ザ・プラン9編[6]


450 名前:22 投稿日:04/12/25 18:12:05

完全に黒になった浅越は力のセーブをすることもなく、
勢いとその場の感情で立ちふさがったヤナギブソンは完全に押され気味だった。
黒の力を自分のものにしている浅越に対して、石の力の情報に乏しいヤナギブソン。
明らかにどちらが有利かは分かりきっている。
それでも、何度倒れてもヤナギブソンはあきらめず、浅越は苛立ちを感じ始める。
「俺はウザイ人間は大嫌いなんだ。」
「だから、どうした?」
「お前なんて死ねばいいと思ってる。」
「だから?」
「次で終わり、殺すことにする。」
「へぇ、それはそれは。」
言いながら、自分でも分かっている。
もう限界だ。足元はおぼつかないし、この石、使うほどに自分自身も消耗する。
確かに、次が最後かもしれない。
「石を手にしてしまった自分の運命を呪いながら死ぬがいい。」
浅越の黒い石が光り始める。ヤナギブソンも石の力を最大限に引き出そうと構えた。


「死ね!」
その力を、ヤナギブソンは咄嗟に防ぎきれないと感じた。防御の体制を取りながらもぎゅっと目を閉じる。
(俺にもっと力があれば!)
そう心の中で叫んだとき、
「うわぁぁぁーっ!」
悲鳴に近い声をあげたのは、浅越。ゆっくりと目を開けると、目の前には壁まで吹っ飛ばされて倒れこむ浅越の姿。
自分の石が、さっきよりも強く光っている。そして、鈴木の石と久馬の石も。
「な、なんで・・・」
2人は確かに倒れていて、動く気配さえも見せない。それなのに石は光を放っていて、ヤナギブソンを助けてくれている。
「くそっ・・・まだそんな力が・・・」
さすがにダメージが大きかったのか、初めて浅越が立ち上がろうとした瞬間に体制を崩した。
(今なら勝てる!)
ヤナギブソンは地面を蹴り、浅越に向かって猛ダッシュする。
「黒の力なんて、必要ないんやぁっ!」
ありったけの力で、浅越に繰り出す一撃。
「ぐあぁぁぁっ!」
浅越の絶叫が響き、光を放っていた黒い石が割れてはじけ飛んだ。
それを見届けると同時に、ヤナギブソンの意識は遠退いていった。




静まり返った路地。倒れている5人の男。
その5人の男のうち、一人がゆっくりと起き上がる。鈴木だ。
「んっ・・・」
頭を左右に激しく振り、起き上がり、倒れた4人の仲間の姿を見て、慌てて駆け寄る。
「久馬さん!灘儀さん!ゴエ!ギブソン!」
そして思い出す。何が起こっていたのか。あの忌まわしい光景を。
「嘘やろ?みんなあのまま・・・」
あのまま、黒い力に飲み込まれてしまった浅越によって倒されてしまったのだろうか。そして浅越自身も・・・
「誰か、頼むから誰か目ぇ開けてくれ!」
路地いっぱいに響き渡る悲痛な叫び声。
「うっ・・・鈴木?」
その声に答えるように、起き上がったのは久馬。そしてゆらりと、灘儀も起き上がる。
「どうなったんや?」
「確か浅越が訳分からん力で暴走して、それで・・・え?あれ?」
「なんで俺ら無傷なんやろ?」
3人とも、ひどく傷を負って力尽きたはずだった。けれど気づけば、無傷で体におかしな所は感じられない。
張本人の浅越の方に視線を送ると、倒れている浅越の傍らで、黒い石が粉々になっていた。

「ギブソンが、浅越に勝ったみたいやな。」
灘儀がその石の破片に触れようとすると、石はさらさらと砂のようになり、消えてしまった。
「勝ったって、じゃあ・・・」
「黒い石がなくなったから、その石によって負わされた俺たちの傷は消えた。そして、浅越も・・・」
「そんなん勝ったって言わないでしょ!ナンボ自分が無事でも、全然良くないです!」
鈴木は言い放ち、浅越に駆け寄る。
「おい、ゴエ!終わったんやったら起きろ!みんなで帰るんや!ゴエ!」
激しく体を揺さぶるが、返事は無い。
「帰って稽古せな、本公演近いねんぞ!あの役はお前以外にはできへんねん!ギブソンも!早よ起きろ!」
何度も、鈴木は交互に2人に声をかける。けれど返事はなく、優しく鈴木の肩を叩いた灘儀が、左右に首を振った。
「こんな結末っ、こんな結末のために俺らは戦ったんやない!」
「けど、現実はこうなってしまった。」
鈴木の言葉に、久馬が残酷な答えを添える。3人は、次の言葉が見つからなかった。

呆然。
それ以外に、言いようが無い。3人はその場に立ち尽くし、無言。
けれどいつまでもこうしているわけには行かない。久馬がそっとヤナギブソンを抱き起こし、灘儀が浅越を抱き起こす。
服に着いた汚れを払い、抱えようとすると、
「なんで俺がマヨネーズだけなんすか・・・」
ぼそりと、ヤナギブソンが呟く。
「ギブソン!おい!しっかりせぇ!俺の声が聞こえるか!」
「ドラムで十分でしょ・・・」
「もしかして・・・寝言なんじゃ。」
「はぁ?」
言われて顔を覗き込むと、もぞもぞと口元が動いて、やがて穏やかな寝息に変わった。
「じゃあ浅越も・・・」
同じように灘儀が見た浅越は、どうやら気持ちよく寝ている様子。思わず、鈴木がへたり込む。
「よかったぁ・・・」
それは心からの言葉で、久馬も灘儀も、笑顔になって鈴木に手を差し伸べる。
「帰ろうか、5人で。」
3人はこの悪夢のような数日が終わったことに、心から歓喜した。そして、また5人で舞台に立てることに。


帰り道、思い出したように鈴木が一つの疑問を口にした。
「何か大事なこと忘れてるような気ぃするんすよねぇ。」
「大事なこと?」
長身の浅越をおぶって歩く灘儀が、しんどそうに聞き返す。
「本公演の稽古。」
久馬が答えるが、鈴木は首をかしげる。
「いや、なんかもっと大事なことのような・・・」
「お前なぁ、本公演の稽古より大事なことって何やねん。」
おどけた様に突っかかってくる久馬に、ヤナギブソンを背負ったいるせいでよろめきながら、鈴木はさらに首をかしげる。
「何か、絶対に何かあったんすよ。大事なこと。」
「そんな大事なことなんやったら、そのうち思い出すんと違うか。」
「ですかねぇ。」
灘儀に言われて、そうかもしれないと思ったが、鈴木にはその何かが引っかかって仕方なかった。

そのころうめだ花月では、その何かが訪れようとしていた。
「これ浅越にもろてんけど、何やねんやろ?」
小さな箱の中にいっぱいに詰め込まれた黒い石を見つめ、考え込むロザンの宇治原。
「ガラクタちゃうん?嫌がらせとか。」
茶化すように箱の中の黒い石を引っ掻き回す、同じくロザンの菅。
「でもアイツ、ごっつ真剣に「これを、あなたに守って欲しいんです。」とか言うとったぞ。」
「ふぅん。って何から?」
「さぁ?」
黒の力は途絶えることなく、次の主となる人物の手に繋がれていた。
浅越に真剣に託された物を宇治原が簡単に手放すはずはなく、
次の舞台の開幕ベルは鳴っていたのだ。