364 : ◆8Y4t9xw7Nw :2007/02/25(日) 05:49:09
「――てっ!」 数秒、絵画じみた光景に思わず見入っていた山里は、目の前に降り立った彼女にぱちんと額を叩かれて、ようやく我に返った。 「アホ面」 いつもどおりのぶっきらぼうな口調でぼそりと言いながら、相方は押し付けるように鞄を渡してくる。 「……そこで殴る意味が分かんない……」 「あんな、あんまこっち向かんといて」 思わず漏れたぼやきをあっさり無視した相方の言葉に、山里はぽかんと口を開けた。 「……は?」 山崎ほんの数ミリ、口の端を上げた。 その表情は、呆れる程に今までと変わらない。 「目の辺り、腫れてていつも以上にキモい」 決して近付く事はない。けれど、離れる事もない。 そんな平行線のように、もうしばらくはこのままでいられると。 数秒、なんとも間抜けな表情で固まっていた山里は、一瞬、真っ赤に泣き腫らした目に何やらごちゃごちゃとした感情を浮かべ――。 「……だからさ、『言葉は凶器だ』って常々言ってるでしょ?」 すっかりセットの乱れた髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜながら、泣き笑いのような表情を浮かべた。 ――こうして、もとのやさしいおとこのこにもどったカイは―― 「――アホらし……」 昨日、一瞬でも御伽話に自分を重ねた事が、今は馬鹿らしく思えた。 お話のように、都合良く誰かが全てを解決してくれたりはしない。 童話に出てきそうな不可思議な力だけは、自分たちの周りに確かに存在しているけれど――あくまで結末は、それぞれの手に委ねられているのだ。 「……なんか言うた?」 「あ、いや、こっちの話」 一瞬訝しげに眉を寄せたあと、山崎はいかにも面倒そうに軽く溜息をつく。 「もう帰るけど」 「あ……あぁ。それじゃ」 「――また明日」 さっさとこちらに背を向けた相方が、何気なく放ったその一言。 その言葉自体は、ごくごく当たり前なものなのだけど。 「……うん。また、明日」 なぜだかまた泣き出したくなってくるのを必死で堪えながら、山里は精一杯の笑顔でその一言を返した。 全ては夜空に浮かぶ欠けた月だけが見つめていた、物語の終わり。 こうして冬は終わり、雪が解け。 そして、いずれは――春が、来る。 |
366 : ◆8Y4t9xw7Nw :2007/02/25(日) 05:57:35
前回トリップ変えるといいましたが、とりあえず今回まではこのままで。 そして、作中時間から丸二年(書き始めてから約一年半)経過して、 ようやく最後まで辿りつく事が出来ました。 本当はおしずさんの誕生日の翌日辺りに投下したかったんですが (作中時期がしずちゃんの誕生日の翌日〜1週間以内なので) とりあえず冬が終わるまでに完結できてほっとしています。 一回目辺りを今読み直すと凄まじく恥ずかしいんですけどねorz この長いお話を最後まで読んでくださった方に、心から感謝します。 |