ロンブー過去編 [1]  〜回想・欺く手口〜


577 名前:ブレス ◆bZF5eVqJ9w  投稿日:05/02/02 18:17:17 
  
 亮は風呂場で数日前の出来事を思い出していた。 
 湯気が彼の体を包み、視界を奪った。その隙に彼の脳裏にその出来事が蘇る。 
 色々な事があった。そして、時は戻り――――。 
 あの日の時に、亮は戻っていた。 
  
  
 どないしよ、とこれで何度目になるか分からない言葉を亮が言った。 
 その近くには床に倒れて眠る4人の男。 
 1人は亮の反撃にあい気絶し。 
 1人は安堵感と蓄積した疲労で眠りに落ち。 
 1人ははるか高い空に飛ばされて気絶し。 
 もう1人は石の力から来た反動で眠りにつき。 
 そして、亮は取り残されていた。 
  
 「あぁ・・・どないしよ」 
 何度目かの同じ台詞を、亮が言った。 
 彼らがいるその場所は、最早ぼろぼろになっていた。 
 天井に大きな穴、窓ガラスは一枚割れて、そして倒れている椅子と机。 

 ――――からん。 
 「どないしよ、どないしよ、どないしよ・・・・・・」 
 完璧に混乱に陥る一人の男の元に、1人の女性が来た。 
 「あの・・・・・・」 
 「どないし・・・」 
 「あの・・・?」 
 「はい・・・?」 
 人が来る事を想像していなかった亮は、面食らっていた。 
 その女性が、彼に向かって追い討ちをかけた。 
 「・・・収録、終わりましたか?」 
 「はぁぁーーー??」 
 「え?」 
 確実に、彼らの思考はすれ違っていた。 
 亮は、一瞬女性の言葉を飲みこめずに佇んだ。 
  
 話によれば、この店は昨日閉店したばかりで、そこへテレビ局のスタッフを名乗る人間から 
 『この店を1日だけ、テレビの収録で使いたい』 
 そう電話がかかってきたという。 
 そして、自分は――――この女性は、この店の元の店主で、様子を見に来たらしい。 
 なるほど、昨日閉店したと言うことは上田や有田が知らない可能性はありうる。 
 それで、この店を選んだのか・・・。だが、それならば何故? 
 「・・・くりぃむしちゅーだ・・・」 
 彼女は、その倒れている男たちを見てボソッとそれだけ言った。 
 「・・・俺は?」 
 と亮は言いかけて、止めた。 
 元店主は店の荒れようについて聞かなかった。むしろ、 
 「良いバラエティ番組、期待してます」 
 とか言ってきた。 
 怪しい、とも思ったが、彼女は芸人ではないし、石の事も知らないだろう。 




 ――call―― 
 『・・・あ、電話を切る前に、ひとつ』 
 「なんスか?」 
 『今回の件に関する疑問とかは無い?』 
 「え・・・・・・?」 
 『・・・ふふ、なんであの店に?って思ったでしょ?』 
 「何で分かったんスか」 
 『大体分かるよ、君の考えてる事は』 
 「・・・おー、こえぇーなぁ?」 
 『実はね、知り合いの若手に、スタッフって偽って電話かけさせてあったんだ』 
 「へぇ・・・?」 
 『それで、こっちの若手とか配置して、あたかも店が開店してるように見せた』 
 「電話をしたその日にそこが潰れたと知らなかった上田さんは・・・」 
 『そう、そこを選んでしまった』 
 「・・・だとしたら引っかかるな? 
 なんで、こんな風に遠まわしにやる必要があるんだよ? 
 それに、なんで思惑通りにあの店を選んだのか・・・」 
 『それはね、淳君』 
 「・・・・・・?」 
 『彼の性格を見て、だよ』 
 「・・・・・・どう言うことっすか?」 
 『ああ見えて裏をかいたり、頭を働かせたりするの上手いからね、あの人。 
 その前に、事前に相方を通じて<芸人が行かなさそうな場所>として覚えさせておく』 
 「有田さんに・・・?」 
 『それは簡単だろ?コンパが好きな彼だ、洒落たカフェのひとつやふたつ、知らない訳が無い』 
 「でもやっぱり範囲が広すぎるんじゃあ・・・」 
 『実は、あの店今日は何時もならサービスデーなんだよ』 
 「そ、そこまで読んでここを・・・?」 
 『ふふ・・・、欺く手口くらい知っておかなきゃね』 
 「閉店はラッキーでしょ?」 
 『そこは僕はノータッチだよ、そこまではできない』 

 「そうですよね」 
 『で、元店主にはかなりアクション性が多いバラエティ番組になるって言っといた』 
 「・・・・・・・・・」 
 『店壊れるかも?って言ったら、テレビ撮影に使うならって快諾してくれたそうだよ』 
 「でも、それでもそんなすぐには・・・・・・」 
 『・・・彼女、くりぃむしちゅー大好きなんだよ』 
 「・・・・・・・・・」 
 『どうだい?淳君?』 
 「むちゃくちゃですね・・・でも、物凄く成り立ってる・・・、欺く手口・・・・・・」 
 『淳君、これが僕等のやり方だよ。 
 一般の方を傷付けずに、僕等は僕等の闘いを終わらせなくちゃね。』 
 「でも店主って一般の方じゃ・・・?」 
 『・・・彼女、今芸人志望さ』 
 「・・・・・・・・・」 
 ――――そんな会話を、彼は知っているだろうか。 
  

  
 「・・・・・・いいんですか?」 
 「いいですよ、お店は次のマスターに渡った後ですし」 
 「いやでも、直さないと・・・・・・」 
 「これから改装工事が入ります。この収録の事は言ってありますから、大丈夫です」 
 「・・・・・・そうですか」 
 亮は、罪悪感に押されつつも、4人の男を担いでその店を出た。 
 また、日が暮れかけていた。 
 そして彼はまだ知らない。 
 ――――彼女が、今は友人と芸人を目指している事を。