ロザン編[1]


28 名前:22 投稿日:05/02/13 16:28:40

その黒い石が宇治原に侵食し始めたのは、その日の出番が終わった少しあとだった。
何か軽く食べられるものを買いに行くと出かけた宇治原は、戻ってくるなり菅に黒い石と白い石を手渡した。
「これ、持ってて。」
宇治原から差し出されたその2つの石に、菅は訝しげな表情を浮かべる。
相方から物を貰ういわれはない。ましてや石。そんなものを集めているとも興味があるとも言った事は一度もない。
「何なん、急に?」
「ええから。大事なものやねん。」
しかし宇治原の表情は本当の本気。黒い石は、さっき宇治原が弄んでいたものだろう。
浅越に渡されたはずのものだったが・・・
「持ってて。」
宇治原は強引に菅にその2つの石を握らせる。
つき返そうとした菅は、やたら自分にしっくりと来るその石に、思わず押し返そうとした手を引っ込めてしまう。
「お前は?」
「俺も黒い石は持ってる。俺にはこの黒い石だけで十分やから。」
宇治原はポケットから、箱に入った大量の黒い石を出して見せた。浅越に、何か聞いたのだろうか。
「この石は、俺たちに力をくれるんや。この石さえあれば、俺たちに立ちはだかるのも、すべて排除できる。」
「お守りか?」
「いや、もっとすごいもの。」
「ふぅん。」
菅は宇治原の考えをあまり否定しない。だから、宇治原の言葉を素直に聞いた。
宇治原は勝気な表情を浮かべている。きっと、何か意味があるのだろう。
「この石で、俺たちの道を遮るものを排除するんや。」
「遮る、もの?」
「黒の力の前に、みながひれ伏す。」
菅にはその意味が深くは理解できなかった。まだ、その時には。



「・・・んっ。」
灘儀の背中で寝息を立てていた浅越が、声を上げた。全員がその声に視線を集中させる。
「あれ?・・・・・あーっ!」
浅越は慌てたように灘儀の背中から飛び降り、メンバーから離れる。
それを見て、メンバーは苦笑し、ヤナギブソンが浅越に近づいた。
「終わりましたよ。」
「え?」
「全部、終わったんです。あの石も、消えてなくなりました。」
「終わった・・・」
「ギブソンが、お前を元に戻してくれたんやぞ。」
突然勢いよく浅越に飛び降りられて、思わず転んでしまった灘儀が立ち上がりながら言う。
よく見ると、みんな何もなかったように無傷だ。
「あの、えっと・・・」
「あの石が消えたら、みんな何もなかったように元気になったんです。」
「じゃあ・・・」
「終わったんや。悪夢は。」
久馬が浅越の頭を、子供にするように優しく叩く。浅越は慌てて上着のポケットに手を突っ込んだ。
携帯のストラップには、黒い石はなく、あの青い石だけがついている。
「すいませんでした。俺・・・」
「もうええよ。めったにない体験もさせてもろたし、ちょっとB級映画の中に入り込んだみたいでおもろかったし。」
鈴木はくわえていたタバコをもみ消し、優しく笑う。みんなも、怒った表情は少しも浮かべていない。
「本当に、すみませんでした。俺があんな石に翻弄されたばっかりに。」
それでも浅越は深々と頭を下げる。
あの石の力に振り回されて、みんなにかけた迷惑は計り知れない。
何度謝っても、謝りきれないくらいに。
「あ――――っ!!」
浅越が目を開け、ほのぼのとした空気が漂っている中、鈴木が突然大声をあげる。
「なんなんですか?」
「思い出した!大事なこと!」
「ああ、さっき言ってたアレですか?」
「なぁ浅越、お前なんで俺らに「早く花月に戻れ。」って何回も言ってたんや?何か花月にあったんか?」
鈴木の問いに、はっとしたように浅越は時計を見る、
その表情は見る見る険しくなっていく。そして、思い切り地面を蹴り飛ばした。

「もしかして今から、花月へ戻ろうとしてました?」
「そうや。やって稽古せなやん。」
浅越の焦ったような口調に、眉をひそめながら久馬が答えると、
浅越はメンバーの行く方を遮るように立ちふさがった。
「戻ったらダメです。」
「なんでや?」
「俺はあの黒い石を、いつのまにか大量に持っていました。そしてそれを、宇治原さんに全部渡したからです。」
「やったら、すぐに戻って宇治原さんからあの石を取り上げないとやないですか!」
言われて、ヤナギブソンが走り出そうとする。しかし浅越はヤナギブソンを止めた。
「なんでですのん?」
「もう、きっと手遅れだ。あの石は黒の意思を広めたがってた。
これだけ時間が経っていれば、当然宇治原さんの中に黒い石の力は浸食してる。そして・・・」
「仲間集めを、始めてる。」
気まずそうに浅越が濁した言葉を、鈴木が言った。浅越はゆっくりと頷く。
全員が言葉を失った。悪夢は終わっていなかったのだ。
むしろ、これからが本番なのかもしれないと。
 [ロザン 能力]