陰と陽 [6]


760 名前:156=421 ◆SparrowTBE   投稿日:04/10/05 23:44:49

田村は石を構え、襲ってきた蝶を薙ぎ払った。
その姿を見て、友近は高らかに笑う。
「やっぱり自分の命が大切なのね!?バカね!結局コンビなんてそんなものなのよ!!」
友近が石に力を込める。

「…馬鹿はどっちやろうな。」

川島が低く呟いた。
川島は渾身の力で友近の腕を掴み返すと、石の力を作動させた。
「たぁっ!!」
「きゃぁぁぁぁぁっ!!!」
勢い良く川島の体が影へと沈んでいく。
しかし友近だけは別で、勢い良く体を床に打ち付けた。
「な…なんでっ!?影は消えたはずじゃ…」
床で呻く友近の影の中から、川島が答えた。
「田村の力は『光』やで?それに照らされたら新しく影ができるに決まってんやろ?」
「でもっ…いつ…!?」
周りの蝶がいなくなったのを見て、友近から田村は急いで石を取る。
掠れた声で、しかし笑みを浮かべながら田村は答えた。
「俺らコンビやで?相方の考えてることくらい、目見れば判る。」
友近は田村を軽く睨みつけた後、気を失った。
力が抜けて、田村はその場にしゃがみ込んだ。

「川島っ!!かーしまっ!!」
田村が辺りを見回すと、その後ろの影から川島が現れた。
田村の表情が綻ぶ。
「川島っ!!これどうしたらええんや!!俺持っても暴走するんか!?蝶もう出てこんよな!?」
「煩い。」
川島はだるそうに答え、田村が握っている友近の石を見た。
―もう封印されている?
石は既に先程までの黒味が掛かった赤さから、ルビーのような透き通った色に変わっていた。
川島は軽く首をひねる。
「なぁ川島っ!!どうしたら…」
パニックを起こしている田村の頭をぺしりと叩いて、川島は友近の上に石を放り投げた。
「もう平気や。ええから帰るぞ。」
「は!?」
ふらつく足で進みだす川島を、田村が慌てて横から支えた。

「怒ってるか?勝手に石使おて。」
「…別に。」
答える川島の声は漫才前の「麒麟です」の時の声よりも低い。
これは怒ってるな、と田村は溜息をつく。
「俺はな、川島が心配やったから…」
「分かってる。」
「何があっても二人で背負っていこうってコンビ組む時に約束…」
「分かってる。」
「あのなぁ…」
田村は呆れて川島の顔を見る。
川島は正面を向いたまま口を開いた。
「今までの分、これからはお前に大量に背負わすから。」
「なんやそれ。」
田村と川島は顔を見合わせる。そして、お互いにニヤリと笑った。
「コンビに言葉は要らんのやろ?」
「単純だから田村の考えてることぐらいすぐ分かるんや。」
川島は照れたように顔を背けた。


「田村…早速背負って欲しいもんがある。」

「…は?」
同時に、がくんと川島の体が沈んだ。
支えていた田村の体も一緒に倒れこむ。
「川島っ!?」
「眠い…」
田村は慌てて川島を揺さぶるが、川島はすやすやと寝息を立てていた。
「どないせえちゅうねん!!」
意識を失っている友近、手の中にある輝く石、そして起きる気配のない川島。
それらに囲まれて、田村の悲痛な叫びだけが舞台に響き渡った。


 [麒麟 能力]