鈴虫


228 :224@[鈴虫-1] ◆yPCidWtUuM :2005/09/25(日) 00:27:05 

いつも通りの朝、いつも通りの日常。 
自分の車の助手席でボーッとしながら相方の家に着くのを待つ。 

窓からのぞく空は灰色の雲に薄く覆われていて、それを通して降りそそぐ朝の陽光はにじむように柔らかい。 
今日はスタジオでの仕事だから、スッキリ晴れてくれてもよかったんだけどなあ、
などと思いつつ、あくびを一つ。 
あいにく、薄曇りの空にできた光の筋に美しさを感じるような感受性は持ち合わせていない。 

かぶった赤いキャップのつばをぐい、と左手でひっぱって、視界を遮断する。 
昨夜の酒が微妙に残っているので、少し休みたくなって目をつぶった。最近どうにも飲みすぎだ。 


「うぃーす」 


しばらくすると車はある路地で静かに停まった。 
でかい荷物を肩にかけた相方が適当な挨拶とともに後部座席に乗り込んでくる。 
とりとめもなく、たわいもない会話を車内に流しながら、テレビ局へと車はむかう。 
ここまではまったくもっていつも通り、かわりばえのしない朝の光景。 

…それがほんの少しばかりイレギュラーなものになったのは、二人が局の楽屋に入った後だった。 


扉に貼りつけられた「さまぁ〜ず 三村マサカズ・大竹一樹 様」の文字をちらりと確認して中に入る。 
撮りが始まるまでにはまだ余裕があるので、腰をおろした二人はのんびりと行動を開始した。 
思い思いにペットボトルに口をつけたり、スポーツ新聞に目を通したりして時間を過ごす。 

…そのとき、大竹が何か思い出したようにつぶやいた。 


「あー…しまった」 
「ん?」 
「クーラー消すの忘れた」 
「…帰ったらさみぃな」 
「さっみぃな」 
「高橋は?」 
「さっき何かちょっと外すとかっつって出てった、…っと、あれ、どこだ…」 


言いながら大竹はカバンをさぐり、タバコをとりだして火をつけようとする。 
しかし百円ライターはチチッ、と火花を発するだけで、いっこうに炎が出ない。 


「切れてやがる、お前の貸して」 
「あー…ちょっと待って、今出す」 


そう言ってジーンズのポケットをまさぐった三村だが、出てきたのはひしゃげたタバコの箱のみだった。 
いつもなら減ったタバコの隙間に入っているのだが、今日に限って目当てのライターはない。 
どうやら昨晩飲みに行った店にでも置いてきてしまったようだ。 


「…入ってねぇわ」 
「入ってねえって…どーするよ」 
「高橋…って今いねえんだった」 


ヘビースモーカーとまではいかないが、タバコが吸えないとそれなりに困る二人は顔を見あわせた。 
タバコそのものなら自販機に買いに行けばいいが、ライターとなるとちょっと面倒だ。 
しかたなく、廊下でスタッフにでも声をかけてみるか、と立ち上がろうとした三村に大竹が言う。 


「お前アレは?アレで何とかなんねーの?」 
「アレ?あー、石?」 
「おー、アレで『ライターかよ!』とかってツッコめばいいんじゃね?」 
「…お前、そのツッコミができるボケしろよ?」 
「無理」 
「じゃあ俺も無理だから、っていうかピューって飛ぶぞライター、ピューって」 
「軽めに言えばいいだろ…あ、『秋の夜に 鳴いてる鈴虫 焼いてみる』は?」 
「『なんでだよ!なんで焼いたの?焼かないでよ〜鈴虫を〜』…いや、これ『ライター』とかねえから」 
「それ『なんで焼いたの?ライター?』とかにすればいいんじゃね?」 
「あー、けどその『なんで』は『何使って』って意味じゃなくて『どうして?』の意味だけどな」 
「細けぇよ、いいよ、いけるよ」 
「…しょーがねーなー…」 


三村は、ごそごそと財布の中から緑と紫と白が縞模様をつくる美しい石をとりだした。 
手の中に石を握り込んで意識を集中させると、それはほんのりと淡く光る。 


「おし、準備できた」 
「んじゃいくぞ…『秋の夜に 鳴いてる鈴虫 焼いてみる』」 
「『なんでだよ!なんで焼いたの?ライター?… 


三村が『ライター』と口にしたとたん、ヒュッと空中にライターがあらわれ、大竹めがけて飛んでいった。 
至近距離だったせいかライターの速度が意外に速かったため、大竹は「うぉっ!」と小さく叫んでのけぞる。 
正面からぶつかるのは避けたものの、ライターは肩に当たってコロリ、と机に転がった。 


 …焼かないでよ〜鈴虫を〜』」 
「ってお前!バカ!」 
「へ?」 
「おわぁ!」 


三村が思わず最後までツッコみきってしまったせいで、今度は空中に一匹の鈴虫があらわれる。 
これまた結構な速度で大竹にむかって飛んでいく鈴虫を見送って、思わず三村はつぶやく。 


「あ、鈴虫…」 
「『あ』じゃねえ!」 


…鈴虫は見事に大竹の伊達眼鏡のふちにぶち当たり、
へろへろと緑茶のペットボトルの中に落ちて討ち死にしたのだった。 


その後大竹は「鈴虫くせえ…」などと微妙な悪態をつきつつ眼鏡を手入れし、タバコに火をつけ。 
三村は「ゴメンゴメン」などとあまり反省もなく謝りながら石をしまい、
またもとのようにのんびりと時間が動き始めた。 

5分後、先ほどのことを忘れてペットボトルに口をつけた三村は、
ブフォッ、と派手な音を立てて緑茶とともに鈴虫を吐き出すだろう。 
大竹は「汚ね!」と後ろに飛びすさり、机の上が大…いや小惨事になり、
楽屋は二人の笑い声やらうめき声やらでまた少しばかりにぎやかになる。 



…そんなちょっとした、日常の話。 


233 :224@[鈴虫] ◆yPCidWtUuM :2005/09/25(日) 00:36:19 三村マサカズ(さまぁ〜ず)
石:フローライト(螢石)
集中力を高め意識をより高いレベルへ引き上げる、思考力を高める

力:ツッコミを入れたもの、もしくはツッコミの中に出てきたものを敵に向かって高速ですっ飛ばす。
(例1)皿に「白い!」とツッコんだ場合、皿が飛ぶ。
(例2)相方の「ブタみてェな〜(云々」などの言葉に対し「ブタかよ!」とツッコんだ場合、ブタが飛ぶ。

条件:その場にあるものにツッコむ場合はそれほど体力を使わないが、人の言葉に対してツッコむ場合は言い回しが複雑なほど体力を使う。
また、相方の言葉に対してツッコむ場合より、他の人間に対してツッコむ場合の方が体力を使うため、回数が減る。
ツッコミを噛むとモノの飛ぶ方向がめちゃくちゃになる。ツッコミのテンションによってモノの飛ぶ速度は変わる。
飛ぶものの重さはあまり本人の体力とは関係ないが、建物や極端に重いものは飛ばせない。


今回は(例2)の方の能力を使わせてみました。
(例1)の能力や条件が文中に反映されていないので、設定にどこまで書くか悩んだんですが、とりあえず全部書いておきます。