陰と陽 [3]


569 :156=421 ◆SparrowTBE :04/09/13 15:55:46

「かーしま!!なんなんや!何で友近があんなんなってんねん!」
田村が息を切らしながら悲鳴の様な声で叫ぶ。
川島は答えずに、近くにあった部屋に入り込んだ。
田村も後に続く。
蝶の軍団はそのままドアの前を通りすぎていった。
二人が入り込んだ楽屋は空き部屋なのか、誰も中にはおらず、二人の荒い息のみが響いていた。
「っは…なんなんやっ…なんで追われなあかんねん…。」
「俺が持ってる石を狙ってるんや…。」
川島は苦しそうに息を吐きながら田村に答えた。
「…石?」
暫し田村は考えて、そして突然思い出したようにポケットをあさりだした。
「この石か!?」
ポケットから引っ張り出された石は、僅かな光を発していた。
「せやったら…この石を友近に渡せば…「絶対渡すな!!」
田村の言葉を川島は強い口調で遮る。
「絶対渡したらあかん。渡したら、アイツは間違いなくその石で俺等を狙ってくる…。」
信じられないといった顔で田村は言葉を失う。
川島は力無く壁に身を預ける。
―体が言うことを聞かない。
川島は小さく舌打ちをした。
その時、ドアが破られた。
一気に蝶が部屋の中になだれ込んでくる。
「あかん!もう気付かれた!!」
焦る田村を、川島が後ろから羽交い締めにする。
「川島!お前まで俺を殺す気なんか!?」
「ええから動くなっ!!」
川島は精神を集中させると、田村を掴んだまま影の中へと入り込んだ。

視界が暗くなったのは一瞬だった。
田村は影から弾き出され、勢いよく壁にぶつかった。
「うおっ!!」
強打した腰をさすりながら田村は身を起こす。
辺りは真っ暗だったが、先ほどまで稽古をしていた舞台の袖にある大道具置き場だと分かった。
「田村…無事か?」
暗がりの中から川島の姿が現れる。
田村は川島の襟首を掴んで引き寄せた。
「今のお前がやったんか…!?」
田村の声には驚きと、僅かな怒りが込められている。
川島は掴まれた姿勢のままで答えた。
「…そや。今のが俺の石の力や。」
田村は石を握り締める。
「…俺の石にも、あんな力があるんか?」
「封印を解けば…ってお前、石を使う気か!?」
「使えば何とかなるんちゃうか!?」
「それなりの負担が伴うんや!お前は絶対石を使ったらあかん!!」

二人の言葉が段々と荒くなる。
「じゃあ何でお前は力使っとんねん!」
「俺の石だっていつかは俺を操るかもしれん。でもお前の石はまだ解放されてないんだから使うな!!」
「けど!!お前だけあんな奴らと戦って…!!」
「そのままにしてれば石はお前を操ったりせぇへん…か…ら…」
言葉尻がぼやける。
不意に、田村の手にかかる重みが増した。
川島の体が、ずるずるとへたり込んだのだ。
「川島っ!?」
田村は川島の体を揺さぶる。
川島は苦しそうな声で「大丈夫や」と呟いた。
「石の負担…なのか?」
「…。」
「何でお前だけが…そんなん背負ってんねん!!」
川島は無言のまま田村の体を強く押し退けた。
勢い余って田村はまた壁に叩きつけられる。
「えぇか!絶対ここから出るんやないぞ!!」
「川島っ?」
「絶対石使うなよ!」
田村が手を伸ばした瞬間に、川島は影の中に消えた。
田村は焦ってドアへと走るが、反対側が何かで塞がれているようで開けることができない。
「くそっ!!開けっ!!」
ドアを叩きながら、田村は何度も叫んだ。

「来ると思ってたわ。」
蝶に囲まれた友近が妖しく笑う。
皮肉にも先ほどの舞台の上で、川島と友近は睨み合った。
「相方はどうしたの?怖気付いて逃げたのかしら?」
ケラケラと笑う友近の指先に、指輪が光っている。
「川島君、てっきり封印したと思ってたでしょ?でも残念。この前の石はフェイクで、これが本物。」
指輪のある指を弾くと、更に大量の蝶が現れた。
その指先が、まっすぐ川島に向けられる。
「…方法は何でも良いわ。とにかく石を奪ってそして…好きにして。」
―俺を殺すつもりだ。
川島の体を、嫌な汗が伝った。