ロザン編[2]


87 名前:22 ◆LsTzc7SPd2  投稿日:05/02/20 16:27:08 

「・・・つまり、この黒い石を俺は芸人に広めたらええんやな?」
「ああ。でも、ただ闇雲に渡してもしゃーない。頭の切れそうな芸人、
 それから、まだ石の存在とは無関係な芸人限定や。」
「頭の切れる芸人ねぇ。お前レベルに?」
「俺以上でもええし、人並み以上なら誰でもええ。」
パソコンに菅の書いてきたネタを落としながら、宇治原は答える。
 たった2人だけで黒い石を持っていても、芸人は掃いて捨てるほどにいる。埒が開かない。
 だから宇治原は今は静かに潜伏し、黒の力を広めるという点に重点を置いたのだ。
菅は一度だけ、黒の力を宇治原に見せてもらった。強く、魅力的な力。
芸人である以外に、楽しめることを見つけたと思った。
「自分ますおかの岡田さんのイベント出たやん。ますおかに渡したら?」
「それは俺も考えてる。特に増田さんは、頭ええからな。」
「プラン9はアカンよな。大卒の芸人がええんかなぁ。」
「誰でもええ。とにかく、早よ黒サイドの力を強化するこっちゃ。」
この前プラン9と出くわしたときに、分かっていた。浅越は黒の力を使いこなすことに失敗した。
しかし石の存在は把握している。先手を打たないと、邪魔される可能性が大きい。
ゆっくりと菅を振り返った宇治原は不敵に笑い、言った。
「最後に笑って立ってるのは、俺らや。」


ただ楽しそうではあるけれど、菅には終着点が見えなかった。
どうすれば黒の勝ちなのか、最終的にどうすればいいのか。
「なぁ、お前はどこを目指してるん?」
宇治原に問う。すると宇治原は1枚の紙を差し出す。
それには芸人の名前と、今所持しているであろう石がぎっしりと書かれている。
「これが現状や。俺が調べた限りでは、すでにこれだけの芸人が石の力を手にしてる。
赤字が黒の力を持ってる人間やな。」
「へぇー、結構おんねんな。で?」
「この紙にはまだ登場してない、でも世間では1番といっても過言ではないくらいポピュラーな石がある。
それを、俺らは白の力を使う芸人よりも早く手に入れなアカン。」
「この紙に登場してなくて、ポピュラーな石ねぇ。」
「ダイアモンド。」
宇治原は言い切り、楽しそうに話し始める。
「ダイアモンドの力は、まだどれほどのモンか分かってない。
でも、どんな石よりも強くて、高貴な力を持ってると黒の石は言ってる。
将棋で言うたら王将、大富豪ならスペードのエース。チェスなら、キング。」
「王、か。それに俺らがなる、と。」
「それはどうかは分からん。けどな、持ってたら勝ち。すべてを支配できる。」
支配。その言葉は菅を大きく後押しした。
石を、芸人を支配できる。勝ち組になれる、奇跡の石。それならば、絶対に欲しい。
「よっしゃ、じゃあ手始めに、バッファローの竹若さん辺りから攻めてみようかな。」
「それともう一つ。攻めるときは俺と一緒に行動してくれ。
どうやら、俺とお前が一緒やないと、マスコバイトの力は使えへんらしいからな。」
「分かった。」
黒の石の力に魅せられ、ロザンの2人は完全に本気になっていた。そして、それは黒の力の拡大を示していた。


「おはようございまぁす。」
珍しく一緒に楽屋入りしてきたロザンに、先に来ていた久馬が怪訝な表情を浮かべる。
気付いていたがそれに構わずに2人が前を通り過ぎようとすると、久馬は宇治原の腕をつかんだ。
「もう始まってるんか?」
「なんなんですか、唐突に。」
わけが分からないといった表情でそう問い返した宇治原に、久馬はあっさりと掴んだ腕を離し、笑顔で言う。
「振ってんねんからボケろや。」
「あー、またギブソンの考えたゲームですか?っていうか、急にそんなん言われても出ませんよ、俺。」
笑顔の応酬。その奥には、石の力をバックボーンに置いた駆け引きが見え隠れしている。
簡単に手の内を見せることは出来ない。お互いが探り合っている状態。
「そうやねん。オモロイから楽屋で流行らせよーかなぁ思て。」
「じゃあ今度から菅に振ってください。俺、とっさのボケとか出来ないんで。」
「はぁ?なんでやねん。たまにはお前もボケろや。」
「お前なぁ、俺がそういうの向いてないって、一番知ってるやろ。
久馬さん、俺、ホンマにええボケとか無理ですから。」
「分かった。じゃあ次からは菅に振るわ。」
「お願いしますよー。」
会話をそこで切り上げて、2人はさっさと久馬の元から退散した。

自分たちの楽屋に入るなり、菅は舌打ちする。久馬にカマを掛けられたことに、気分を害したのだ。
荒っぽく鞄を置くと、宇治原に優しく肩をたたかれた。
「あんなことでイラっとくんな。軽いジャブやぞ。」
「やってやー、笑って声かけたりすんねんぞ。ムカツクやんけ。」
「すぐにそんなんできんようになる。俺らが黒の力を使い始めたら、簡単に潰せるんやから。」
「そうやけど・・・」
これは意外に菅の闘争心に火がつくのが早い。
宇治原は冷静に諭しながらも、早く先手を打たなければと思った。
昨日岡田にメールを打ったら、すぐに返事がきた。週明けにでも4人で会えるという。
人のいい岡田は、先日のイベントで親しくなった宇治原に対して、何の疑問も抱いていない様子。
これは案外スムーズに、増田も巻き込むことが出来そうだ。
明後日は竹若と出番が一緒になる日。さっきの感触から、まだプラン9のメンバーは探りを入れている段階だろう。
そう急激に動き始めるとは思えない。芝居が一緒でも、まだ石のことは話していないはずだ。
けれどプラン9が動き始めるのも時間の問題。他の芸人にも、もっと黒の石を配っていかなければ。
菅は不快感を露わにしていたが、もちろん宇治原も久馬のジャブを不快に思っていた。
出る杭は、さっさと打ってしまいたいと。そして抗えば、本気で潰してやると。
「なぁ、浅越をもう一回黒側に引き戻すことって出来ひんの?」
「それは俺も考えてる。内側から潰すのが、1番効果的やからな。」
(もちろん始まってますよ、久馬さん。)
宇治原は黒の石を見つめ、冷たい笑顔を浮かべた。
宇治原の頭脳コンピューターは、目障りな存在、プラン9を潰す方向でものすごい速さの活動を始めていた。
残酷に、再起不能なほどに潰すために。

※◆UD94TzLZII 「後藤秀樹編」に続きます。