ロンブー過去編 [1] 〜回想・願い〜


534 名前:ブレス ◆bZF5eVqJ9w   投稿日:05/01/16 21:16:11

淳は数日前の出来事を思い出していた。
色々な事があった。
彼はゆっくりと携帯を開く。暗い部屋に画面のライトが光る。
「めんどくせー・・・・・・」
口を突くのはまたそんな一言。
――――使命は果たしてるさ、そうだろ?現に俺は・・・・・・。
ゆっくりと目を閉じると、あの日の事が頭をよぎる。


淳は、はじめその一言に戸惑っていた。
『命令を聞かなければ殺す』。
それは、彼にとって脅威となる言葉であったはずである。
淳の最初の任務は『相方の亮の心を読み続ける事』だった。
それほど力を使う能力でない事は確かである。
だが、一度に読めるのは『着信した時間から10分間』である。
つまり、淳はほぼ断続的に力を使い続けなければならなかった。
――――3日の間は。
軽い指や腕への負担は黒い欠片で誤魔化して、ずっと携帯電話を握っていた。
さすがに、仕事中や睡眠中くらいは抜いたとしても、かなりの疲労が溜まっていた筈である。
それすらも、『死にたくないから』と言う決断と、『もう戻れない』と言う現状から誤魔化し続けた。
そして――――。

ある日の楽屋。
亮が、淳の真新しい携帯電話と石のついたストラップを見たのと同時に、流行の着メロが響く。
「淳、なんなん?メール?」
「・・・・・・うん」
言葉少なげに、淳が返しつつ。そのメールを読んでみると、数分後の時間と
『なんで上田さんから電話きたんやろ・・・・・・?』
との一言。
『白』からの接触か・・・。ふと唇だけで淳が呟く。

『そっか・・・、亮君白の人に会うんだぁ・・・』
「はい」
淳が密かに何処かへと電話をかけていた。
『・・・じゃあさあ、そっちにテツトモさん送るから、君の力でコントロールしてよ』
「・・・出来ますかね」
『出来ると思うよ?君の事だから。』
淳の能力で、彼の元へ届いたメール。
それに、彼が返信を出す事によって思考を変える事も可能である。
だが、それが成功した所は本人も拝んではいない。
『出来るでしょ?それとも・・・・・・』
「いえ、やります、やります、やらせてください」
『だよね、だよね、だよね??』
だって、もしここでやらないって言って見ろ。どうなる事か――――。
ったくめんどくせぇな、と呟く。

『落ち合う場所と時間は分かってるよね?
それよりも早く、その店に行って待っててくれないかな?』
「・・・はい」
『暫くして3人そろったらさ、テツトモさん行かせるから。
2人にはファン装ったこっちの人から、石のついたブレスレットとギターピック渡してあるから』
「・・・はい」
『そんで、メールで命令出しながらその闘いを見届けてくれない?』
勿論、ミスをすれば自分には罰が下るだろう。
「・・・・・・そんな面倒な事しなくてもいいんじゃねぇの?」
『いや、これは君にやってもらう価値があるから』
「・・・・・・そうですか」
『で、上手く行ったら・・・そうだな・・・亮君は見逃してもいいよ』
「・・・え?」
『つまり、こっちに入れなくてもいいよ、って事ですよ。』
「・・・・・・くりぃむさんは」
『捕まえて欲しいかなぁ・・・、出来れば』
「・・・・・・」
『敵は少ない方がいいからね、それに囮とかに出来そうだし』
「そうですね」
『俺さぁ、頭いい人好きだからさ。欲しいかな?
2人とも大学中退らしいし、頭良さそうじゃん』
「・・・・・・ならいいんだけどさぁ、あんまし頭よくないと思うよ?」
一瞬の沈黙。
本人達がいたら、うるせぇと一喝されている所だろうか。
『・・・まーいいや。とりあえず頑張ってね』
「はい」
ぷちっと一方的に電話は切れる。
ふーっと深く溜息をついて、淳は天井を見つめた。
「・・・・・・すんげーめんどくせー・・・・・・」

そして、運命のその日。
淳は亮が来る予定になっている時間より30分は早く来て、場所を確保していた。
亮が何処に座るのか、くりぃむしちゅーが何時来るのか、テツアンドトモの能力はなんなのか。
それが、全て淳の頭に叩き込まれていた。
それゆえに、窓側の席が見えるが、亮があまり見なさそうな位置に構えていた。
石澤には、店員や客の安全を確保する為に、先に能力で皆避難させた。
相手を牽制する為に中川にすぐ攻撃するよう店内で指示を出し続けて。
亮と有田に見つかった時は、正直どうしようかと思った。
相方を見つけた時に、自分を思う亮の気持ちが暖かくて。
亮の言葉は淳の重荷を全て押しのけてくれる。
『お前をぉっ!俺が!!今度は背負うから!!!背負ってやるからっ!!!』
言いたい事が思いつかない。
変わりに溢れ出るのは、止めど無く流れ続ける美しい涙。
それなのに、自分の意思と裏腹に動く石澤。亮や、それに関わる人を苦しめたくないのに。
『だってアイツさっ、俺の大切な相方で、一番の友達じゃんか!』
――――有田さん・・・。貴方の相方を苦しめてしまった・・・。
それは、俺のせいなんですよ。俺がトモさんに指示を出したから。だから。
でも、あの人はこのタイミングで笑って見せていた。心の繋がりって強いんだな。
淳は、有田の姿が消えたのを確認すると
「今回は上手くいかない予定だったんだよ、亮君・・・」
そうぼやいて、ゆっくりと気付かれないように、硝子の割れている店の窓から外へ出た。
そう、それがメールを読んでいて気付いた事。
それが『彼』がはじめから知っていた、敗走のシナリオ。




『お疲れー。』
その店から離れて暫くしてから、いまだ目が潤んでいる淳に一本の電話。
「・・・・・・すいません」
『いいんだ、初めから分かってた』
「・・・・・・・・・」
『まー、テツトモじゃ駄目だったかー。強いから行けると思ったんだけどな』
「・・・・・・・・・」
『そうそう、淳君さ、これから暫く僕から電話するまであんま力使わないでね』
「・・・・・・はい」
『お願いだよ?そんなに使われると必要な時に使えないから』
「・・・・・・・・・」
『・・・それとさ、君って意外と相方に好かれてるんだね』
「・・・・・意外とってなんスか」
『君等、見た目仲悪そうだからさぁ』
「どっかから見てたのかよ?」
『ふふ・・・それはないしょだよ。それよりさぁ』
「・・・・・・なんすか」

『相方可哀想とか、そういう事考えるのやめてね。』
冷酷な宣告。歩いていた淳の足が不意に止まる。
「・・・・・・・・・」
『これからさ、そういう事あると困るんだ』
「・・・・・・・・・」
『相方の事を考えてたら、何も出来ないからさぁ』
「・・・・・・そうですけど・・・・・・」
『何?君には無理?・・・そうだよね、普通は無理だよね』
「・・・はい」
『・・・僕も最初は辛かったよ』
「え・・・・・・?」
『いや、なんでもない』
「・・・今・・・貴方・・・・」
『・・・・・・君は僕に似てるよ、全く。』
「・・・・・・」
『本当に似ている。
いらない事ばっかり考えてるんだよねぇ・・・』
「・・・・・・」
『・・・・・・何が言いたいか分かってるよね?』
「いいえ」
『ふふっ、そういうと思ったよ』
電話は、いつもよりも長く続いた。
今は、その内容を思い出すことが何故かできなかったけれど。


――――過去から戻った暗い部屋に、煙草の煙が充満する。