トラスト・ミー [2]


495 名前:歌唄い ◆sOE8MwuFMg   投稿日:2005/05/15(日) 20:25:45 

陣内を中心にして緩やかなつむじ風がふわりと巻き起こる。公園の木がまるで生き物かの
ようにザワザワと揺れた。
陣内は感じていた。今までの生活からは味わうことの無かった、満ちてくる『万能感』。
力を使うごとに高まる興奮。――――解る。俺には…。この石の『力』が…。
 
周りにある砂利が重力に逆らって浮き上がり、目にも留まらぬ速さで男達めがけて飛んで
いった。小さな砂利でも、これだけのスピードで、しかも大量に命中すれば大怪我につな
がる。当たり所が悪ければ死に至ることもあるだろう。
「うわぁっ」
二人は咄嗟に頭を抱えてしゃがみ込む。次の瞬間、頭上ぎりぎりを大量の砂利が通過した。
塀に当たったそれは真っ二つに割れたり砕けたりする。ぱらぱらと砂埃がたった。

「あーっ!!なぁんで避けんねや、もう!」
陣内は悪戯の失敗した子供のように笑いながら地団駄を踏んだ。
「っしゃ、今度こそ…」
そう言うが否や、二人に狙いを定めるべく腕を振り上げる。再び宙に浮く砂利。
しかし、陣内の腕が振り下ろされることは無かった。
いや、振り下ろすことが出来なかった、と言った方が良いだろうか。
「……!………!?」


いつの間にか背後に立っていた誰かに、腕を掴まれたのだ。
陣内の心に一瞬「迷い」が生じ、浮き上がっていた砂利がバラバラと地面に落ちた。
状況が飲み込めず目を白黒させている内に、身体はいつの間にか羽交い締めにされ身動きが取れなくなった。
我に返り必死で抵抗するが、かなり強い力で押さえつけられているためびくともしない。


「痛い!痛いやんか!!誰や!?何すんねん!」
手首を掴まれる力がいっそう強くなり、陣内はパニックを起こし叫び声をあげた。
石が光る。ブロック塀にビシビシとひびが走り、ブランコの柱一本が完全にへし折れた。
だが腕を掴む手の力が緩むことは無い。


「お前ら、早よ逃げ」
頭上から陣内のよく知った声が聞こえた。洋画の吹き替えの声を彷彿とさせるその低音。
「あ…お前川島やな!手ぇ放せや!」
「逃げぇ!」
放心状態だった男達はやっと正気に返り、川島に軽くお辞儀をするとその場からバタバタと逃げだした。


「ま…待てこの…!!」
拘束する腕を振り払おうと陣内はもがくが、全く歯が立たずあっというまに地面に組み伏せられてしまった。

「陣内さんが大人しゅうなるまで離しませんよ」
腕の中の陣内は「離せ」と言って暴れ出した。空気が川島を威嚇するかのようにビリビリと震える。
川島は顔色一つ変えずに陣内が落ち着くのを待っていた。

どのくらい経っただろうか。暴れ疲れたのか、これ以上抵抗しても無駄だということを悟ったのか、
陣内はひとつ大きな溜息をついた。
木々のざわめきが段々と弱くなり、次の瞬間には水を打ったように再び夜の公園に静寂が訪れた。
川島はふう、と安堵の息を漏らした。


「川島ぁ、痛いねん。……離して」
下からはさっきとはまるで違う、いつもの穏やかな「陣内」の声がした。
川島は陣内を押さえつけていた手をやっとどけた。

「ぺっ、…口ん中砂入ったやないか〜…」
ゆっくりと起きあがり顔に付いた泥や砂を払う。
陣内は手首をさすりながら川島を見た。満月を背にした真っ黒いスーツの長身の男も陣内を見ていた。
逆光のせいで川島がどんな表情をしているのかが分からない。
だが痛々しいほどの哀愁が彼を取り巻いていることだけは陣内にもはっきりと分かった。

「相変わらず暗いな〜川島は…」
「陣内さん」
はぐらかそうとしたが、川島の怒りのこもった低い声に身体が反応し、陣内はしゅん、と項垂れてしまった。

 [麒麟 能力]