、花月に戻って・・・・」
「浅越っ!」
「早く・・・戻って石を・・・・」
「大丈夫か!出て来い!黒い力なんてねじ伏せてまえ!」
「早く・・・戻ってください。でないと・・・」
「戻るから!やからお前も一緒に・・・」
「俺よりもっ、早く戻って石を・・・・・ハイ、時間切れー。」
「浅越!」
そこで黒の浅越が戻ってくる。すこし額に汗をかいている。
黒と元来の浅越の人格が入れ替わることは、浅越自身への負担が激しいようだ。
「まったく邪魔な存在だ。早く消えて欲しいものだね。」
浅越は鬱陶しそうに言いながら、メガネをはずし、身構える。
「消えるのはお前や!」
その言葉にはじかれたように、ギブソンが浅越に向かって突っ込んでいった。

ギブソンが浅越に体当たりをし、それを浅越が真正面から受け止める。
やはりギブソンの力とは相性が悪いらしく、浅越はそれまで見せていた圧倒的な力でギブソンを軽くかわせないでいる。
「硬化の石、まったく面倒だ。」
「浅越さんの中から出て行け。」
「出て行くのはお前たちだ。」
「お前や!」
もみ合う2人を見て、鈴木が石に呼びかけ、鈴木の石と、久馬の石が光りだす。
「浅越さんを元に戻せ!」
久馬の石の力に後押しされ、ギブソンが押し始める。しかし浅越は全身に力をこめ、ギブソンを押し返す。
「うざい!」
そのあまりの力に、弾き飛ばされるギブソン。それでも間髪入れずに立ち上がり、再び浅越に組みかかる。
「お前が俺らをうざくても、浅越さんは違う!」
「ギブソン・・・花月に、戻れ。俺よりも・・・早く・・・・・うるさい!黙れ!」
「浅越、戻って来い!」
灘儀の石が光り、大きな炎が浅越にぶつかる。すると浅越は後ろに飛びのけ、距離を置き、言った。
「まず先に、邪魔なものは、排除する。」
同時に黒い光が浅越を包み込んだ。そのとき、ギブソンには浅越の声が聞こえた。
「早く、戻れ」
しかし次の瞬間に4人の前に立っていた浅越は、今まで以上にずっと、冷徹な表情をしていた。


「馴れ合いはおしまいだ。」
浅越はそう言い、ものすごいスピードでギブソンの懐に飛び込んだかと思うと、ギブソンの石を握りつぶした。
「まず一つ。」
それは一瞬の出来事。石を握りつぶした浅越は、ギブソンの首を締め上げる。
「邪魔をするなよ。強い力には巻き込まれていればすむ話だろう。」
「浅・・ごえさ・・・」
「ギブソン!」
久馬が石の力を加え、灘儀が炎を放つが、
「うるさい!」
浅越はそれをいとも簡単に片手で弾く。
「お前っ!誰の首しめてるか分かってんのか!」
「分かってるさ。俺の邪魔をする、愚民の首だ。」
「離せや!仲間やろう!」
鈴木が石の力などそっちのけで浅越に向かっていく。
同時に灘儀も久馬の石の力を借りて炎を放ち、防御に回る浅越はギブソンを壁に投げつけ、それを防ぐ。
「がはっ・・・」
ギブソンはそのあまりの勢いに、ぐったりと倒れこんだ。

「ギブソン!」
久馬の声にも、返事すらしない。
「次は誰だ?誰からそうなりたい?」
「・・・・んか?」
「ん?」
「黒い石が、そんなに偉いんかぁ!!」
叫んだ久馬の石が、今までに無いほどに強く光る。灘儀の手からは膨大な炎が放たれ、浅越の石が青く光る。
周囲は炎に包まれ、浅越の青い光をもかき消してしまいそうな勢いだ。
「久馬さん、やめてください!」
鈴木が思わず叫ぶが、その炎は勢いを弱めない。
「なんで黒い力になんか加担するんや!目ぇ覚ませ!アホ!」
どんどん勢いを増す炎の中で久馬が叫ぶと、それまで防戦の構えを見せていた浅越がにやりと笑った。
「アホは、どっちかな。」
瞬く間に炎は黒い光に吸い込まれ、久馬や灘儀、鈴木に向かって跳ね返された。
「危ない!」
その矢面に立つ鈴木。炎を全身に受け、跳ね飛ばされ、いやな煙を上げながら倒れる。
「鈴木!」
「余所見をするな!」
浅越はどこかの店が勝手口の外に置いていたのであろう一斗缶を手に取り、それで久馬の頭を思い切り殴り飛ばす。
「うっ・・・」
痛みに膝を着いた久馬を、浅越は何度も殴り、久馬は血だまりの中に倒れた。
痙攣するようにかすかに動いていた指先も、すぐに力なく落ちた。
「久馬!」
「焦るな、すぐに会える。」
その一斗缶を久馬を見て叫び声を上げた灘儀に投げつけ、
浅越は一斗缶を力いっぱいぶつけられたみぞおちを押さえ込んでうずくまる灘儀を見下ろすように立つ。
「弱者は静観していればいいものを。」
「あさ・・ごえ・・・」
「自分の無力さを思い知れ。」
希うように上目遣いで浅越を見た灘儀を、浅越は動かなくなるまで何度も、何度も殴り続けた。
そしてほんの数分で、4人の人間が丸太のように無機質に、その路地に転がることになった。

浅越は身なりを整え、その路地を後にしようとする。
「さっきの言葉、そのまま返しますよ。アホはどっちかな。」
その背中に、声が聞こえた。
「騙されたー。アホですねぇ。」
声の主は、握りつぶされたはずの石を元の形で手にした、ギブソンだった。
「浅越さんが壊したのは、ダミーです。さぁ、始めましょうか。」
「ちっ、本当にうざいな。」
浅越は再びギブソンと向き合う。互いの石が、強く光を放ち始めた。
「まぁいい。たった一人くらい、他愛も無いことだ。」
「本当に他愛ないと思ってるんですか?」
「思ってるね。」
「俺はめっさ怒ってます。大切な人たちを浅越さんは本気で傷つけた。もう、遠慮はしません。」
「面白い。最後の足掻きを見せて貰おうじゃないか。」
2人は同時に地面を蹴り、激しく組み合った。