420 :青天の月 01 ◆9BU3P9Yzo. :2006/03/22(水) 10:37:35
轟音と閃光が響く。「石」を持つもの同士の戦いというのは、こういう物なのだろうか。 佐田はため息をつき石を握りこんだ。 「相手の能力を掴めんと無駄死にすんぞ」 「わーっとる!」 後方から響く大溝の声ににやりと笑うと、走っていた足を止め真っ向から轟音の元を睨みつけた。 「おまえの力はそんなもんか!遊びにもならんわ!」 相手を挑発しながらそっと自分の石を握りこむ。相手が挑発に乗ってきたらこっちのもの。 案の定顔を赤くした相手が自分をめがけ突進してくるのを確認すると、握りこんだ石に念を送る。 シベライトと呼ばれる彼の石が低く唸ると、赤紫の光が彼の右手を覆う。 近づく相手が間合いを取り石の力を発動させようとしたその時、佐田の右手が相手を手招く。 「ふざけるのもいい加減に―…!」 「ちょっと来て―」 妙に軽いのに威嚇まじりのその言葉が聞こえると、バランスを崩しながら佐田に引き寄せられた。 「な…!」 まるで絡め取られるように力任せに引き寄せられ、状況を把握し逃れようと顔をあげた瞬間。 「遅いんじゃ」 佐田の右手が相手に向かい振り下ろされた。 「喧嘩なれしとらん奴がそげん危ないもんもっとったらいかんよー」 たった一撃で相手を気絶させながら、少し上機嫌に鼻歌交じりにしゃがみ込むと、倒れた相手から黒く光る石を発見した。同じように自分のジーンズのポケットからお守り袋のようなものを取り出すと、今手にした石も放り込む。 「さすがは元総長、やな」 のんびりした口調で草陰から出てきた大溝に、佐田は明らかなしかめっ面で答えた。 「なんね、たまにはお前も働きや」 「戦闘用じゃないけん、怪我ばせんよう見張るしかできんもん」 立ち上がり袋を見せると、じゃらり、と低く鳴る。 今みたいに、暴走している相手を見つけては、力ずくでその石を奪い、そしてどうする事もできずに持ち歩いていた。 石は増える一方。その分、襲われる回数が減るのかと言えばそうではない。 減らないのだ。一向に。 中には石を持たず、破片のようなものしか持っていないものもいて、佐田は相手を殴るたび、頭を悩ませていた。 「黒い石はよくないもの。黒い石は浄化しなければならない」 まるで子供が教科書を音読するように、佐田は呟いた。芸人の中で囁かれている力を持つ石の噂。 その話は知っていたし、自分にも持っていたし、意外と身近に感じていた。 しかし、簡単に「浄化してー」と頼めるような相手もいなければ、「お前浄化できるか?」と簡単に口にしてはいけない気がした。 相手が白ならそれでいい。しかし、黒なら、せっかく集めていた『悪いもの』をあっさり相手に渡してしまうようになるのだ。 とはいえ、人の気持ちを汚染し、操るこの石たちを、いつまでも持っているわけにもいかないだろう。 そんなつもりはなくても、自分はおろか周りに毒素を撒き散らしているのだろうから。 「だれか…いないもんかね…」 袋をポケットにねじ込むと大きなため息をついてバイクに跨った。 「じゃあ気ぃつけて帰りや」 「おう」 軽く手をあげエンジンをふかし、バックミラー越しに相方の背中を見送る。 ふと進行方向に視線を移すと、ヘルメット越しに見覚えのある姿が見えヘルメットをはずした。 「よー、そんな所おったら轢くぞ?」 冗談交じりに笑いかけ、手でどけるよう指示するが、目前の相手は一向に動く様子がない。 少しだけ感じる違和感に眉をしかめながら、佐田はもう一度声をあげた。 「聞こえとらんか?どけっって言いよーと!」 「できません」 端的に答えると相手は手をあげ指先を佐田に向ける。 「吉田…?」 POISON GIRL BANDの吉田。知っている顔なのにその眼に含む恐ろしさに気づくと、佐田はバイクから飛び降りる。 その瞬間吉田の指先から「何か」がバイクに向けて飛んできた。当たり所が悪く、骨に響く低音をあげバイクが炎上する。 「な…!」 急な出来事に普段使いなれない頭をフル回転させる。あいつは間違いなく吉田。でも、違う。あれは。 「石の力…!?」 気づいて顔をあげると吉田は手に鋭くとがった物を持って佇んでいた。 それは禍禍しい赤に黒光りし、今にも飲み込まれそうなそれが、「血」であることを理解するのに時間はかからない。 「佐田さん…それ、持ってても邪魔ならくださいよ」 すっと指を指し佐田のジーンズをさす。思わず隠すようにポケットを押さえながらゆっくりと立ち上がった。 「わかるんすよ…同じ波長だから」 にやりと口角をあげ微笑む姿に佐田は背筋が凍るのを感じる。現役の時はそれこそ刺し違えれば死ぬような喧嘩もしてきた。 だが、今回ばかりはケタが違う。 本能が「あいつはヤバイ」と危険信号を打ち鳴らす。震える口をようやく開き、言葉を発した。 「お前……黒、か」 「そうです」 返事を聞くか聞かないか、その瞬間走り出す吉田を目で捉えると佐田は本能的に攻撃をかわす。 吉田が振り上げた刃が髪をかすり、はらりとリーゼントが崩れた。 「あっぶね…」 「ちゃんとよけないと、総長の名が汚れますよ!」 挑発交じりの言葉に小さく舌打ちすると体勢を立て直し間合いを取るように後ろへ飛んだ。 乾いた土を踏みつけながら、呼吸を整え相手を見据える。相手の武器はあの刀だろう。 とすると自分の石の力を使えたとして、それを回避できるか…。頭の中で、今までの経験と照らし合わせながら行動を予測する。 喧嘩なれとはこういう事だ、と自負しながら、じりじりと相手の隙を伺う。しかし吉田は何をするでもなく、ふいに血を体内へと戻した。 今だ。 そう思い相手の懐に飛び込んだその瞬間。 「甘いんですよ」 言葉が聞こえ眼を見開くと、背中に鈍い痛みが走る。 「…ぁ!」 鞭のようなものを手中に収めながら、吉田はおかしそうに笑った。 攻撃を受けた佐田は背中に走る焼けたような引き裂かれたような痛みに、自分のうけた傷が酷いものであると察する。 その場に崩れ膝をつき、ぜぇぜぇと息を吐く。 「もう、やめましょ。負けるのは眼に見えてるじゃないですか」 動けない相手を確認すると、草陰から阿部が姿を見せた。 「石、ください。持ってても苦しいでしょ」 「あほか…そんなん、聞けんわ!」 無防備に近づく阿部に勝機を見出し、シベライトを握り込み阿部を見つめにやりと笑う。 「あ、ばか!」 「ちょっときてー」 吉田が気づくより先に、佐田が動く。ちちち、とネコでも呼ぶように手招きすると、重力に逆らうように阿部の体が浮いた。 「わ!」 油断した体は簡単に浮き上がり、佐田の下へ引きずられる。それをヘッドロックで押さえ込み、佐田は吉田を睨みつけた。 「おら、相方がどうなってもええんか!」 阿部の左腕を掴み、逆側へ引く。怒りのあまり手加減が出来ないのか、それだけで阿部は小さく悲鳴をあげた。 「ちょ、それ、どっちが悪役だよ!」 「先にやったんはお前じゃボケ!」 啖呵を切るも、佐田の背からじわじわと流れ出す血が、意識を朦朧とさせる。 ここに大溝がいなくてよかった、と、今更ながら心配し、苦しげに息を吐く。 「はよ選べ、このまま阿部の腕を折るんは簡単っちゃけん」 「くそ…!」 相手に隙を見せないよう、佐田はできるだけ悪づいた。少しの沈黙のあと、吉田は腕を組みながら鞭をしまい、ため息をつく。 「離してください」 「吉田!」 「離して…攻撃しようもんなら…」 「わかってます、今日は引きますよ」 はらはらと苦しそうに顔をあげる阿部に対し、吉田は淡々と答える。 武器がないこと、相手が本当に戦意を失ったことを確認すると、乱暴に阿部を離し、吉田の方へ投げ返した。 「石は渡さんぞ」 「次に狙われても…そう言えればいいですね」 確認するように睨み付ける佐田に対し、吉田は小さく笑いながら阿部の手を引いた。阿部が立ち上がるのを確認すると、唐突に襲うめまいに膝を落とす。 「吉田!」 慌てて支える阿部を見ながら、大きなため息をつき佐田は背を向けた。 じりじりと痛む傷。自身の持つ石が静かなのに対し、浄化もしていない黒い石たちが、二人の持つ石に反応して共鳴を繰り返す。 その怨念がましい、まるで細い悲鳴のような音に耳を貸すことなく、ゆっくりとその場を離れた。 これを狙いやってくる相手はまだまだいるだろう。 そしてそれらに対抗するのに自分ひとりでは厳しいことぐらい、佐田自身が気づいていた。 まずは情報を集めないと。 倒れそうになる体を引きずりながら、ようやく進むべき道を見出した気がした。 中空に輝く月が、その影を濃く映し出す――――。 |
426 :青天の月 01 ◆9BU3P9Yzo. :2006/03/22(水) 10:49:27
佐田正樹(バッドボーイズ) 石…シベライト-赤紫系(トルマリンの一種)。 勇気を生み、意思力を強める。活気を与える。 能力…舌を二回鳴らし、手招きしながら「ちょっと来てー」と 相手を呼ぶことで、自分のすぐそばにその人物を引き寄せる。 条件…佐田が見える範囲に相手が居ること。 対象者の芸歴が佐田より上の場合は使えない(年齢は関係無し) 回数は無制限だが、石の力を使う間は無防備になり、 また、対象は一人のみなので挟みうちに合ったときには使えない。 |