陰と陽 [2]


511 名前:156=421 ◆SparrowTBE 投稿日:04/09/09 23:43

がらんとした舞台。
二人の人間がぽつりと舞台上に立っている。
突如巨大な光の塊が、一人の男に襲いかかる。
その男はそれをひらりと避けると、姿を消した。
目標を失った光がしばらく彷徨った後、主の元へと戻る。
その瞬間、足元から黒い光の様なものが伸び、立ち尽くしていたその体を貫いた。
先程消えた男が再び現れる。
満足そうに笑みを浮かべるその男…川島はよろけながらも己を襲った人間の元へと歩み寄った。
「なんやコイツも石持ってたんか…。」
川島を襲った人間…友近が意識を失って倒れている。
多量に力を使ったことで、川島の額には汗が浮かんで、端正な顔には疲労の色がありありと見てとれる。
それでも川島は友近が手に握っていた石を封印した後、友近の体をなんとか運んで壁にもたれかからせた。
「…もうすぐ目も覚めるやろ。」
そして川島は友近をその場に残し、その場を後にした。


「かーしま」
人の名前をちゃんと発音していない時の彼は、酔っているか困っている時だ。

ぼんやりと天井を眺めながら、川島はそう思った。
「川島、お前ほんまに大丈夫か?」
心配そうな田村の顔を押し退けて、川島はソファから身を起こす。
ネタの打ち合わせ中に突然出て行った川島は、酷く青ざめた顔で帰ってきたのであった。
「大丈夫やて。少し疲れただけや。」
最近寝てなかったから、とわざとらしい嘘を付け足したが、どうやら田村は納得したらしい。
「体調管理くらいきちんとしろや。」
「すんまへん。」
おどけた様な川島の謝り方に、田村は川島をどつく。
「そんなに元気ならええわ。でもとりあえず、なんか飲み物でも買ってくるか?」
「頼むわ。」
そう言ってまたソファに倒れ込む川島に、本当に大丈夫なのかと田村は首を傾げながら楽屋のドアを開けた。



飲み物を買って戻ろうとした田村のすぐ前に、突然人影が現れた。
びっくりして思わず缶を落としそうになった田村を、目の前に来た人物が笑う。

「…もぅ何してんのよ田村さん。」

「川島ー。」
田村の声で、眠りに落ちかけていた川島の意識が浮上する。
「疲れてる川島の為にとびきりの美女が看病しに来てくれたでー。」
田村の笑いが混じった声が聞こえてくる。
川島は冗談を言っていると思い、田村を相手にしないように眠っている振りをした。
ドアが開かれた。

「あらぁ川島君具合が悪いの?」

人を馬鹿にしたような聞き覚えのある声に、川島はがばりと身を起こした。
川島の思ったとおり、田村の隣には友近が立っている。
「そりゃあそうよね?さっきまで随分力使ってたんだものねぇ。」
石を封印した場合、石を使っていた間の主の記憶は消えるはずである。
つまり…
「今度は逃がさないわよ!!」
「田村!伏せぇ!」
友近と川島は同時に叫んだ。



「は?」
状況が飲み込めずに疑問の声をあげる田村に覆い被さるようにして、友近から放たれた光を避ける。
勢い余った光は、壁へとぶつかる。
その光はばらけて、沢山の蝶へと変わった。
「なっなんや!?なんやあの蝶は!?」
混乱する田村を引っ張って川島は叫んだ。
「ええから逃げるぞ!死にたいんか!?」
「はぁ!?」
開かれたままのドアから急いで逃げ出す二人を友近はゆっくりとした動きで追い始めた。
「だから逃がさないって言っているじゃない?」
友近の手からまた蝶の軍団が放たれた。


 [友近 能力]