ロンブー編 [3] 〜亮の場合〜


460 名前:ブレス ◆bZF5eVqJ9w   投稿日:04/12/26 21:29:28

亮はどないしよ、と呟いていた。
彼の自慢のジーパンは、所々擦ったような跡があり、泥と血がついている。
同じく上着にも傷がいくつもあり、血痕が残っている。
はぁはぁはぁと息を荒げて、そして壁に背をつけ、誰かが後から来ないかを確認している。
ふいに、足音が幾つも此方に向かってくるのを亮は聞いた。
空は暗く、重く、そして寂しく彼を包んでいた。
「しゃあないなぁ・・・」
ここにいては、見つかるのがオチだ。走るしかない。
疲れた体を奮い立たせて、亮は走り出す。
この壁のすぐ隣の曲がり角から誰か見えないように。

気付いた時には、闇の中で再び囲まれていた。
気配だけ、しかしその気配も殺気立ち、自分を狙っているのが分かる。
「なんやねん・・・ったく、俺に手ぇ出してどんなんなっても知らんぞ!」
亮は、この現実に幻滅しつつも叫ぶ。
その彼を取り巻くようにして生気を失った目をした男が3人、姿をあらわす。
手には・・・金属バット。
すかさず、睨む。
「これまた、あんた等全く懲りへんようやな?」
前もあかんかったやん・・・、と呟いたその真意は相手に届いたのか。
その言葉を合図にするように男達が一斉に殴りかかってくる。
仕方なく亮は、横飛びで攻撃を避ける。紙一重でかわし切る。
かきぃんっ。金属同士がぶつかり合う、限りなく無機質な高音。
囲んでいた3人の振りきった金属バットが、互いにぶつかった。
「もう殴られるのも、殴んのもごめんや・・・」
そうぼやきながらも、亮はその内の1人の背後に回っていた。
「ご免、めっちゃご免、ほんまご免」
と謝りながら、亮はその男に向かって回し蹴りをかましていた。

蹴られた男のほうは、後ろから頭に向かって思わぬ一撃を食らい、対応が遅れていた。
受身など取れる訳もなく、亮の視界の左側に消えていく。
どさっと男が倒れるのと同時に、他の2人がこちらを向いた。
「・・・・・・っ!」
残った2人の内の、金色の髪を立てている男が此方に向かって走り出す。
その勢いを殺さず、しかし邪魔にならないようにくんっとバットを振りかざす。
あの速さの攻撃をかわすことは出来ないだろう。
亮は自らの右手首にかかっている、蒼い革のベルトで結ばれた腕輪の銀のプレートに埋まる石を見やる。
石はトルコ石にも似た蒼を称え、丸く加工されている。彼が先日自分で頑張って加工した一品だ。
確か先日見た本には、パワーストーンの性質について
「左手は力を受け取り、右手は力を放出する」と書かれていた。
それに従い、亮は石の力をゆっくりと、しかし急激に解放できるようにと右腕に腕輪をはめた。
そして今まさに――――その蒼い石がゆっくりと光を開放し始める。
トルコブルーが亮と、そして自分に向かってきた男の視界を遮ろうとする。
ごっ。鈍い音が響く。亮の脇腹に重い一撃が当たったのだろう。それを両者とも、認識している。
だが、亮は倒れることなくやや顔を引きつらせるに留まっている。
彼の見やっていた石、オドントライトは急激に蒼い光で所有者を包んでいく。
男は目が眩み、思わず仰け反った。次の瞬間。

――――ごっ。

鈍い音が再び闇の中に響いた。
攻撃を仕掛けた張本人が、その場に崩れ落ちていた。何故?と言ったように目を見張ったまま。

「俺ん石・・・オドントライトって言うねん・・・」
くっと、痛みに耐えつつも亮は続ける。
「石言葉は・・・『攻撃と防御』・・・、カウンター系って訳やな・・・」
その場に残っていたもう1人は、その光景を目の当たりにして、徐々に徐々に後ろに下がっていく所だ。
「もうあんたから攻撃でけへんやろ・・・?・・・・・・さっさと消えてくれへん?」
亮が闇に溶け込み始めた男に対して言う。その言葉を聞くと同時に、男の姿は消えていく。
そして彼自身の意識も闇にフェードアウトしていく・・・・・・。



暫くその場で倒れこんでいた。ああ、もう空は白み始めている。
亮は一瞬、家に帰ろうか迷った。
自分のせいで、愛すべき大切なものに危害を加えられては困る。
――――でもなぁ・・・、家帰って、どうしたの?なんて心配されてみたくて。
それは、男として、父として、一度は味わってみたい優越感。
しかし、護るべきものに心配などさせるわけには行かなかった。
それに相方にはもうなにも言えなさそうで・・・・・・。
石の話を淳にしてみようかと、亮は一度思ったのだが、それは良くないだろうと思い踏みとどまっていた。
「知らないほうが良い事もある・・・って訳か・・・」
ゆっくりと、目を閉じる。淳・・・、ごめん、俺・・・。
それは、淳が石を手にする前日の、相方を思う男の孤独な闘い。


 [ロンドンブーツ1号2号 能力]