品川庄司編 [3]


353 名前: ◆QiI3kW9CIA   投稿日:04/11/30 20:50:27

決して彼自身が欲しいと思ったものではない手中の石は、
ぼんやりと周囲を薄い光で覆っていた。彼はそれをずっと眺めている。
その光が映す映像に、彼はただ見入っている。
映し出されているのは、乱暴に人を殴り続ける男。
何人も、何人もの倒れた男達は皆一様に動けず、
それを見て逃げ出す奴にさえ、追い討ちをかける。
顔を照らせば目が血走っていた。
本当に異常なのだなぁと彼は感心していた。
この光景にただ見入っていた、
彼もまた、異常だった。

やがて誰も動かなくなった。
動かない男達を尻目に、庄司は逃げるように走り去った。
沸き立つ闘志は完全に冷め切り、残ったのは罪悪感と優越感だけ。
その優越感は罪悪感以上で、自然に笑い声がでる。
これが楽しいものだと考えてしまう事が異常だというのはわかっているのに。

炭酸飲料を片手に帰路を歩く。
辺りはもう暗くなっていた。それがどれだけ長い時間殴り合いをしていたかを示す。
血はついていないが汗臭くなった服をどうしようか、というような事を考えていると、
突然、人にぶつかった。
「おい」
そう呼びかけられ、うざったそうに顔をあげると
「庄司」
「脇田さん?」
ペナルティの脇田が立っていた。真剣な顔をして。
「ちょっと話がある」
そう言うと、付いて来いと庄司を引っ張った。
「俺の家でですか?」


ドアの鍵を開けて、中に入る。中の空気が冷たい。
脇田は足早に靴を脱ぎ、勝手知ったる様子でリビングに入っていった。
何の話だろう。庄司は廊下を歩きながら考えた。
しかし大体内容はわかっていた。多分それしかなかった。
既に対話の準備は出来ているらしい脇田の向かい側に、庄司は座った。
「何の話ですか?」
真面目そうな顔をして尋ねる。
「お前、最近何してるんだ?」

予想どうりだ。

「何って、別に何も・・・」
「お前、本当に何もしてないか?」
脇田は疑り深く聞く。庄司は本当に何もないですと答える。
「関がひどい怪我してるって金成から聞いた。
 殴られた痕が腹に集中してて、痛くて動けないって。
 誰にやられたかって聞いたら、庄司にやられた。って。」
「本当に俺は何もしてないです。
 関が勘違いしてるんじゃないですか?俺と、誰かを。」
庄司がきっぱりと言い返した。脇田はそれを聞いて、下を向く。
「そうか。じゃあ、
やっぱりお前からそれを預からなくちゃならない。」
脇田のペンダントが、赤く燃えるように輝いた。
「それはお前にとって危険な物だ。俺が持っておくから、渡してくれ。」
少しずつ、脇田が庄司の方に近づく。
手中の石がゆっくりと熱くなるのを、庄司は感じていた。